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第1章:夏休み
第3話 二人っきりの夜。
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彼女いない歴=年齢で、童貞街道まっしぐら、三十路ロリコンのおっさんが? 二桁の年齢になったばかりの女の子と、一つ屋根の下で一晩を一緒に明かす? そんな夢のようなシチュエーションに、俺は嬉しさよりも緊張感を覚えていた。
「な、七畳しかないんだけど……」
熱帯夜のせいばかりではなく、自然と額から汗が噴き出す。悟られまいと取り繕いながら、俺は必死に、宿泊を断る理由を絞り出そうとした。俺がロリコンだと、カミングアウトする以外で。
「ベッドの心配だったら大丈夫です」沈黙に耐えかねていたとき、口を開いたのは芽衣のほうだった。「わ、わたしなら全然、そこらへんでも寝られます」
確かに、失念していた。この部屋に寝具は、俺がずっと使っている、この一枚しか存在しない。その可能性を芽衣のほうから潰してくれた。……ていうか、いいの? ここに泊まるのは決定事項なの?
「で、でも……」
年頃の女の子を、畳とはいえ直接床に眠らせるのは……と、言いかけてやめた。彼女がいいなら、こちらから申し出を断る理由なんて、本当にあるのだろうか。
芽衣は大きなリュックに宿題を詰め込み、今度は、歯ブラシや着替えなどを取り出していた。俺は、完全に灰と化した、元渦巻き型の線香を片づける。窓は、電気を点けるときに芽衣が閉めていた。窓ガラスに映った醜い自分を隠すために、俺はカーテンも閉める。
「それじゃあ、よ、夜はなに食う? 食べたいもの言って。注文するから」
「あ。二食も続けてデリバリーなのは申し訳ないので、わたしが作りますっ」
時刻は十九時を過ぎ、そろそろ腹も減ってくる頃合いだ。俺が提言すると、芽衣は名乗りを上げ、そそくさと台所まで行く。嬉々として冷蔵庫を開けるが、食材すら入っていない「すっからかん」な状態に(あるとすればビールくらい)、芽衣は二の句が継げないようであった。
「いまから買いに行ってもアレだし、デリバリーのほうが早いよ」
「いつも、あんな食事を……?」
「ん?」
「いえ」怪訝な表情をする芽衣だったが、次の瞬間にはパッと明るくなる。「買ってきます!」
「いまから?」
「えーっと……」芽衣は申し訳なさそうに言い添えた。「お金、貸してもらえませんか?」
「いや、貸すなんて水臭い。たった一人の姪っ子なんだし、いくらでもあげるよ」
「そ、そんなっ! わたしの我儘なので」
俺は気前よく、一万円札を取り出した。なにかをしてあげた気はしないが、彼女なりの一宿一飯の恩義かもしれない。その万札を見て、芽衣は目を大きく見開く。
「こ、こんなに……でも、これだけあったら、半月は持ちますね」
「たった一万円で?」
買い物に行かないから、ものの相場とやらがわからなかった。いままで、相当浪費していたに違いない。芽衣の手が触れようとした瞬間、俺は一万円札をひょいっと遠ざけた。
「俺もついていくよ。子供をこんな時間に、一人で外出させられないから」
久しぶりに外出したような気がする。すぐ近くのスーパーまで行くだけなのに、美少女と二人で夜道を歩いている状況に、俺の鼓動は自然と早くなっていく。芽衣の手前、格好つけて言ったはいいものの、こういう人混みは苦手だった。フードを目深に被って、カゴを持つ係だけに従事する。
「はぐれないでくださいね」
柔らかな感触が、手に伝わった。左手にはカゴを持ち、右手では女の子の手を握る。思いがけない芽衣の行動に、尋常じゃないほどの手汗が溢れてきた。もう、右手のことしか考えられない。まるで、神経が右手にしかなくなってしまったかのようだ。
「……あ、あの……手を放してもらえる?」
「あ。こっそり、お菓子を買おうとしてません?」
「お、お菓子?」
「ダメですよ。つまみ食いは」
小ぶりな指で脇腹を突かれ、今度は、そっちに全神経が集中したような感覚になる。なんだ、この可愛い生物は。わずかに腹が出てきたことは気になっていたし、俺の健康を気遣って料理を作ろうとしていることもわかる。少し、芽衣ママに甘えてみようかな。
芽衣は空いている右手で、食材を吟味している。入り口の果物売場から、ぐるっとスーパーを一周するまで、ずっと手を離すことはなかった。本気で俺が、お菓子を買うと思ったのだろうか……
帰宅後、芽衣は真っ直ぐ台所へ向かった。ぴょこぴょこと、小学五年生にしては小柄な少女が、小さな手足でテキパキと立ち働く。それがまた可愛い。裸エプロンを着させるために、エプロンぐらい買っておけばよかったかな。
料理が完成するまでの間、俺はテレビをつけてバラエティー番組を見始めるが、芽衣のことが気になりすぎて全く集中できない。女の子に手料理を作ってもらうなんて初めての経験だ。なんて感想を言おう?
