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梅雨 1

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「ここ、いいですか」

製パン実習の作業台に居る私に、立花 妃奈たちばな ひなが声をかけてきた。

「空いてるから、どうぞ」
私は誰だろうと、こだわらない。
隣にはいつも通り、柳田亜紀がいた。

今日は、食パンの実習だ。
材料を混ぜて、こねる。バターを加えて、またこねる。
まとめて、1次発酵。膨らんだら分割して丸める。
ちょっと休ませて、型にいれて発酵。
焼き上げたら、出来上がりです。

一緒の二人は自習メンバー。
真面目だし、手を抜かないので、出来上がりもいい。
トーストにして、食べる。
自分で作ると、何でも美味しい。

「八神さん、明日の選択実習が終わったら、ご飯に行きませんか?」
立花妃奈が誘ってきた。

「二人で?」

「ダメですか?」

「いいけど」
結局、約束してしまった。
伊桜君や柚木君、麻未以外で誘ってきた、初めてのクラスメートだ。
外でご飯を食べるのも、久しぶりだった。

翌日、カフェ実習が早めに終わって、駅の近くの本屋で待つ。
店内を見ていると、ビジネス書の特集に医療ビジネスの見出しがあった。
思わず手に取ってめくっていると、男性から話しかけられた。

「八神さん、こんにちは」
振り返ると、バイト先のお気に入りさんだった。

「こんにちは」
挨拶したが、名前も知らない。

「私はこういうものです」
財布から、名刺を出した。
受け取ると、高代佑樹と書いてあった。

「お硬い本を見てるので、気になりました」

「知り合いに医療関係者がいるので、目に止まったんです」

「食事でもしながら、ゆっくりとお話したいです。
都合のいい日を、お電話下さい」
今日は急いでるからと言って、去っていった。

何のことはない、ナンパだった。
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