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 俺の仕事が決まると、葉一が見るからにホッとした顔をしていた。

 まだアルバイトだけど、いずれは社員にと言ってくれている。それだけで真っ暗だった道が明るく照らされたみたいに感じる。

 一番に喜んでくれたのはもちろん理人さんだ。

「底辺だった俺が、パートナーどころか恋人ができて、仕事もなんとなかなりそうなんて、夢見てるみたい」

 四月四日、この日は理人さんの誕生日で、当日朝に知らされた俺は慌ててお祝いの準備をした。とはいえ、いつも通り多少豪華な夕食を用意してケーキを買った程度だ。

 夕食の後、小さいけどちゃんとした丸いケーキを食べながら、理人さんが自分で買ってきた白ワインを二人で飲んだ。

「夢だったら僕が悲しいよ。これも現実じゃないってことになる。人生で一番嬉しい誕生日が夢だなんて思いたくない」
「いちいち大袈裟なんだよ。来年も、再来年もこの先ずっと俺が祝ってあげるのに」

 多少酔っていたのもあってか、つい思ったことが口から出てしまう。

「僕も君の誕生日は一生お祝いしたい。今から待ち遠しいよ」
「俺の誕生日、言ったっけ?」
「香奈ちゃんに聞いたよ。八月二十日だよね?」
「そうだけど……」

 なぜ香奈に?俺に聞いてくれたらよかったのに。

 ムスッとしていると、理人さんがニコニコしていることに気付く。

「僕が聞いたんじゃないんだ。いつだったか、聞いてないのに教えてくれてね。なんだったんだろう?他にも、実は虫が苦手だとか、辛いものが食べられないとか、生物が得意じゃないとか、猫舌だとか、色々ね」

 きっと香奈のお節介だ。でも理人さんに自分のことを知ってもらえるならそれはそれでいいか、なんて思っているのも事実だ。

「香奈はよく見てるな。子どもの成長に良くないかなって思って、できるだけなんでも苦手じゃないフリをしてきたんだけど」
「君は本当に立派なお兄ちゃんだよ。僕の姉は真逆だった。自分の嫌いなものは、積極的に僕に押し付けてくる」
「それはそれで楽しそうだけど」

 どうしようもない俺をいつも優しく受け入れてくれるのは、そのお姉さんのお陰なのかも。

 顔を見合わせて微笑む。はあ、カッコいいなぁ。

 などと見惚れている場合じゃない。今日は理人さんの誕生日。だけど、慌てていて誕生日プレゼントを選んでいる余裕はなかった。

 でも多分、理人さんは何を選んだって喜んでくれる。例え十円のお菓子でも。だからこそ、何にも選べなかったんだ。

「理人さん、あのね、誕生日プレゼントなんだけど」

 何が欲しいか本人に聞いて、それから考えようと思った。そのほうが潔い。

「何を選んだらいいか、全然わかんなくて、だから何が欲しいか正直に聞こうと思ったんだ。あんまり高いものは買えないけど」
「何もいらないよ。そんなことより少し遅れてしまったけど、どうぞ」

 そう言って、理人さんがテーブルに長方形の黒い箱を置いた。水色のリボンがちょこんと付いている。

「何?」
「君の仕事が決まって、未来が少しでも明るくなった記念に」

 どうぞ、と言われるがまま、思考停止状態の俺は箱を手に取った。大きさの割に重い。

 促されて蓋を取る。スッと外れた蓋の下には、キラキラと輝くシルバーの腕時計があった。

 全体的に重厚な作りだけど、文字盤の藍色に繊細な歯車の細工が少しのぞいている。文字や針もシルバーで、あまり派手すぎないデザインに好感が持てる。

 手に取って、改めてその重みに腰が抜けそうになった。

 絶対に安くはない。俺でもわかるブランド物だ。こんなの、俺には絶対に似合わない。

 気後れしていると、理人さんが微笑んだ。

「人生の節目には腕時計を贈るんだ」
「高城家の幸運のおまじない?」
「そうだよ」
「でも、」
「本当は君の初出勤日に渡したかったんだけど、取り寄せに時間がかかってね。待ってでもそのデザインにして正解だった。君の白い肌と繊細な美貌を邪魔しない美しい時計だ」
「ナチュラルに気持ち悪いけど……ありがとう」

