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 意識が戻ると、俺はまずまだ痺れる手足を動かしてみた。

 幸いにも特に異常はなくて、それで目を開けて辺りを確認した。

 広いフローリングの洋室で、俺は大きなベッドの上にいた。

 手足は自由だ。しかし、動こうとして首に違和感を感じた。

 ああ、また、あの牢屋にいた時みたいに、頑丈すぎる首輪で繋がれている。

 その事実だけで、俺はガタガタと無様に震えて、それから、室内にもう一つ呼吸の音がすることに気付いた。

「灯!灯、起きて!」

 俺のいる場所からほど近いところに、これまた手足を縛られて拘束されている灯がいた。

「……ルナ?」
「ん!大丈夫?」
「ああ、おれは問題ない……少し頭が痛い」

 ここがどこかはわからないが、移動するために睡眠薬でも使ったのだろうと思った。

「ここはどこだ…?」
「知らない。でも、あんまり騒がしい音はしないから、どこか郊外のマンションだと思う」

 というのも、すぐ側にある窓は一面空が広がっていて、魔界都市の特徴とも言える雑多な喧騒は聞こえてこない。

「ルナは平気か?」
「俺、は……」

 平気なわけがなかった。今にも、無様に叫び散らして、ここから出せと言いたい。それくらいに、この重い首輪に恐怖感が募っていて、最悪の予想しかできなくて。

 そしてそれは現実になるわけで。

「ルナリア。元気そうだな。オレは寂しかったぞ」

 と、そいつは部屋に入って来るなり言った。

 ヴラドレンだ。俺をめちゃくちゃにして、恐怖を植え付けた張本人。

「や、ぁ……ヤダァ!!こっちに来るなぁ!!やだ、嫌だっ…!」

 無様にジタバタともがいて、大きなベッドから落ちた。そんな俺の首輪に繋がる鎖を引っ張って、ヴラドレンは嬉しそうに笑う。

「そんなに嫌がると、また最初から躾けないといけないな」
「ヒッ、ぁ……ハッ、ハッ……」

 呼吸が不規則に乱れる。それでも、そんなのお構いなしにヴラドレンは俺に近付いて、ベッドへ引き摺るように乗せると、俺の顎を片手で掴んだ。

「ルナリア、お前がまた逃げ出さないように、あの人間も連れて来たんだぞ。喜べ」

 ヒッ、ヒッ、と呼吸を繰り返す俺に、ヴラドレンはやっぱり容赦がなかった。

「さて、お前は何がしたい?すぐに下に欲しいか?それとも口の中を可愛がってやろうか?お前は壊れないからな、なんでも楽しめる」
「や、やめて……も、離してっ!」
「ハッ!離すわけないだろう。ああ、じゃあ早速あの人間に見せてやろうか?お前がオレの下でどうやって喘ぐかを」
「ヤダっ、やめろ!クソ!!お前、絶対殺してやるからぁ!ひゃああっ!?」

 ヴラドレンが俺の衣服に手をかけて、力任せに切り裂いた。そしてスラックスも下着も取り払って、俺の足を限界まで開くと、後ろの割れ目に舌を這わす。

「やぁああっ!!だめ、そんなとこっ、舐めるなぁ!!」
「うるさいぞ。少し黙ってろ」

 そう言うと、ヴラドレンは俺の首に手を回し、首輪の隙間から締め上げた。

「ッ、ぁ、カハッ……」

 体が酸欠でビクビクと反応する。もう俺には何も抵抗する術も、気力もなかった。

 朦朧としていると、体を反転させられて後ろからヴラドレンがのしかかって来た。

「おい人間、見てろよ。お前の大事なルナリアがオレに蹂躙されるところをな!」

 ハッハッハッと高笑いする声が、遠くの方で聞こえた。

 そして、あの、忘れもしない激痛が襲って来た。

「い、ぎぁ、あああっ!!いた、痛いっ!!ダメダメダメ、裂けちゃう、お腹が…ッ、オエッ!!」

 ゲホゲホと咳き込む。その吐き出したものが血で真っ赤に染まっている。

「しばらくしてない間に、また狭くなってしまったな。オレがまた丁寧に広げてやる」
「……ぁう、ゲホッ……お腹、変だ……そ、それ以上、奥に来ないでっ、ホントに死んじゃうっ、も、ぐちゃぐちゃだからっ、あああっ!!」

