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第一章 Sランク冒険者のヤンデレ幼馴染、再起のロクデナシ編

第三話 幼馴染との再会

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 どこか懐かしい呼び名に反応した俺は顔を上げる。

「や、やっぱり! スーちゃんだよね!?」

 俺の事を「スーちゃん」と呼ぶ彼女は一目散に俺に近付き、俺の手を握った。

「やっと見つけた!!」
「え……? 何?」

 突然の事に事態が飲み込めない俺は女の視線を引き気味に見る。

『おいスパーダ、誰じゃそいつは』
「い、いや分からん……」
『まさかお前の女か!? 儂というものがありながら……!!』

 ゼノの怒気が背中から伝わった。

「ち、ちげぇよ!! 本当に分かんないんだって……!!」
「スーちゃん? さっきから誰と話してるの?」
「うぇ!? い、いやぁ……はは」

 キョトンと首を傾げる彼女に俺は乾いた笑いを浮かべた。

「え、えーと……」

 ポリポリと頬を掻きながら、俺は恐る恐る口を開く。

「あ、あのぉー。申し訳ないんですが、どちら様……でしょうか?」
「え……?」

 俺の質問に、一瞬だけ場の空気が凍り付いた気がした。

「わ、私の事……覚えてないの?」
「いっ……!?」

 な、泣く!? 何で!? 今俺が何したんだよ……!? ていうか泣くなメンドクセェ!!

 彼女は声を震わせ、目に涙を浮かべた彼女に俺は動揺と憤りを覚える。

 ん……? ちょっと待てよ……?

