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第二章 転機

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「やっとMVが出来上がったぞ」
田中氏が連絡してきた。

レコード会社で、関係者の内覧が行われる。
初仕事なので、俺と聖苑、中園氏と田中氏で参加した。
映像監督や撮影スタッフと、再会する。
初めて、afterglowのメンバー2人とも顔を合せる。

最初に1分程のショートバージョンを鑑賞した。
俺とボーカルのKEIシーンから始まり、最後の雨の別れで終わった。
曲が大サビ前で終わるのが、残念だ。
でももっと聞きたくなる演出が、巧みだった。

「真凛、綺麗だね」

「そう?自分では判らない」

次に、フルバージョンが公開された。

冒頭にKEIが乗った車が出て行き、俺が一人で立っている。

雨の振り出しから、小雨になり、土砂降りに変わる。
その一部始終が、UPや引きで撮影されていた。
雨が顔を流れてるのは、涙と見間違う。
諦めに満ちた表情が、悲しげに見えた。

時々稲光で画面が白飛びしていたが、そのまま使われて臨場感を演出していた。
そんな映像に、KEIの歌声が響いている。

あの時の時間を思いだして、MVが終わった瞬間に涙が出た。
隣の聖苑が抱きついてきて、泣いている。

「真凛ちゃん、これ凄いよ」

「これはいい、でもよくOKが出たな」
田中氏が呟く。

「ショートバージョンの完全版も編集したんですけど、三角寛監督がこっちで行こうって」
レコード会社のディレクターが説明してくれた。

「俺の出てる映像より、これが一番いい」
ボーカルのKEIが言ってくれて、嬉しくなった。
他のメンバーも、俺に握手を求めてきた。

「次の曲も頼むね」KEIが言う。

「売れっ子になって、捨てないで下さいね」
俺が、返した。

「そっちこそ、有名になって出ないとか言うなよ」
メンバーみんなと一緒に笑いあって、別れた。

8月の終わり、「夏の果」が発売になった。
MVの入ったDX版にはThank you 出雲真凛とクレジットされていた。

net上に公開されてから、毎日見ている。
コメント欄に、このモデルが可哀想とか、綺麗とかあると嬉しくなる。
ただメンバーのファンからしたら、無名のモデルが出ているのは嫌な人もいた。

売れてお返ししたい、そう思うようになってきた。

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