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第二章 悪役令嬢のヤンデレ幼馴染編

第四話 学園長との対面

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 一週間後、体験入学の手続きを済ませた俺はシュラインガ―魔法学園の正門前に立っていた。

「よっし……にしても、やっぱりこれ堅苦しいなぁ」

 俺は現在自分が纏っている衣服に目をやる。
 それはシュラインガー魔法学園の制服だった。これを着るのが規則らしいので、それに従っているというわけだ。
 黒のワイシャツに白を基調としたブレザー。
 このような衣服を着たことは今まで無かったためどこか服に着せられている感が自身でも否めなかった。

「っし、行くぞゼノ」
『ふぁ~』

 意を決するように相棒に声を掛けるが、返って来たのは呑気な欠伸だけであった。
 この前の一件で、一心同体などと必死に俺に言ってきた彼女の面影は既に無い。

「お前なぁ、もうちょっと気合入れろよ。これはお前の問題でもあるんだぞ」
『知らんわ。実体化した今、儂は肌で世界を感じるのに多忙を極めとるからな」
「食って寝てるだけだろ……!」

 食いたい時に食べ、寝たい時に寝る……実体化しただけでやっていることは思念体の時と何も変わっていない。

『それにしてもなぜまた思念体にならんといかんのだ』

 ゼノが実体の伴った自堕落マシーンになったのを嘆いていると、彼女はそう不満を漏らす。
 そう、今コイツは再び思念体となり背中の魔剣に憑りつくというスタイルに戻っているのだ。

「仕方ないだろ。招待が来たのは俺だけで、こうしないと学園に入れないんだから」

 魔法学園内では、生徒は各々自分の武器の携帯を許可されている。
 そのためこうすることでゼノを学園内へと入れることができるのだ。

『はぁー、どうせなら学園というものを体験してやろうと思ったんじゃが、それもできんとなるとますますやる気が起きんのー。あー暇じゃのー、何か褒美が無いとやる気が起きんのー』
「……」

 わざとらしい口調。
 思念体で視線という概念が無いにも関わらずどこか俺に期待する視線すら感じる。

 実際調べるのは俺だ。ゼノのやる気が起きなくとも実は問題が無かったりする。
 だからゼノが何を言おうが関係ないのだが、

「……分かったよ。何でも言うこと一個聞いてやる」

 ゼノの機嫌を損ねると面倒くさい。俺は素直にコイツの横暴さに乗っかることにした。

『ほぉう! ふふーん、そうかー! やはり儂がやる気を出さんとダメかー! 仕方のない奴じゃのう!』

 ……うん、まぁ気持ちよくなってくれるなら良いだろう。

 背中でゼノが満足そうに鼻を鳴らす音を聞きながら、俺はシュラインガー魔法学園の門をくぐった。



「ようこそおいでくださいました」

 学園の敷居をまたいだ俺が向かった先は、学園の長である学園長が坐《ざ》する学園長室だ。

「ここ、シュラインガー魔法学園で学園長を務めております。イゾル・クリュゲイドと申します」

 席から立ち上がり、礼儀正しく挨拶する初老の人物はイゾルと名乗る。

「初めまして。スパーダです」

 コイツが俺に招待状を送った……? いや、可能性があるだけだ。サイカさんの言う通り、この学園内には権力を持った人間が数多くいる。
 一概にこの人を黒だと決めつけるのは早計だ。

 けど、探りを入れる必要はある。

「今回はこのような貴重な機会を頂き、ありがとうございます。つきましては、私に体験入学の案内を送ってくださった方に挨拶をしたいのですが、何分《なにぶん》顔も名前も分からず……何か存じ上げませんか?」

 俺の質問に、学園長はポリポリと頬を掻く。

「申し訳ありません。実は、詳しいことは私にも分からないのです」
「……学園長なのに、ですか?」
「えぇ、確かに私はこの学園の最高責任者としての立場を授かっている。しかし実際の所、この立場は置物に過ぎません。外部からの出資者や、王族の指先一つで私は潰れてしまう」
「つまり……学園長なのに、内部の情勢にあまり関与も感知もできないと?」
「そういうことです、すみません。情報に関しては表面上私に来るものは多いですが、意図的に伏せられているものも多い。私が間違いなく行うのは、新入生の前でのスピーチや今回のような特例の入学措置に最高責任者の立場として姿を見せることだけなのですよ」
「それは……」

 また随分面倒な……。

 そこまで言いかけて、俺は口を閉じた。

「しかし、あなたの気持ちはよく分かります。あまり力になれないかもしれませんが、学園長としてあなたに招待状を送った人物を探してみましょう」
「本当ですか!?」
「えぇ、もし今回の件に関して何か大きな裏があるのなら……学園長として見過ごすわけにはいきませんからね」
「ありがとうございます!」

 大きく頭を下げる。
 そして同時に、俺の中で学園長は白になった。
 
「では話はこれで。後は指定された教室へ向かってください。教室の前に君のクラスの担当教員がいるはずです」
「分かりました」

 そうして、俺は足早に学園長室を後にした。



「……」

 スパーダが退席し、部屋は再びイゾル一人となる。
 静寂が彼を包み込んで数秒後、

「っ!!」

 イゾルは椅子に座り、体を小刻みに震わせる。

「本当に、本当にこれでいいんだろうな……頼む、頼むぞぉ……!!」

 そして指から出血するまで、爪を噛み続けていた。
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