18 / 20
第1章:夏休み
第18話 初めての女湯へ。
しおりを挟む
「んじゃあ、夜の十時頃に迎えにくるから」
芽衣(俺の身体)と、一通りの話をし終わってから、兄貴は帰っていった。義姉さんと離婚したこと、その原因が義姉さんの浮気にあること、義姉さんは親権を放棄したこと。自分一人で育てられるか、正直自信がないこと。
そして、兄貴と一緒に住むことになったため、たびたび俺に預けるかもしれない、ということ(を、芽衣に向かって)。
兄貴は俺だと思って話していたわけだから、娘のことを気にしつつ小声になりながらも、かなり踏み込んだ内容だった。俺に話していなくてごめん、と兄貴に謝られた。
もともとは、どれだけ勉強を熱心に教えていたとしても咎める気はなく、離婚するつもりもなかったらしいが、浮気の現場をたまたま目撃したのが引き金となったらしい。
もともとは仕事にかまけて、碌に家に戻らなかった兄貴にも原因はあるかもしれないが、寂しさ故だとしても、浮気は一線を越している気もする。
どっちが悪いかなんて偉そうなこと、家庭を持ったことのない(彼女がいたことすらないけど)俺がとやかく言うことではないだろう。
兄貴がいなくなったあと、暫く考え込んでいた。子供なりに、いろいろ思うところがあるのだろう。あまり踏み込んだことは訊かないことにしよう。そう考えあぐねていると、切り替えられたようで、冷蔵庫の中を探りながら俺に訊いてきた。
「これから、ご飯を食べるんですけど、叔父さんは食べましたか?」
自分の身体から出ているとは思えない口調に違和感を覚える。俺って、こんなに声が野太かったのか。返答がなかったからか、芽衣は訝しげに振り返った。こっちに俺の顔を向けんな。
「あ、ごめんなさい。稼いで返します」
「ん?」
「叔父さんのお財布から、勝手に使っちゃって」
飯の話をしているのか。俺が難しい顔をしていたから、そこを糾弾されるのではないかと危惧したのだろう。確かに、俺の身体越しに見える冷蔵庫の中身は、いままでで一番充実していた。
「いや、別にそれはいいけど。食べなきゃ生きていけないだろ?」それを聞いて、少しは安心したようだ。俺は話題を変える。「仕事といえば、昨日はどうだった?」
「……みなさん、良くしてくださってます」
それは嘘じゃないか? 仕事内容は事前に言っていたとはいえ、初めてするには要領の掴めない仕事のはずだ。ただでさえ、空気のような存在なのに。仮に記憶喪失になったとしても、周りが丁寧に教えてくれるはずもない。
芽衣へ押しつけてしまったことに、いまさらながらに罪悪感を覚える。
「……無理、しなくていいんだぞ」
休みたかったら休んでも。そう言おうとして、自分の弱さに気づいた。
芽衣は笑顔で、俺に言った。「大丈夫です」
……こんな屈託のない笑顔、俺にもできるんだな。
それから、自分で調理した飯を食べ、それを片づけ、芽衣はひとりで家事をこなした。俺が住んでいたときより、部屋が小綺麗になっている。
数時間後、芽衣はトイレへ向かった。男の身体には、だいぶ慣れてきたようで、排泄は軽くこなしている。俺がついていかなくても心配はないな、と思って安心しきっていた矢先、芽衣は口をモゴモゴさせながら言い辛そうに話し始めた。
「あの、その……お風呂って……」
「……ん? 前に行っただろ? あそこを使え」
「いや、その。男湯……」
あー。言いたいことが、なんとなくわかった。さすがに風呂は、男女共用を使うのは難しいのだろう。トイレみたく、各部屋に一つついているならまだしも、自分の性とは別の銭湯には入りづらい。
「一週間くらい風呂に入んなくても平気だ」
「……はい」
俺がそうだから、芽衣に押しつける形になって申し訳ないが、そこまで無理して風呂に入る必要もない、と思った。芽衣と会ったはいいが、特になにか困ったり不便になっているわけでもないらしく、ただただ談笑しているうちに時間ばかりが過ぎていく。
もうすでに俺も芽衣も、異性の身体に順応しつつあったようだ。……俺、別にくる必要なかったんじゃないかな。
心の中では、さっさと部屋に戻って、オナニーの続きをしたい、そのことばかりを考えていた。女子の身体は絶頂を迎えても、すぐにムラムラが再燃してしまうようで、際限なく性欲が溢れ出してくる。
どうしてだろう? 女の子のほうが性欲は収まると思っていたのに、男の身体でいたときよりも、一日に費やすオナニーの時間が増えてしまった。心なしか、男のときより、女の子の身体でオナニーするほうが、気持ちよく感じる。
