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第1部
初夏
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初夏のカフェテリアは、新緑をわたる風が心地いい。
梅雨前のこの時期は、外のテラス席で昼食をとる生徒で溢れている。
川神 真希と橘 沙綾は、食後のお喋りで盛り上がっていた。
「沙綾さんのお母さま、お若くてとっても可愛い方ね」
「ええ、初めて会うと皆さん驚かれます」
橘沙綾の母、萌子は150cm無い位の小柄で、そのうえ童顔だ。
19歳で嫁いで来たので、現在38歳と若い。
自宅ではTシャツにジーンズ姿で家事をしてるので、何歳か分からなくなる。
GWに橘邸を訪問した際、真希には心残りがあった。
沙綾の兄、圭市に会えなかったことだ。
以前見せてもらったスマホの画面の圭市は、笑っていた。
父親の話ではぶっきらぼうな印象だったが、妹の前では笑うんだと驚いた。
「家族全員で食事中に、母がお友達を招待していいのよって言ったんですよ。
そうしたらいきなり兄が、フラれたって言ったんです。
父も母も弟も凍りついて、会話が止まっちゃいました」
ケラケラと笑いながら楽しそうに話す沙綾の発言には、真希も驚いた。
「それでどうなったの?」
「いや、それだけです。誰もそれ以上聞きませんでしたよ」
「沙綾さんも?」
「ええ、聞いても答えないのはみんな判ってるから」
「あなたのお父様が、お兄様とは挨拶くらいしか会話が無いっておっしゃてたわ」
「兄は、私と母には優しいんです。
一時期はピリピリしてたけど、最近はまた元に戻ってます」
「沙綾さんには判るのね」
「以前だとフラレた事なんか、絶対言わなかったはずですから」
真希にも兄がいるが5歳離れているので、ここまでの関係は無かった。
一度も会った事が無い橘圭市という人物に、真希は興味を引かれた。
GWが終わって2週間、もう冬服では暑くなってきた。
中間服が無かった秀学館では、3年前からブルゾンとパーカが公式アイテムに追加された。
今の時期は、夏服のシャツにパーカがマストな組み合わせだ。
こういうスポーティな格好は、背が高く肩幅の広い圭市を引き立てる。
「ウスッ」低い声で挨拶しながら、橘圭市は教室に入って来た。
全然笑わない感じは変わってないけど、話かけるなオーラが以前より減っている。
ほらみろ、クラスでお前に片思いしているもう一人、上杉 夢叶が近づいてきたろ。
粟田 璃乃が周りに聞こえないように、毒づく。
本人はまったく気づいてないけど、橘圭市はモテる。
学校中の人気者とかクラスで一番とかじゃないが、ある層の女子に猛烈に好かれるタイプだ。
上杉は小柄だが胸の大きな女だ、自分の武器を心得てる。
こいつに捨て身でこられたら、やっかいだな。
不意打ち攻撃で主導権を握り、キスまでは引き出した。
それでも圭市の心の底が見えてこない。
あれから何も言ってこないくせに、周りとの壁を少し下げて粟田璃乃を心配させる。
6時間目が終わって、進学塾に急ぐ生徒が増えた。
粟田璃乃が帰ろうとして一人になった時、不意に橘圭市が話しかけた。
「粟田、俺たちつき合わないか?」
「何で?」
「俺の決心がつけばアレするんだろ。だったらその前に告白するのが筋だろ」
「私はホテルに行こうと言っただけで、つき合いたいとか思ってない」
「俺は、片思いしてる相手から告られたらOKするって思ってた」
「そんな単純な話じゃないの。
高校3年の今の時期から付き合って、受験に集中出来るの?
もし合格しても、自分だけ遠くに行っちゃうんでしょう。
私は無理」
「判った。じゃあ無理してSEXしなくていい」そう言うと圭市は出て行った。
何でこうなる?
私は大好きな男の告白を断ったことになった。
好きなのに、粟田璃乃は困惑していた。
梅雨前のこの時期は、外のテラス席で昼食をとる生徒で溢れている。
川神 真希と橘 沙綾は、食後のお喋りで盛り上がっていた。
「沙綾さんのお母さま、お若くてとっても可愛い方ね」
「ええ、初めて会うと皆さん驚かれます」
橘沙綾の母、萌子は150cm無い位の小柄で、そのうえ童顔だ。
19歳で嫁いで来たので、現在38歳と若い。
自宅ではTシャツにジーンズ姿で家事をしてるので、何歳か分からなくなる。
GWに橘邸を訪問した際、真希には心残りがあった。
沙綾の兄、圭市に会えなかったことだ。
以前見せてもらったスマホの画面の圭市は、笑っていた。
父親の話ではぶっきらぼうな印象だったが、妹の前では笑うんだと驚いた。
「家族全員で食事中に、母がお友達を招待していいのよって言ったんですよ。
そうしたらいきなり兄が、フラれたって言ったんです。
父も母も弟も凍りついて、会話が止まっちゃいました」
ケラケラと笑いながら楽しそうに話す沙綾の発言には、真希も驚いた。
「それでどうなったの?」
「いや、それだけです。誰もそれ以上聞きませんでしたよ」
「沙綾さんも?」
「ええ、聞いても答えないのはみんな判ってるから」
「あなたのお父様が、お兄様とは挨拶くらいしか会話が無いっておっしゃてたわ」
「兄は、私と母には優しいんです。
一時期はピリピリしてたけど、最近はまた元に戻ってます」
「沙綾さんには判るのね」
「以前だとフラレた事なんか、絶対言わなかったはずですから」
真希にも兄がいるが5歳離れているので、ここまでの関係は無かった。
一度も会った事が無い橘圭市という人物に、真希は興味を引かれた。
GWが終わって2週間、もう冬服では暑くなってきた。
中間服が無かった秀学館では、3年前からブルゾンとパーカが公式アイテムに追加された。
今の時期は、夏服のシャツにパーカがマストな組み合わせだ。
こういうスポーティな格好は、背が高く肩幅の広い圭市を引き立てる。
「ウスッ」低い声で挨拶しながら、橘圭市は教室に入って来た。
全然笑わない感じは変わってないけど、話かけるなオーラが以前より減っている。
ほらみろ、クラスでお前に片思いしているもう一人、上杉 夢叶が近づいてきたろ。
粟田 璃乃が周りに聞こえないように、毒づく。
本人はまったく気づいてないけど、橘圭市はモテる。
学校中の人気者とかクラスで一番とかじゃないが、ある層の女子に猛烈に好かれるタイプだ。
上杉は小柄だが胸の大きな女だ、自分の武器を心得てる。
こいつに捨て身でこられたら、やっかいだな。
不意打ち攻撃で主導権を握り、キスまでは引き出した。
それでも圭市の心の底が見えてこない。
あれから何も言ってこないくせに、周りとの壁を少し下げて粟田璃乃を心配させる。
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「粟田、俺たちつき合わないか?」
「何で?」
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「そんな単純な話じゃないの。
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私は無理」
「判った。じゃあ無理してSEXしなくていい」そう言うと圭市は出て行った。
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