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しおりを挟むどうして、この人の為と認めてしまったのか……。
きっと、この人があんな失敗作を躊躇いなく口にするから、驚いてしまっただけ。
あの後も、普通にあの焦げたシチューを夕食にしようとしようとした浩峨を美花は怒りながら、必死に止めた。
「えー、美花ちゃんが折角作ってくれたのに勿体ないよ。 これはこれで…… 」
「馬鹿言わないでよっ! こんなの食べたら、お腹を壊すわよっ! 」
ガリガリに固いのは、人参だけではない。 それに、ビーフシチューのような色合いになってしまったクリームシチューなんて、見るからに人間の食べ物ではない。
出来るなら、鍋の中のどんよりとした物体を、今すぐに目の前から消去してしまいたかったのだ。
……これだけは、絶対に引けない。
結局、暫しの言い争いの後、「しょうがないなぁ 」と、最後に折れたのは浩峨の方だった。
けれど、安心したのも束の間、交換条件を提示される。
「……じゃあさ、明日また作ってくれる? 」
「明日? 」
さっき、教えてくれるって言ったくせに……、不安な気持ちが表情に出ていたのか、直ぐ様、浩峨が美花の頭を撫でてきた。
「僕ね、明日は仕事が一応、休み 」
「休み? 貴方の仕事、休みがあるの? 」
本気で驚けば、浩峨がぶっ……と吹いた。
「ひどいなぁ。僕の勤めてるとこ、どんだけブラックなの? 」
「だって、仕事に行かない日なんてないじゃない 」
「いや、今までも休みはあったんだよ? 呼び出されて出て行ってただけで…… 」
ポリポリと頭を掻くと、体裁が悪いのか段々に語尾が小さくなる。
「だから、明日も《一応》ね 」
「それのどこがブラックじゃないっていうの? そもそも、貴方の仕事って何? 」
ずっと、持っていた疑問。きっと、こちらから聞かなければ、この人はずっと言わないに違いない。
「アレェ? 言ってなかったっけ? 」
「言ってないわよ 」
トボけたフリをした後、浩峨はニヤリと笑いながら片目を閉じる。
そして、言いたくないのかと思っていたのに、美花が想像していたよりもアッサリと白状した。
「……橘 浩峨、探偵さっ 」
◆◆◆◆◆◆
探偵……。
昨夜から幾ら考えても、モヤモヤとしたイメージしか湧かない。
あの独特な形の帽子と二重になったマントを着ている人物。
「ねぇ、やっぱりよく分からない。 探偵の仕事って、どんなことをするの? 私、シャーロック・ホームズくらいしか思いつかないわ 」
「うーん……、まだそんなこと考えてるの? 」
「だって、気になるのよ 」
「……あのね、美花ちゃん。 日本には小さな子どもも知ってる、ホームズさんよりも有名な名探偵がいるんだけど 」
「そうなの? 」
手に取ったじゃがいもを吟味しながら、浩峨が苦笑いする。
これから改めてシチューを作る為に、二人で近くのスーパーに買い出しに来ているのだ。
「そうか、美花ちゃんも深窓の令嬢だったんだよね 」
『も』という語句が引っ掛かって、ムッ……とする。
誰のことを言っているのか、直ぐに分かってしまったから。
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