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File04. 容疑者・廉
04. 一報の電話。容疑者の親友
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眠たい目を擦りながら体を起こすと、テーブルに掛けてある両親の写真に向かって挨拶をする。
「おはよう。父さん、母さん。」
これは俺の日課だ。けれど、5歳の頃に両親を亡くしている俺には、彼らがどんな人だったのか、ぼんやりとした記憶しかない。
「さて、と。」
軽く伸びをして、自分の部屋から出てリビングへ向かう。そのまま炊飯器の前に立ち、中を覗き込む。
「あー、昨日全部食べちゃったんだっけ。」
空っぽの炊飯器に肩を落としながら、朝食をどうしようか考え込む。すると、不意に家の固定電話がジリリリリ…と鳴り出した。
「え、こんな時間に?セールスか?」
普段ほとんど鳴らない電話に首を傾げつつ、受話器を取って耳に当てる。
「もしもし?どちら様でしょうか?」
「ガキンチョ1号か!?」
聞こえてきたのは、松本刑事の特徴的なハスキーな声だった。しかし、いつもの落ち着いた雰囲気とは違い、声が少し震えているように感じた。
『松本刑事?どうしたんですか、こんな朝早く。』
『大変だ!お前の相棒、ガキンチョ2号が――殺人の容疑で捕まった!急いで今から言う住所に来てくれ!』
『………は?』
言葉が理解できない。いや、理解したくなかった。受話器を握る手が力なく滑り、カタンと床に落ちる。
『おい!聞こえてるのか!?ガキンチョ1号、早く来い!』
松本刑事の怒鳴り声にハッとして、慌てて受話器を拾い上げる。
『わかりました!今行きます!』
受話器を置くと、俺はパジャマを脱ぎ捨て、適当に引っ張り出した洋服に袖を通した。上からコートを羽織り、教えられた住所へ向けて全力で走り出す。
(嘘だ、嘘だ。廉が人を殺すなんて、ありえない。絶対に間違いだ。)
頭の中で繰り返す言葉。それを打ち消すように足を動かし続ける。不安と焦りで息が上がるのも気にせず、ただ前だけを見据えて走り続けた。
走り始めて30分。ようやく現場が見えてきた。道路脇には数台のパトカーが止まり、赤と青のライトが不気味に点滅している。その周りには野次馬の人だかり。
「……廉!」
俺は人混みをかき分けて最前列に出る。そこにいたのは、手錠をかけられ、警察官に挟まれた廉だった。
「廉!」
体が勝手に動いた。「KEEP OUT」と書かれたテープをくぐり抜け、廉に駆け寄り、その体を抱きしめた。
「廉、どうしたの?何があったんだよ?」
「悪い……こんな姿、見せたくなかった。」
廉は弱々しく苦笑すると、うつむいたまま続けた。
「俺、しばらく牢屋にぶち込まれるかもしれない。」
「……嫌だ!廉、俺を置いていかないでくれよ!廉がいないと、俺、駄目なんだ!」
俺の声は震えていた。涙が溢れるのを止められない。
「泣くなよ……。」
廉は俺の肩を掴んで優しく言った。
「約束したろ。一人にはしないって。……無実が証明できればすぐ戻るから。」
「……俺が助ける。必ず真犯人を暴いて、廉を救うから!」
俺の言葉に、廉は少しだけ笑ってうなずいた。だが、その瞬間、警官が俺と廉を引き剥がした。
「ほら、行くぞ!」
廉は振り返る間もなく、パトカーに押し込まれる。そしてサイレンを鳴らしながら、廉を乗せた車は遠ざかり、視界から消えていった。
その場に立ち尽くす俺の横から、松本刑事が現れた。
「……悪かったな、ガキンチョ1号。俺も粘ったんだが、どうにもならなかった。」
悔しそうに眉間に皺を寄せる松本刑事。その姿を見ても、俺の心に渦巻く虚無感は消えなかった。
「おはよう。父さん、母さん。」
これは俺の日課だ。けれど、5歳の頃に両親を亡くしている俺には、彼らがどんな人だったのか、ぼんやりとした記憶しかない。
「さて、と。」
軽く伸びをして、自分の部屋から出てリビングへ向かう。そのまま炊飯器の前に立ち、中を覗き込む。
「あー、昨日全部食べちゃったんだっけ。」
空っぽの炊飯器に肩を落としながら、朝食をどうしようか考え込む。すると、不意に家の固定電話がジリリリリ…と鳴り出した。
「え、こんな時間に?セールスか?」
普段ほとんど鳴らない電話に首を傾げつつ、受話器を取って耳に当てる。
「もしもし?どちら様でしょうか?」
「ガキンチョ1号か!?」
聞こえてきたのは、松本刑事の特徴的なハスキーな声だった。しかし、いつもの落ち着いた雰囲気とは違い、声が少し震えているように感じた。
『松本刑事?どうしたんですか、こんな朝早く。』
『大変だ!お前の相棒、ガキンチョ2号が――殺人の容疑で捕まった!急いで今から言う住所に来てくれ!』
『………は?』
言葉が理解できない。いや、理解したくなかった。受話器を握る手が力なく滑り、カタンと床に落ちる。
『おい!聞こえてるのか!?ガキンチョ1号、早く来い!』
松本刑事の怒鳴り声にハッとして、慌てて受話器を拾い上げる。
『わかりました!今行きます!』
受話器を置くと、俺はパジャマを脱ぎ捨て、適当に引っ張り出した洋服に袖を通した。上からコートを羽織り、教えられた住所へ向けて全力で走り出す。
(嘘だ、嘘だ。廉が人を殺すなんて、ありえない。絶対に間違いだ。)
頭の中で繰り返す言葉。それを打ち消すように足を動かし続ける。不安と焦りで息が上がるのも気にせず、ただ前だけを見据えて走り続けた。
走り始めて30分。ようやく現場が見えてきた。道路脇には数台のパトカーが止まり、赤と青のライトが不気味に点滅している。その周りには野次馬の人だかり。
「……廉!」
俺は人混みをかき分けて最前列に出る。そこにいたのは、手錠をかけられ、警察官に挟まれた廉だった。
「廉!」
体が勝手に動いた。「KEEP OUT」と書かれたテープをくぐり抜け、廉に駆け寄り、その体を抱きしめた。
「廉、どうしたの?何があったんだよ?」
「悪い……こんな姿、見せたくなかった。」
廉は弱々しく苦笑すると、うつむいたまま続けた。
「俺、しばらく牢屋にぶち込まれるかもしれない。」
「……嫌だ!廉、俺を置いていかないでくれよ!廉がいないと、俺、駄目なんだ!」
俺の声は震えていた。涙が溢れるのを止められない。
「泣くなよ……。」
廉は俺の肩を掴んで優しく言った。
「約束したろ。一人にはしないって。……無実が証明できればすぐ戻るから。」
「……俺が助ける。必ず真犯人を暴いて、廉を救うから!」
俺の言葉に、廉は少しだけ笑ってうなずいた。だが、その瞬間、警官が俺と廉を引き剥がした。
「ほら、行くぞ!」
廉は振り返る間もなく、パトカーに押し込まれる。そしてサイレンを鳴らしながら、廉を乗せた車は遠ざかり、視界から消えていった。
その場に立ち尽くす俺の横から、松本刑事が現れた。
「……悪かったな、ガキンチョ1号。俺も粘ったんだが、どうにもならなかった。」
悔しそうに眉間に皺を寄せる松本刑事。その姿を見ても、俺の心に渦巻く虚無感は消えなかった。
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