そういえば銭湯の話をしてて、最近は行っていないことを思い出した。なぜか、どういうわけか股間の奥が熱くなり、ないはずのアソコが勃ってしまいそうになる。
よし、決めた。きょうは、もう銭湯に行っちゃおう。芽衣には「男湯に慣れる訓練」などと適当な理由をつけて、俺はタンスの奥からタオルを引っ張りだす。引き出物でもらったヤツがあったはず。
俺がいつも使っている、身体に馴染みきったヤツは芽衣へ渡し、結婚式から帰ってきてそのまま放置していた新品を開封する。そして意気揚々と、銭湯へと向かった。
子供料金を番台へ支払い、青と赤に色分けされた暖簾の前で、不安そうな表情の芽衣とは別れる。頑張れー。自分の高鳴る鼓動を押さえつつ、俺は芽衣へ建前上のエールを送る。
幼児期に入ったかどうかは記憶にないが、少なくとも成人してからは初めてなのは間違いない。ましてや、少女の姿で堂々と入る経験など、世界広しといえどいないだろう。
しかし、それからすぐに、見渡す限りの垂れ下がった肉体を目の前にし、俺は後悔することになった。女児どころか、三、四十代よりも前の女性すらいやしない。そりゃそうだよな、と俺は思いなおす。
男湯にいたときでさえ、あまり男児は見かけたことがなかった。女湯に来たからといって、わんさか女児に出会えるはずもない。なんで期待してたんだろう、あほらし。自分のバカさ加減に、我ながら憐れみを覚えた。
小さな子が、しかも一人で入っているのが珍しいのか、やたらとおばさんたちが話しかけてくる。おばさんたちの相手をしているのも鬱陶しく思えてきたので「出よう」と思って立ち上がる。
そのとき扉が開き、歩幅の小さなペタペタという足音、幼く聞こえる歓声が耳へ飛び込み、俺はもう一度、湯船へ浸かることを決心した。
芽衣(俺の身体)と、一通りの話をし終わってから、兄貴は帰っていった。義姉さんと離婚したこと、その原因が義姉さんの浮気にあること、義姉さんは親権を放棄したこと。自分一人で育てられるか、正直自信がないこと。
そして、兄貴と一緒に住むことになったため、たびたび俺に預けるかもしれない、ということ(を、芽衣に向かって)。
兄貴は俺だと思って話していたわけだから、娘のことを気にしつつ小声になりながらも、かなり踏み込んだ内容だった。俺に話していなくてごめん、と兄貴に謝られた。
もともとは、どれだけ勉強を熱心に教えていたとしても咎める気はなく、離婚するつもりもなかったらしいが、浮気の現場をたまたま目撃したのが引き金となったらしい。
もともとは仕事にかまけて、碌に家に戻らなかった兄貴にも原因はあるかもしれないが、寂しさ故だとしても、浮気は一線を越している気もする。
どっちが悪いかなんて偉そうなこと、家庭を持ったことのない(彼女がいたことすらないけど)俺がとやかく言うことではないだろう。
兄貴がいなくなったあと、暫く考え込んでいた。子供なりに、いろいろ思うところがあるのだろう。あまり踏み込んだことは訊かないことにしよう。そう考えあぐねていると、切り替えられたようで、冷蔵庫の中を探りながら俺に訊いてきた。
「これから、ご飯を食べるんですけど、叔父さんは食べましたか?」
自分の身体から出ているとは思えない口調に違和感を覚える。俺って、こんなに声が野太かったのか。返答がなかったからか、芽衣は訝しげに振り返った。こっちに俺の顔を向けんな。
「あ、ごめんなさい。稼いで返します」
「ん?」
「叔父さんのお財布から、勝手に使っちゃって」
飯の話をしているのか。俺が難しい顔をしていたから、そこを糾弾されるのではないかと危惧したのだろう。確かに、俺の身体越しに見える冷蔵庫の中身は、いままでで一番充実していた。
「いや、別にそれはいいけど。食べなきゃ生きていけないだろ?」それを聞いて、少しは安心したようだ。俺は話題を変える。「仕事といえば、昨日はどうだった?」
「……みなさん、良くしてくださってます」
それは嘘じゃないか? 仕事内容は事前に言っていたとはいえ、初めてするには要領の掴めない仕事のはずだ。ただでさえ、空気のような存在なのに。仮に記憶喪失になったとしても、周りが丁寧に教えてくれるはずもない。
芽衣へ押しつけてしまったことに、いまさらながらに罪悪感を覚える。
「……無理、しなくていいんだぞ」
休みたかったら休んでも。そう言おうとして、自分の弱さに気づいた。
芽衣は笑顔で、俺に言った。「大丈夫です」
……こんな屈託のない笑顔、俺にもできるんだな。
それから、自分で調理した飯を食べ、それを片づけ、芽衣はひとりで家事をこなした。俺が住んでいたときより、部屋が小綺麗になっている。