 ヴラドレンが俺の両手首を背中に回して、これでもかと引き寄せた。確実に入ってはいけないところに、ヴラドレンのデカ過ぎるものが入っているのを感じて、俺はまた血反吐を吐き出した。

 そんなことをされても、俺のこの吸血鬼として頑丈にできた体も精神も意識を保っていて、それがどんだけ辛いのか、誰もわからないだろう。

「おい、ルナリア、お前の男が見ているぞ。可愛らしい声で鳴いてみろ」
「ヒッ、ヤアアッ!?イヤ、ダメッ、ゲホッ……はぁ、も、やめて、お願い……何でもする、から……も、今日は終わって!!お願いッ!!じゃないと、ホントに、死んじゃうからぁ…!」

 そこで、ヴラドレンは俺の中に大量の熱を吐き出した。俺はもうすでに何度も吐き出していて、それ以上になんだかよくわからない体液でぐちゃぐちゃだった。

「まあ、時間はまだある。少し回復したら、また楽しもうな」

 そう言って、いやらしい笑みを浮かべてヴラドレンは部屋を出ていった。

 俺はグッタリとベッドに沈み、でもちゃんと意識はまだあって、それが逆に辛かった。

「ルナ……」

 灯の悲痛な声が聞こえる。酷い目に遭ったのは俺だけど、それ以上に辛いのは灯の方だろう。

 そう思うと、もしここに灯がいなかったら、俺はすぐにでも理性を失っていたから、だから一生懸命に意識を保とうとした。

「だ、だいじょ、ぶ……とも、り……ごめん、俺、躊躇わなかったらよかった……」

 孤児院で、容赦なく全員を殺していたら、こんなことにはならなかったかもしれない。

 でももう遅い。現実を受け入れて、できる最善のことを探すのだ。

「ちょ、と、待ってね……ゲホッ、今、腹が……なんか、ぐちゃぐちゃになっちゃってて……あれ…?ここ、どこだっけ…?俺は…、なんで、血が……ああ、灯、お腹すいたよ……」

 思考がよくわからない方へ霧散していく。

 そこへカイリが部屋へ入って来た。

「うわぁ……ルナ先輩、酷い顔してますよ。というか、あんたよくそれで生きてますね。今あんたの腹掻っ捌いたら、一体どこからヴラドレンの精液が出てくるのか、考えると面白いですね」

 そんなことを言いながら、カイリは手足を縛られた灯を引き摺って近付いてくる。

「ほら、ルナ先輩。お食事ですよ。あんたの大好きな灯先輩の血、たくさん飲んで元気になってください」

 フワリと、灯の香りがした。俺の傷付いた体は血を欲している。それはわかっている。本能だからだ。

 でもそれでいいのか、とまだ理性を保とうとしている俺が問う。

「や、やだ……いらない。と、とも、り……俺、お前を殺したくない、から……」

 はあ、と物欲しげにため息を吐いた。でも、必死で本能に抗おうと抵抗した。だって今、傷付いて飢えた俺は、本当に灯を殺す勢いで血を飲んでしまうだろうから。

 堅く口を閉ざし、目を背けると、カイリは舌打ちをこぼした。手にしたナイフを、灯の首にあてがって薄く傷をつける。

「あんたが飲まないならぼくがもらうけど。どうする?」

 灯の血の匂いが濃くなった。俺はそれでも、歯を食いしばって耐えた。それから、自分の腕に噛みついて、疼く牙を鎮めようとした。

「アッハハ!無様ですね、ルナ先輩!!でもあんたみたいに無様に生きて、絶望して死んでいった同類もいるんです。それを忘れないでくださいね!」

 そしてカイリは、俺の前に灯を放り出して部屋を出ていった。

「ルナ、ルナ!」
「……何?」
「おれの血を飲んでくれ。お願いだ。じゃないと、お前は本当に死んでしまう」

 別に極限まで飢えたところで、死ぬようなことはないが、回復が遅いと弱るので、だから俺たちは定期的に血を必要とする。

「いらない。灯、俺、もうどうなってもいいんだ。でも灯が逃がしてもらえるようにはがんばるね……」

 そこで俺は意識を手放した。

 やっと訪れた静寂に、俺は心からホッとした。
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