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しおりを挟む「やめてよ、一緒にしないで 」
綺麗で真っ白な七瀬のお姫様。
どんなに汚されても、虐げられても、決してその美しさは色褪せることはなかった。
ワカッテイル、ジブント チガウ コトナンテ……。
ーーー穢らわしいっ! 汚い手で触らないでっ!!!
『何言ってんだよ。分かってて付いてきたんだろうが 』
ーーー違うわっ!
『でも、どこも行くとこねぇんだろ? 』
ーーー嫌っ!やだっ……、やめて……。
『へぇ、お前でも泣くのな。今まで女王様ぶってたのを足元に這いつくばらせんのは、すっげぇそそるわ 』
獲物を前にして舌舐めずりする男の吐息に、あるのは嫌悪と絶望。そして、嘔吐感。
『……ずっとウチに居てもいいぜ? その代わり、好きな時に抱かせろよ 』
止まらない涙。知らなかった……。 一番軽蔑していた場所まで堕ちるのは、あっという間のことだったのに。
「……私なんかと、一緒にしないでよ」
「美花ちゃん? 」
汚いのは私、そんなのは誰よりも自分が一番よく知っている。
その時、美花はカタカタと震える身体に気付いた。そして、やっぱりまだ駄目なのだと理解する。少し思い出しただけで、すぐコレだ。
クラリ……と目眩がして、耳鳴りの奥、美花を初めて散らした男の声がまた響いた。
『お前みたいなアバズレ、俺だから相手にしてやってるっていい加減分かれよ 』
ガンガンと、頭が割られるように痛い。
『また、他の男かよ。お前、不感症のくせして、どんだけだらしないの? 』
「美花ちゃん? 」
『逃げんじゃねーよ。この俺が一生囲ってやるって言ってんだからよ 』
「美花ちゃんっ?!」
ぐらぐらと揺さぶられる視界の中、足元に転がるジャガイモが目に映る。
「……あっ 」
「《あっ》じゃないよっ! 何で、泣いてるのっ!? 」
……えっ?
言われて目許に手をやると雫が付いて、美花は自分でも驚く。
「……どう、して? 」
小首を傾げて聞くと、「そんなの、僕が聞きたいっ! 」と浩峨はいきなり美花の手を取り、自分のシャツの裾を握らせた。
「何? 」
「しっかり掴まってて。とっとと買い物済ませて家に帰るから 」
そう言って落としたジャガイモを拾うと、籠の中に商品棚から取った他のジャガイモと一緒に放り込み両手でカートを押す。
「ちょっと、速……いっ 」
「絶対に離さないで、それから…… 」
正面を向いていて浩峨の表情は見えないが、その声は真剣で美花はゴクッ……と息を飲んだ。
何を怒っているんだろう? 私は、何かこの人を怒らせるようなことをしただろうか?
けれど続けられた言葉は、美花も思ってもみない言葉だった。
「……て、言うな 」
「え?」
「だから、自分のことを、《なんか》なんて言うな 」
一瞬、美花は言われた意味が分からなかった。
でも、固まる身体とは反対に、指先からじわじわと熱がかよっていくのはどうしてなんだろう。
立ち止まった足、緩んだ手に気が付いて、浩峨が後ろ手に手を重ねてくる。
「離すなって、言ったよ 」
「あっ……、ごめんなさい 」
反射的に素直に謝れてしまう自分が、不思議だった。
それを聞いた浩峨も、肩越しに振り向く。
「ねぇ、美花ちゃん 」
名前を呼ばれて顔を上げると、柔らかく微笑んだ浩峨と目が合った。
「帰ったら、すぐにシチューを作ろう? すっごく美味しいの、……作ろう? 」
心臓がぎゅっ……と締め付けられたように痛くなる。
気のせいじゃない、この人の傍は温かい……。
「失敗しても、美味しいのが出来るまで何度でも作ろう? 」
「うん…… 」
シャツを掴む指に、力が籠る。
胸の奥が苦しくて、喉の奥がやけに痛くて、美花は溢れだしそうなものを止めるのに困ってしまった。
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