数時間後、芽衣はトイレへ向かった。男の身体には、だいぶ慣れてきたようで、排泄は軽くこなしている。俺がついていかなくても心配はないな、と思って安心しきっていた矢先、芽衣は口をモゴモゴさせながら言い辛そうに話し始めた。
「あの、その……お風呂って……」
「……ん? 前に行っただろ? あそこを使え」
「いや、その。男湯……」
あー。言いたいことが、なんとなくわかった。さすがに風呂は、男女共用を使うのは難しいのだろう。トイレみたく、各部屋に一つついているならまだしも、自分の性とは別の銭湯には入りづらい。
「一週間くらい風呂に入んなくても平気だ」
「……はい」
俺がそうだから、芽衣に押しつける形になって申し訳ないが、そこまで無理して風呂に入る必要もない、と思った。芽衣と会ったはいいが、特になにか困ったり不便になっているわけでもないらしく、ただただ談笑しているうちに時間ばかりが過ぎていく。
もうすでに俺も芽衣も、異性の身体に順応しつつあったようだ。……俺、別にくる必要なかったんじゃないかな。
心の中では、さっさと部屋に戻って、オナニーの続きをしたい、そのことばかりを考えていた。女子の身体は絶頂を迎えても、すぐにムラムラが再燃してしまうようで、際限なく性欲が溢れ出してくる。
どうしてだろう? 女の子のほうが性欲は収まると思っていたのに、男の身体でいたときよりも、一日に費やすオナニーの時間が増えてしまった。心なしか、男のときより、女の子の身体でオナニーするほうが、気持ちよく感じる。
そういえば銭湯の話をしてて、最近は行っていないことを思い出した。なぜか、どういうわけか股間の奥が熱くなり、ないはずのアソコが勃ってしまいそうになる。
よし、決めた。きょうは、もう銭湯に行っちゃおう。芽衣には「男湯に慣れる訓練」などと適当な理由をつけて、俺はタンスの奥からタオルを引っ張りだす。引き出物でもらったヤツがあったはず。
俺がいつも使っている、身体に馴染みきったヤツは芽衣へ渡し、結婚式から帰ってきてそのまま放置していた新品を開封する。そして意気揚々と、銭湯へと向かった。
子供料金を番台へ支払い、青と赤に色分けされた暖簾の前で、不安そうな表情の芽衣とは別れる。頑張れー。自分の高鳴る鼓動を押さえつつ、俺は芽衣へ建前上のエールを送る。
幼児期に入ったかどうかは記憶にないが、少なくとも成人してからは初めてなのは間違いない。ましてや、少女の姿で堂々と入る経験など、世界広しといえどいないだろう。
しかし、それからすぐに、見渡す限りの垂れ下がった肉体を目の前にし、俺は後悔することになった。女児どころか、三、四十代よりも前の女性すらいやしない。そりゃそうだよな、と俺は思いなおす。
男湯にいたときでさえ、あまり男児は見かけたことがなかった。女湯に来たからといって、わんさか女児に出会えるはずもない。なんで期待してたんだろう、あほらし。自分のバカさ加減に、我ながら憐れみを覚えた。
小さな子が、しかも一人で入っているのが珍しいのか、やたらとおばさんたちが話しかけてくる。おばさんたちの相手をしているのも鬱陶しく思えてきたので「出よう」と思って立ち上がる。
そのとき扉が開き、歩幅の小さなペタペタという足音、幼く聞こえる歓声が耳へ飛び込み、俺はもう一度、湯船へ浸かることを決心した。
0
お気に入りに追加
63
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
男子中学生から女子校生になった僕
葵
大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。
普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。
強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!
女の子にされちゃう!?「……男の子やめる?」彼女は優しく撫でた。
広田こお
恋愛
少子解消のため日本は一夫多妻制に。が、若い女性が足りない……。独身男は女性化だ!
待て?僕、結婚相手いないけど、女の子にさせられてしまうの?
「安心して、いい夫なら離婚しないで、あ・げ・る。女の子になるのはイヤでしょ?」
国の決めた結婚相手となんとか結婚して女性化はなんとか免れた。どうなる僕の結婚生活。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる