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しおりを挟むでもね、アレって作ってもらうのに結構、時間と手間が掛かるのよ。ゲーム内のディーナはエンディングまでチョココロネだったから、髪型を変えることは凄く悩んだ。だけど、他の人の手を煩わせるのに、どうしても居たたまれない気持ちの方が勝ってしまった。
「あの髪型は飽きたからやめたのです。それよりも、この髪型、素敵だと思いませんか? アンナは本当に天才だわ 」
うん、鏡の中の私にとても似合っている。ディーナは顔も身体も全てが派手に出来ているから、これくらいが丁度いいのよ。
アンナが一歩下がって、お辞儀をする。しかし、大満足な私に対し、何が気に入らないのかアドルフが眉間に皺を寄せた。
「……その髪飾りを着けて行くのか? 」
「この髪留めが何か? 」
中央の明るいブルーの宝石が眩い、金細工の髪飾り。綺麗なばかりじゃないの。
「いや…… 」
アドルフが口籠る。しかし、思い直す様に明るい声を出した。
「そうだ! ドレスはどうするんだ? この前新調した、あの赤いのなんかどうだ? 」
私はジトッと冷めた目でアドルフを見詰める。赤いドレスって、あの背中のバックリ開いたロングドレス。
「何を言ってるんですか。あれは今度の夜会用ですよ? その為に新調して頂いたんですよ? それにお昼のお茶会に、夜用のドレスなんて着て行く訳ないじゃないですか 」
「じゃあ、あれは、あのグリーンの……」
「こんなに素敵な髪留めを着けて行くのです。それに合ったドレスを着なければ。ねっ、アンナ 」
きっと賢いアンナは、お茶会のこともちゃんと覚えていて、ドレスまで考えて髪留めを着けてくれた筈。
思った通りアンナは、「はい、胸元に白いレースの付いた、スカイブルーのドレスをご用意しております 」
「まぁ、素敵! 」「駄目だッ!!」
思わず手を叩いた私の声は、アドルフ兄貴の大きな声に掻き消された。
何?! 何事!!
けれど、続いた言葉は私をもっと驚かせた。
「駄目だっ! 絶対に駄目! 王子に見初められたらどうするっ? 」
はぁっ?
「そんな、王子の瞳と同じ色のドレスなんか着て行ったら、勘違いさせるだろっ!! 」
そうか、アンナはそこまで考えて……。でも推しのカラーを身に付けていくのは、信者として当たり前のことよね。流石聡いわ、アンナ。
うんうんと頷きながら、私は椅子から立ち上がるとアドルフ様に近付いた。
そんなことより……。
「要らぬ心配ですわ、お兄様 」
嫌だわ、顔がニヤけてしまう。口元を隠しながらクイクイと肘でつつけば、アドルフ様が顔を顰めた。
「何だ? 」
「もうっ、心配なさらずとも大丈夫ですわよ 」
王子の気持ちが他に向いてしまうのが心配なのね。やだわー、可愛い。
でも、私は2人の気持ちを分かっているし、何なら2人を応援している、最も安全な人間だから。
「それに私がクラウス様と仲良くなった方が、お兄様の為になるでしょう? 」
私という存在を隠れ蓑に、逢瀬を重ねることだってできる。私はそれをちょっとだけ覗かせてもらうだけでいい。あっ、考えただけでヨダレが。
「ディーナ、お前……。僕の為とか、考えなくてもいいんだ。父上と母上が何を言おうと、お前が幸せになることが1番大切なのに 」
ん? お父様からもお母様からも、何も言われてないぞ? もしかして、アドルフ様とクラウス様のこと気付いてる?……まさかね、それはないわー。
「お兄様、私にとってお兄様(と、クラウス様 )が幸せになることが1番大事なのです 」
「ディーナ!! 」
強く抱き締められて、私も幸せな気持ちになる。
そんなに感激してくれて嬉しいわ、アドルフ様。クラウス様(と私)を幸せに出来るのは貴方しかいないの。だから頑張って。
この時、私は何も分かっていなかったのだ。
自分の常識、他人の非常識。この言葉を私は度々痛恨することになる。
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