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第1部:窃盗と盗撮
第13話 最も敏感なところ。
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その日の放課後。言われた通り、姫冠とマリヤは教室に残ってくれていた。部活もない小学校の、殆どの児童が帰った放課後というのは、先生たちだけの、伽藍堂とした空間だった。
くすぐったがりを克服したい、という思いだけで、姫冠はここにいるのだろう。それに付き合わされた一名とともに。帰りたかったけど、姫冠に引き留められたといった感じで、なにが始まるのかわからず、マリヤは不安げな表情を浮かべていた。一対一のほうがよかったが、まあいいか。
「先生。くすぐったくならない方法、知ってるの?」
「まあ……そうだね」
「えぇー! すごぉい!」
姫冠は、羨望の眼差しを向けてくる。咳払いをして、俺は毅然とした態度を努めた。初めから踏み込むのはよくない。俺は呼吸を整えてから話し始める。「まずは、くすぐったくなる原因を考えてみようか。どうして人は、くすぐったさを感じるんだと思う?」
「く、くすぐったくなる……げーいん? さわっちゃヤだから」
「外敵から身を守るためです。Protect yourself.」
姫冠へ言ったあと、マリヤに向けても言う。姫冠は小首を傾げた。「ガイテカ?」
「脇の下や足の裏、首回りというのは、とても繊細な部分で、ここを攻撃されたら、死んじゃうこともあるから。May die」
「しんじゃうの!」
「そう。だから、嫌なら無理にとは言わない。耐え続けるというのは、並大抵の精神力では全うできない。もちろん、それでもやりたいというのであれば、先生が全力でサポートするけどね。先生だって子供が死んでほしくないから」
姫冠は黙りこくってしまった。あまりにも脅かしすぎただろうか。「……」
「Oh...No...」
マリヤは思ったよりも深く受け止めてしまったらしい。そりゃあ、ワードワードでしか翻訳してなかったから、なんのこっちゃわかっていないのだろう。これからMay dieのあることをしようとしている、そう思ってもおかしくない。
実のところ、そんな危険性は全くないのだが。危険だと認識してくれたほうが、スムーズにことが運ぶかもしれない。
「先生に任せてくれたら、安全面を確保したうえで行うよ」
「しなないってこと?」
「そう。これから行うのは、絶対に安全。でもね。ほかの人は、そうは思わないかもしれない。ほかの先生だったり、ご両親だったり。だから、約束できる? ほかの人には、絶対に言わないって」
「……えっ?」
「言っちゃったら、子供を危険な目に合わせたって、先生が怒られちゃう。理解のない人たちによって攻撃されるのは先生だからね」
「それは……嫌!」
それは願ってもない反応だ。先生が逮捕されても関係ない、などと思うような捻くれた子供じゃなくてよかった。子供の優しさに、俺はひと安心する。「でしょ? じゃあ、黙ってようか。先生と、二人だけの秘密」
「うんっ! まもる!」
「偉い偉い」
俺は姫冠の頭を撫でた。彼女はぴくっと身体を震わせる。もしかして、頭を撫でられるのも弱いのか?
教室には三人だけ。二年教室は一階のいちばん端にある。普段、滅多な用事でもなければ、ここを人が通ることはない。医学的なアプローチをして信頼を勝ち取る。そしたら、こっちのものだ。
「まずは、どのくらい擽りに弱いかを確認しないといけないから。それじゃあ、手を広げて」
恐る恐る、彼女は腕を上げた。緊張しているからか、ほんのりと湿っている脇へ、指を這わせる。少し触れただけで、姫冠は身体をぷるぷる震わせた。
「あっダメぇ……」
小声で喘ぐ姫冠に、俺は思わず欲情した。顔のランク的にはそこそこでも、感じている仕草や顔はそそられるものがある。まるで屈服させているかのような状況に、俺は性的興奮を覚えた。
「うーん。なかなか重症だね、これは……」
「ジューショー?」
「そうだよ。このまま放っといたら、大変なことになっちゃうかも」
「えっ……」
少々、ビビらせすぎたかもしれない。ただ怖がらせるだけではなく、教師として、きちんと解決法を提示してあげなくては。
「自分が我慢するだけじゃなくて、相手を擽らせたいんだよね?」
頷く姫冠に俺は、吉川結実が入ってきた。慌てて引っ込める。
「ど、どうした?」
「忘れ物……うーん。あ、姫冠ちゃん。まだ残ってたの? いまからフィフティワンに行くんだけど、一緒に行かない?」
「行きたい!」
てっきり、擽られている(嫌なことをされている)から仲が悪いのかと思っていたが、一緒に道草をするくらいには仲が良さそうでなによりだ。もちろん擽り自体は「嫌い」なんだろうけど、結実に対しては「嫌悪」というより、対抗心から来る「親友」といった印象だ。
俺の顔を窺う姫冠に「続きは明日にしようか」と、さりげなく明日の放課後も残るよう伝えた。あまり、のっけから踏み込みすぎるのもよくないだろう。こういうことは、徐々に信用を勝ち取っていくしかない。逸る気持ちを抑えて、教師らしい一言・二言くらいを、結実たちにかけてやった。