 しかしそれは……俺の記憶を呼び覚ます契機へと繋がった。

「……お、お前もしかして……リンゼか……?」

 泣き出しそうな表情、おとなしそうな風貌。
 それが昔よく遊んでいた少女の面影と重なる。

「っ!! うん、そうだよ!! 良かったぁー! 本当に忘れちゃってるのかと思ったよー!」

 感極まるようにリンゼは俺に抱き着いた。

 いや、まぁ普通に忘れてたけどな……。

 泣き出しそうになった時に随分と面影があったので思い出せただけであって、それが無ければ俺は彼女をずっと初対面の美人として捉えていただろう。

 だが、それは一切言葉に出さず俺は彼女を引き剥がした。

「そ、それにしても久しぶりだなぁ……何年ぶりだよ?」
「十年と二か月と五日ぶりだよ!」
「へー、そんなにか」

 やけに具体的な数字に対し、特に気にすることなく俺は答える。
 
「十年か、随分変わったなお前……確か親の都合で王都に引っ越したんだっけ?」
「そうだよ。あの時私、スーちゃんと離れたくなくて大泣きしてたもん!」

 リンゼの言葉を聞きながら、俺は彼女の姿を見る。
 艶やかな黒の長髪とそれに見劣りしない美しい顔立ち。
 服は白い制服を着ており、腰には剣を携えていた。

「お、おい誰だよあの美人……」
「何でアイツと話してるんだ……?」

 すると周囲からそんな言葉が俺の耳に入って来る。

 安心しろお前ら、何でこんな事になっているか俺が一番分からん。

 そんな事を思いながら、俺はリンゼの容姿を情報として脳に刻み込む。
 だがそこで、おかしい事に気が付いた。

「……って剣?」

 冷静にリンゼの容姿や恰好を分析していた俺は彼女の装備品に目を奪われる。
 そう……何故か彼女は帯刀していたのだ。

「あぁこれ? 私が普段クエストで使う剣だよ」

 俺が腰に目をやっていたのに気付いたのか、リンゼは自分の目線を腰の剣に向けながら答えた。

「ん? クエスト……?」

 ちょ、ちょっと待て……それじゃあまるで……。

「お、お前……冒険者なのか……?」

 信じられないものを見る目で、俺は彼女を見た。

「うん!」

 そして俺の質問に、彼女はきっぱりと答える。

「へ、へー。お前が冒険者って……何か意外だな」

 俺は昔のリンゼを思い出す。
 そこにはいつもおどおどしていて俺の後ろを付いて歩いていたイメージが非常に印象に残っていた。

「う、うん……。で、でも……約束だから」
「約束? 誰の?」

 あっけらかんとした様子で俺は彼女に聞く。

「い、言わせるの……?」

 すると、何故かリンゼは俺をチラチラを見ながら顔を赤く染め始めた。

「え……、いや、まぁ……うん」

 不可解な彼女の様子に疑問符を浮かべながらも、俺は肯定の返事をする。

「ま、まぁそうだよね。私が約束したんだもん……。私が言うのが筋だよね……!」

 そう言ってリンゼは一回、大きく深呼吸をして……俺を真っすぐに見つめると、言った。

「わ、私Sランク冒険者になったよ! だから、結婚してスーちゃん!!」
『何ぃ!?』
「……は?」

 リンゼの言葉の意味が、全く以て理解出来なかった。

 え、何……? 結婚……? リンゼと俺が……? どして……?
 っていうか……。

「お前Sランク冒険者になったの!?」

 それが一番驚きだった。

「う、うん! 大変だったけど、頑張ったよ!」
『おいスパーダ!! 今すぐその小娘を突き放せ!! これは命令じゃ!!』
「い、いやぁ……頑張ったって……」

 冒険者ランクはまず、自身の魔力測定と体力測定で暫定的にランクが決まりその後そのランクに応じたクエストを数回こなし、その実績でランクが正式に確定する。

 例えば暫定Cランクだったら、Cランクのクエストを行い失敗が多ければ一つ下がってDランク、全て成功すればBランクといったようにだ。

 ランクが確定すると、その後はその人物のクエスト実績に応じてランク昇格の話をギルド側から打診される。

 ただ、それがSランクとなると話は少し変わる。

 Aランクまでの昇格に関してはギルドの冒険者管理課の局員たちが決めるのだが、Sランクになるにはギルド内の最高機関である【慟哭の宴】で協議され、対象の冒険者を昇格するかどうか決議する。

 これがとてつもなく難関であり、Aランクまで昇格するのとはワケが違うらしい。俺はBランクだから良く分からんが。

 しかし、そのSランク冒険者にリンゼがなった。
 とてもではないが、信じられない。

「う、嘘だろ……?」
『おい聞いとるのか!? 返事をせい!!』

 俺は素でそう言った。

「う、嘘じゃないもん。ほら、これ」

 少し頬を膨らませたリンゼは、懐から冒険者の身分を示すための『冒険者ライセンス』を取り出した。

「……ホントだ……」
『え……おい儂を無視するな!! 泣くぞ、いいのか!?』
「うるせぇよゼノ! ちょっと待て!!」

 ランクを記載する箇所には、『S』の文字が刻まれている。
 つまり、リンゼは正真正銘Sランク冒険者という事だ。

「ね? だから、約束通り……私と結婚して!」
「い、いや……それは意味が分からんけど」
『お、そうじゃそうじゃ!!』

 即答した俺にゼノが同調した。

 リンゼがSランク冒険者になったことは素直に凄いと思うし尊敬する。
 だが、それが何故俺との結婚に結びつくのか……疑問でしかない。

「……え、どうしてそんな事言うの?」
「え、い、いやだって……意味分かんないだろ。Sランク冒険者になったから俺と結婚してくれって」
『スパーダの言う通りじゃ!! さっさと元の場所に帰れ!! この女狐が!!』

 当然の事を俺はリンゼに告げる。
 その時だった。

「や、約束……。約束したのに……」
「っ!?」

 ポツリ、ポツリと……言葉を漏らし始めた彼女から、とてつもなくドス黒い何かを俺は感じ取る。
 先程、俺が彼女を思い出せず空気を凍り付かせた事など比にならないくらいの危機感を俺は直感した。
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