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 か、か、可愛い。私の推しは、こんなに愛らしい表情もするのですね。

 その微笑みは、周りにキラキラと光を振り撒いて正視できないくらいに眩しい。


 「さぁ、ここだよ 」


 クラウス様が示したのは、庭園の一角にある薔薇園。

 思わず、興奮して感嘆の声が出る。


 まさかとは思っていた。だけど、こんなにも早く来ることが出来るなんて。

 ここの中にある四阿《あずまや》は、ラストに攻略対象がヒロインのエマに愛を告げる、『魚恋』屈指の聖地。

 プレイヤーは、入り口にある薔薇のアーチの色で告白して来る相手が誰なのか知ることが、出来るのだ。

 銀色のアーチに絡まる青みがかったピンクの蔦薔薇。ほぅ……と、うっとりとしてため息を吐くと、何故かクラウス様が私の手を取り跪いた。


 「え……、殿下? 」

 「ディーナ、僕と結婚してくれませんか? 」


 突然のことに、頭の中が真っ白になる。

 へ、あ、え? どういう事? まだエマだって登場していないのに、もうエンディング?!


 「ディーナ? 」

 透き通る様な青い瞳を見つめながら、茫然とする私に、クラウス様が心配そうに私の名前を呼んだ。


 「え、私、ですか? 」

 間抜けた様に聞いてしまった私に、クラウス様が頷く。


 「アドルフと共に、私のことを支えて欲しいんだ


 
 ーーーーーそういうことかぁ!!!

 私は心の中で大きく膝を叩いた。


  「そういう事でしたら、協力致しますわ! いえ!是非、協力させてください!! 」

 私はしゃがむと、クラウス様の手を取った。両手で包み込み、同じ目線で頷く。

 そうよ、そうよ! 私とクラウス様がとっとと結婚すれば、クラウス様はアドルフ様とは家族として一生の繋がりが出来て安泰だし、私は悪役令嬢として隣国の修道院に入れられることもない!
 すごいわ。流石、私のクラウス様!

 でも、婚約者という地位は危ない。これから現れるエマがクラウス様を狙ったら、クラウス様ルートのシナリオ通りに進んでしまう可能性もある。


 「クラウス様っ! 」

 私の反応に驚いているクラウス様。そうよね、私がアド×クラ推しなんて知らないんだから、びっくりするのも仕方がない。
 だけど、これは言わなくちゃ。


 「出来れば、直ぐに結婚致しませんか? 」


 クラウス様は、私の言葉に瞳を更に大きくする。

 あ、違った? 引かれた? そう言えば、クラウス様は私に「はい」と言えと言ったんだった。


 「申し訳ございません。《はい》……、でございますよね? 」

 しゅんとして、恐る恐る言えば、突然クラウス様が咳き込んだ。


 「殿下っ!大丈夫ですか?! 」

 けれど、その咳き込みが段々と笑い声に変わってきたのに気付く。



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