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第1部:窃盗と盗撮

第3話 平凡な教師生活。

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 一時間目、算数の授業。俺のひざよりも少し高いくらいの机が、目に前に二十四脚ほど並んでいる。その間を移動しながら、俺は広げられたノートの中を確認していった。たまに、別のところも注視しながら。


 岡本志桜里おかもとしおりそばを通る。同級生に比べたら身長は高いほうだが、出るところも出ていない岡本の胸元はゆるゆるで、隙間すきまからリボンの装飾が見えていた。Tシャツの柄は水玉模様で、かげになって判然としないが、色は恐らくピンクだろう。


 俺は口許くちもとゆがめ、悩む児童たちに教えるフリをして、そっと深淵しんえんのぞくような形で、顔を近づける。いくら大人びて見えても、やっぱり子供。幼児体型に合った、ベストな下着だと思った。


 出席番号順に指名し、黒板に書かれた数式をかせていこう……と思ったが、いまだに男子の名前はおぼえていない。今、手許てもとに名簿はない。出席番号一番と二番の男子二人ふたりは飛ばし、適当な理由をつけて俺は出席番号三番の女子を指名する。


「それじゃあ、飯田いいださん。黒板に書いてみましょうか」


 背伸びしても、届くわけがない。チョークを手にした飯田夏央莉かおり足下あしもとへ、俺はすかさず踏み台を置いた。「ありがとォ、センセっ」と言う彼女へ微笑ほほえみ返す。それでも高さが足りないようで、背伸びすると靴底にある波状の模様が見えた。


 押さえるフリをして、踏み台にぴったりと貼りつき、ひらひらと動くスカートを凝視する。もう少し頭をかがめることができたら……見えそうで見えないのが非常に惜しい……


「センセ?」


 飯田夏央莉の声が聞こえ、俺はハッと我に返る。さっきまで見えていた靴底は、踏み台へ完全に着いており、スカートは強風でも吹かない限り、めくれることはないだろう。俺のことを見下みおろしている夏央莉が「これ、あってる?」といてきた。


 書き終えたようで、俺は黒板へ目を向ける。正解だ、素直にめると、彼女は嬉しそうにピョンピョンねながら、踏み台から下りていった。危ない危ない、ちょっと間違っていたら犯罪者だ。ほかの児童たちの目もあり、これ以上していたら、明らかに不自然な首の動きだったろう。


 いくら性に目覚めていない子供とはいえ、違和感には気づいてしまうかもしれない。それを、ほかの教師どもにチクられでもしたら……考えただけでゾッとする。今回は上手く立ち回って、三年前の二の舞にはなるないように、そうしなければ。ヤルとしても、絶対に他人には、バレてはならない。


 そう誓って、ここへやって来たのだ。


 四時間目の体育の授業は、男女が同じ空間で着替える。六月上旬から始まった水泳の授業も、今回で数回目になるらしい。恥ずかしがる子もちらほらといる中、男子に交じって羞恥心しゅうちしん億尾おくびにも出さない女子は、なんだかとてつもない強者つわものに見える。


 無防備に裸体をさらけ出しているのは、鈴木姫冠てぃあらと牧野未來くらいで、さすがに二年生の段階で教室を出て行く児童は、少数派のようだった。山下明子はること井上瑞葉みずは、それから我妻わづまマリヤが、隣りの空き教室へと向かって行く。


 クラスの子のほとんどは、出て行くまでもないけど、ラップタオルでガードしている。しかし、恥ずかしいというよりも、形式的に巻いているだけだったり、親に言われて「恥ずかしいことだ」と植え付けられていたりするのが大半だろう。


 その証拠に、ラップタオルの巻きが甘く、容易に中が見えた。足を浮かせて、下着を脱いだりスク水を着たりするたびに、別なる深淵が顔を覗かせる。しかし男子に関しては、隠しているほうが少数派だった。こんな恵まれた環境にいるにも関わらず、隣りの女子の着替えに見向きもせず、男同士でバカ騒ぎしている。


 こんなにも無垢な時期が、俺にもあったのだろうか。今となってはわからない。
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