料理の完成後、芽衣も興味深そうにテレビへ釘づけとなる。バラエティーもあまり見たことがないらしく、家ではNHKしか許されていなかったそうだ。会話を楽しみながら、二人して少し遅めの夕食を摂る。お金を取れるんじゃないかと思うほど、その料理は美味しかった。
「な、七畳しかないんだけど……」
熱帯夜のせいばかりではなく、自然と額から汗が噴き出す。悟られまいと取り繕いながら、俺は必死に、宿泊を断る理由を絞り出そうとした。俺がロリコンだと、カミングアウトする以外で。
「ベッドの心配だったら大丈夫です」沈黙に耐えかねていたとき、口を開いたのは芽衣のほうだった。「わ、わたしなら全然、そこらへんでも寝られます」
確かに、失念していた。この部屋に寝具は、俺がずっと使っている、この一枚しか存在しない。その可能性を芽衣のほうから潰してくれた。……ていうか、いいの? ここに泊まるのは決定事項なの?
「で、でも……」
年頃の女の子を、畳とはいえ直接床に眠らせるのは……と、言いかけてやめた。彼女がいいなら、こちらから申し出を断る理由なんて、本当にあるのだろうか。
芽衣は大きなリュックに宿題を詰め込み、今度は、歯ブラシや着替えなどを取り出していた。俺は、完全に灰と化した、元渦巻き型の線香を片づける。窓は、電気を点けるときに芽衣が閉めていた。窓ガラスに映った醜い自分を隠すために、俺はカーテンも閉める。
「それじゃあ、よ、夜はなに食う? 食べたいもの言って。注文するから」
「あ。二食も続けてデリバリーなのは申し訳ないので、わたしが作りますっ」
時刻は十九時を過ぎ、そろそろ腹も減ってくる頃合いだ。俺が提言すると、芽衣は名乗りを上げ、そそくさと台所まで行く。嬉々として冷蔵庫を開けるが、食材すら入っていない「すっからかん」な状態に(あるとすればビールくらい)、芽衣は二の句が継げないようであった。
「いまから買いに行ってもアレだし、デリバリーのほうが早いよ」
「いつも、あんな食事を……?」
「ん?」
「いえ」怪訝な表情をする芽衣だったが、次の瞬間にはパッと明るくなる。「買ってきます!」
「いまから?」
「えーっと……」芽衣は申し訳なさそうに言い添えた。「お金、貸してもらえませんか?」
「いや、貸すなんて水臭い。たった一人の姪っ子なんだし、いくらでもあげるよ」
「そ、そんなっ! わたしの我儘なので」
俺は気前よく、一万円札を取り出した。なにかをしてあげた気はしないが、彼女なりの一宿一飯の恩義かもしれない。その万札を見て、芽衣は目を大きく見開く。
「こ、こんなに……でも、これだけあったら、半月は持ちますね」
「たった一万円で?」
買い物に行かないから、ものの相場とやらがわからなかった。いままで、相当浪費していたに違いない。芽衣の手が触れようとした瞬間、俺は一万円札をひょいっと遠ざけた。
「俺もついていくよ。子供をこんな時間に、一人で外出させられないから」
久しぶりに外出したような気がする。すぐ近くのスーパーまで行くだけなのに、美少女と二人で夜道を歩いている状況に、俺の鼓動は自然と早くなっていく。芽衣の手前、格好つけて言ったはいいものの、こういう人混みは苦手だった。フードを目深に被って、カゴを持つ係だけに従事する。
「はぐれないでくださいね」
柔らかな感触が、手に伝わった。左手にはカゴを持ち、右手では女の子の手を握る。思いがけない芽衣の行動に、尋常じゃないほどの手汗が溢れてきた。もう、右手のことしか考えられない。まるで、神経が右手にしかなくなってしまったかのようだ。
「……あ、あの……手を放してもらえる?」
「あ。こっそり、お菓子を買おうとしてません?」
「お、お菓子?」
「ダメですよ。つまみ食いは」
小ぶりな指で脇腹を突かれ、今度は、そっちに全神経が集中したような感覚になる。なんだ、この可愛い生物は。わずかに腹が出てきたことは気になっていたし、俺の健康を気遣って料理を作ろうとしていることもわかる。少し、芽衣ママに甘えてみようかな。
芽衣は空いている右手で、食材を吟味している。入り口の果物売場から、ぐるっとスーパーを一周するまで、ずっと手を離すことはなかった。本気で俺が、お菓子を買うと思ったのだろうか……
帰宅後、芽衣は真っ直ぐ台所へ向かった。ぴょこぴょこと、小学五年生にしては小柄な少女が、小さな手足でテキパキと立ち働く。それがまた可愛い。裸エプロンを着させるために、エプロンぐらい買っておけばよかったかな。
料理が完成するまでの間、俺はテレビをつけてバラエティー番組を見始めるが、芽衣のことが気になりすぎて全く集中できない。女の子に手料理を作ってもらうなんて初めての経験だ。なんて感想を言おう?
料理の完成後、芽衣も興味深そうにテレビへ釘づけとなる。バラエティーもあまり見たことがないらしく、家ではNHKしか許されていなかったそうだ。会話を楽しみながら、二人して少し遅めの夕食を摂る。お金を取れるんじゃないかと思うほど、その料理は美味しかった。
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