「気をつけて帰るんだぞ。買い食いは、ほどほどにな」
くすぐったがりを克服したい、という思いだけで、姫冠はここにいるのだろう。それに付き合わされた一名とともに。帰りたかったけど、姫冠に引き留められたといった感じで、なにが始まるのかわからず、マリヤは不安げな表情を浮かべていた。一対一のほうがよかったが、まあいいか。
「先生。くすぐったくならない方法、知ってるの?」
「まあ……そうだね」
「えぇー! すごぉい!」
姫冠は、羨望の眼差しを向けてくる。咳払いをして、俺は毅然とした態度を努めた。初めから踏み込むのはよくない。俺は呼吸を整えてから話し始める。「まずは、くすぐったくなる原因を考えてみようか。どうして人は、くすぐったさを感じるんだと思う?」
「く、くすぐったくなる……げーいん? さわっちゃヤだから」
「外敵から身を守るためです。Protect yourself.」
姫冠へ言ったあと、マリヤに向けても言う。姫冠は小首を傾げた。「ガイテカ?」
「脇の下や足の裏、首回りというのは、とても繊細な部分で、ここを攻撃されたら、死んじゃうこともあるから。May die」
「しんじゃうの!」
「そう。だから、嫌なら無理にとは言わない。耐え続けるというのは、並大抵の精神力では全うできない。もちろん、それでもやりたいというのであれば、先生が全力でサポートするけどね。先生だって子供が死んでほしくないから」
姫冠は黙りこくってしまった。あまりにも脅かしすぎただろうか。「……」
「Oh...No...」
マリヤは思ったよりも深く受け止めてしまったらしい。そりゃあ、ワードワードでしか翻訳してなかったから、なんのこっちゃわかっていないのだろう。これからMay dieのあることをしようとしている、そう思ってもおかしくない。
実のところ、そんな危険性は全くないのだが。危険だと認識してくれたほうが、スムーズにことが運ぶかもしれない。
「先生に任せてくれたら、安全面を確保したうえで行うよ」
「しなないってこと?」
「そう。これから行うのは、絶対に安全。でもね。ほかの人は、そうは思わないかもしれない。ほかの先生だったり、ご両親だったり。だから、約束できる? ほかの人には、絶対に言わないって」
「……えっ?」
「言っちゃったら、子供を危険な目に合わせたって、先生が怒られちゃう。理解のない人たちによって攻撃されるのは先生だからね」
「それは……嫌!」
それは願ってもない反応だ。先生が逮捕されても関係ない、などと思うような捻くれた子供じゃなくてよかった。子供の優しさに、俺はひと安心する。「でしょ? じゃあ、黙ってようか。先生と、二人だけの秘密」
「うんっ! まもる!」
「偉い偉い」
俺は姫冠の頭を撫でた。彼女はぴくっと身体を震わせる。もしかして、頭を撫でられるのも弱いのか?
教室には三人だけ。二年教室は一階のいちばん端にある。普段、滅多な用事でもなければ、ここを人が通ることはない。医学的なアプローチをして信頼を勝ち取る。そしたら、こっちのものだ。
「まずは、どのくらい擽りに弱いかを確認しないといけないから。それじゃあ、手を広げて」
恐る恐る、彼女は腕を上げた。緊張しているからか、ほんのりと湿っている脇へ、指を這わせる。少し触れただけで、姫冠は身体をぷるぷる震わせた。
「あっダメぇ……」
小声で喘ぐ姫冠に、俺は思わず欲情した。顔のランク的にはそこそこでも、感じている仕草や顔はそそられるものがある。まるで屈服させているかのような状況に、俺は性的興奮を覚えた。
「うーん。なかなか重症だね、これは……」
「ジューショー?」
「そうだよ。このまま放っといたら、大変なことになっちゃうかも」
「えっ……」
少々、ビビらせすぎたかもしれない。ただ怖がらせるだけではなく、教師として、きちんと解決法を提示してあげなくては。
「自分が我慢するだけじゃなくて、相手を擽らせたいんだよね?」
頷く姫冠に俺は、吉川結実が入ってきた。慌てて引っ込める。
「ど、どうした?」
「忘れ物……うーん。あ、姫冠ちゃん。まだ残ってたの? いまからフィフティワンに行くんだけど、一緒に行かない?」
「行きたい!」
てっきり、擽られている(嫌なことをされている)から仲が悪いのかと思っていたが、一緒に道草をするくらいには仲が良さそうでなによりだ。もちろん擽り自体は「嫌い」なんだろうけど、結実に対しては「嫌悪」というより、対抗心から来る「親友」といった印象だ。
俺の顔を窺う姫冠に「続きは明日にしようか」と、さりげなく明日の放課後も残るよう伝えた。あまり、のっけから踏み込みすぎるのもよくないだろう。こういうことは、徐々に信用を勝ち取っていくしかない。逸る気持ちを抑えて、教師らしい一言・二言くらいを、結実たちにかけてやった。
「気をつけて帰るんだぞ。買い食いは、ほどほどにな」
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