 どうしてちょっとアレな表現しかできないんだろうと残念に思うけど、気持ちはとても嬉しい。

「こんなの貰って、俺、なんも用意してないなんて……本当、彼氏としてダメダメだよな」

 あと半日巻き戻してくれ。こんなことになるってわかっていたら、俺はもっとちゃんとプレゼントを選んだ、はずだ。

「いや、君は完璧だよ。そこに存在してくれているだけで、僕の未来は明るいんだ」

 真摯な瞳で、そんなふうに真っ直ぐ言われたら、もうどうしたって敵わないなと思ってしまう。

「時計、明日の朝理人さんがつけてくれる?」
「もちろん!」
「それと、誕生日プレゼントのかわりに俺のこと好きにしていいよって言ったら、理人さんはどうしたい?」

 割と毎回好き勝手されているけど、もうなんだっていい。俺の気持ちの問題だ。いつもは気付いたらよくわからない間に寝落ちしているけど、今日はなんだって受け入れる。

「なるほど。君はそうやって多くの客をたぶらかしてきたわけだ」
「違うよ!アイツらは二言目にはCommandを言うから、俺の声なんて聞いてもないよ。だから、こうやってお伺いを立てるのは理人さんにだけだよ」

 言ってから恥ずかしくなった。でも、理人さんを求める気持ちは本物だ。

「じゃあベッドへ行こうか」
「うん」

 理人さんの目がいつものゾクゾクする冷たい色を湛えて誘ってくる。

 寝室へ移動して、ベッドの端に腰を掛けた理人さんの足元にぺたりと座り、彼の顔を見上げる。期待に胸が高鳴り、まだ何もしていないのに腹の奥がジンワリと熱を溜め始める。

「触ってもないのに、もうそんな蕩けた顔してる。どんな妄想してるの?」
「も、妄想してるわけじゃ、ないけど」

 答えつつも頬が熱くなるのが自分で分かった。頭の中は確かに理人さんでいっぱいだ。

 理人さんは蔑むような視線を向けて、片方だけ口角を上げた。ニヒルな笑みにゾクゾクする。

Strip脱げ

 弾かれたように体が反応する。命令される度に、自分は本当に人間なのかと疑問が過ぎる。だけど、それもほんの一瞬で、いつのまにか服従する快楽が優っている。

 衣服を脱いで、理人さんの目を見る。これでいい?と確認するように。そうすると喜んで貰える。

「君は最高に綺麗だ。同じ世界に産まれたことを神に感謝しない日はないよ!」
「……褒めてる、んだよな?」

 素直に喜んでいいのかわからない。Subの本能が混乱を起こす。そんなことが出来るなんて、理人さんはある意味すごい。

「もちろん褒めてるんだよ」
「ん」

 理人さんの手が髪を撫でる。そのまま頬をなぞり、顎を持ち上げる。

Lick舐めて

 はぁ、と熱い溜息が漏れた。そろりと伸ばした手で理人さんの下肢のものを取り出す。まだ力のないそこを、舌を出して舐める。ピクピク反応するのが嬉しくて、徐々に口淫を深めていく。

「ふ、んん…」

 先端が上顎に擦れると、甘い痺れが自身の下肢に広がって行く。飲み込むように喉を開くが、理人さんの反応したものは大き過ぎて、自分で受け入れるのが大変だった。

 何でもいいから無理矢理にでも突っ込んでくれないかな、と被虐的な思考に支配される。結局のところ、虐められることに興奮するのだからどうしようもない。

 視線を上げて理人さんの瞳を見つめる。彼は恍惚とした目で見下ろしていた。視線が合うとニッと笑みを浮かべる。

 突然、下肢の中心に痛みが走った。

「うぐっ、ふ、んんっ」

 理人さんが足で俺の中心を踏みつけたのがわかった。思わず声が漏れたが、なんとか口を離さずに耐える。

 ぎゅうぎゅうと緩急をつけて踏みしだかれ、痛みと快感が繰り返し襲ってくる。フローリングの床と裸足の足の間で踏み潰されそうだけど、理人さんは本当に酷いことはしない。そんな安心感があった。

 口の中で理人さんのが硬く脈打つ。唇と舌を使ってさらに刺激する。

「出すよ。まだ飲んじゃダメだからね」

 コクコクと頷くと、理人さんのものが弾けた。熱く粘りのある液体が口の中に溜まる。独特の味が広がって、決して美味しいものではないのに、それが好きな人のものというだけで嫌悪感はない。

「舌出して」

 言いつけ通りに口を開けて舌を出す。理人さんの嗜虐的な目が輝く。喜んでもらえた。それだけで、もう他の何事もどうでもいいくらい嬉しくなる。

「飲んでいいよ」
「ふぁい……んく」

 飲み込んでまた口を開けると、理人さんが頭を撫でてくれた。

「あれ?恵介くん、舐めながら踏まれてイったの?可愛いね」
「……ぁ、ごめんなさい」

 夢中になっていた所為か、床と理人さんの足に吐き出しているなんて気付かなかった。

 当然とばかりに理人さんの足に舌を這わせる。汚してしまったのだから、綺麗にしなきゃと思ったのだ。蕩けてしまった頭で、自分が何をしているのかよくわからなくなっている。

「恵介くん、可愛いことしてくれるね。でも大丈夫だよ。こっちへおいで」
「……はい」

 促されるまま、ベッドへと上がる。

「君はどうされるのが好き?」
「俺…?ま、理人さんの好きなようにして、」
「僕への誕生日プレゼントに、君の一番好きなことを教えて」

 そう言われると急に羞恥心が込み上げてくる。理人さんにされることだったらなんでも気持ちいいけど。

「う……後ろ、から、するのが好き」
「そう。交尾みたいにするのが好きなんだ?」
「や、そういうわけじゃ」

 理人さんは楽しそうだ。わざと恥ずかしい言い方をして、俺が真っ赤になるのをニヤニヤと見て楽しんでる。本当に、こういう時だけタチが悪い。

「ほら、自分で言ったんだから、僕にわかるようにしてくれないと……Present見せて

 羞恥で手足が小刻みに震えている。本当に羞恥心だけか?…違う。歓喜に震えているのも事実だ。

 自分で言った通り、理人さんに背を向けて四つん這いになり、片手で尻を割って後ろの恥ずかしい所を晒す。外気に触れて、ヒクヒクと入り口が疼いた。

「前にも後ろからしたけど、ハマっちゃったんだ?」
「ん……だって、ものすごく気持ち良かったから」
「素直な君はとても可愛い。他にして欲しいことは?」
「……あの、さ、自分でも変態だなって思うんだけど、めちゃくちゃに噛んで欲しい」

 もうこの際なんでも言ってやれ。開き直って楽しもう。ほら、理人さんだって嬉しそうだ。

「いいよ」

 答えて、直後、覆い被さってきた理人さんが、俺の肩に思いっきり噛み付いた。

「いたぁっ、ああ……」

 ジンジンした痛みが襲ってきて、全身に電流を流したみたいだ。そのまま、背中全体を摩ったりキスしたり、歯を立てながら、いつのまにかローションを手にした理人さんの指が入り口を解し始める。

 緩く抜き差しを繰り返したと思えば、ぐるっと指を曲げて前立腺を押し潰してくる。

 しばらくして、理人さんが中心を押し当てて、ゆっくり挿入を始めた。今日はたくさん解してくれたので、圧迫感はあれど痛みはない。

 全部飲み込んで、熱い息を吐く。背中に理人さんの温もりを感じる。

「はぁ、あ……」
「動くよ」
「ん……ああっ!ゆ、ゆっくりしてっ」
「無理だよ」

 理人さんが構わず腰を打ち付けてくる。肌と肌がぶつかる音が部屋に響いて、脳みそが溶けてしまいそうだ。

 刺激に慣れてくると、無意識に理人さんの動きに合わせて腰を振っていた。何も考えられない。時々肩や首を強く噛まれ、そのたびに自分のものからとろりと体液が滴るのがわかった。

「おく、奥がいいっ、深いとこ、来て!」

 言葉が勝手に出てきて、恥じらいなく懇願する。理人さんは俺の両腕を掴んで引っ張り、膝立ちにすると、後ろから抱き抱えるようにして固定した。

 片手が俺のものを握り、もう片方の手で下腹部を押す。そうされると、腹の中の理人さんのものがくっきりわかるようで、なんとも言えない快感が増した。

「お腹ぁ、抑えないでっ、気持ちよ過ぎて…ヤダァ!」

 両手を理人さんの腕に乗せ、イヤイヤと首を振る。耳の後ろで、フフッと笑う声が聞こえて、さらに奥を攻め立て始める。

 快感に背筋が沿る。理人さんがまた耳元で、Cumイけと囁いた。

「んぐぅ、うあぁ……はぁ、はぁ」

 強制的な射精の快感に足がガクガクと震え、理人さんの手の中に吐き出す。それをわざと塗りつけるようにして、また上下に動く彼の手に翻弄される。

「もうヤダァ、やめ、っうん……離してぇ!」
「やめていいの?これからだよ?」
「あ、あぅ……やめないでぇ」
「どっちなの?」

 自分でもわからない。頭がバカになってしまった。

「たくさんイくところ見せて」

 理人さんが意地悪に言う。

 俺は無意識に頷いて、本当に何度も何度もイくまで解放してもらえなかった。
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