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File04. 容疑者・廉
03.偽りの容疑者
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(あぁ……なんて可愛い顔をするんだ、こいつは。)
バイトを終えた俺は、歩夢の家にお邪魔していた。歩夢は一人暮らしだから、基本的に断られることはない。それに甘えて、俺はこうして少しでも長く歩夢と一緒にいたいと思っている。
「そういえばさ、さっきの用事ってのは終わったの?」
ゲームのコントローラーを握りながら、歩夢がふと尋ねてきた。その何気ない仕草さえ、俺には妙に愛おしい。
「あー、ごめん。実はさ、これから一週間くらい、一緒に帰れないかもしれないんだ。」
「え、マジで?つまんねぇ……」
歩夢がしょんぼりとした声を漏らす。下唇を少し突き出したその表情に、胸がきゅっと締め付けられた。
「悪い!でもさ、用事が終わったら必ず歩夢の顔、真っ先に見に行くから。」
俺は慌ててフォローするように言葉を重ねる。そう言うと、歩夢の顔が一瞬で明るくなった。
「えへへ、やった!」
無邪気に笑うその顔に、俺の心臓がまた跳ねる。この純粋さが、俺をどうしようもなく惹きつけるんだ。
そうして俺たちは、駄弁りながらゲームに没頭した。画面越しに相手を攻撃したり、ふざけ合ったりするその時間は、俺にとって何よりも幸せな瞬間だった。
夜も更けてきた頃、歩夢がふとあくびを漏らした。
「今日はもう遅いし……泊まってけば?」
「いいの?」
「いいよ。断るわけないだろ。」
照れ臭そうに目を逸らす歩夢を見て、俺の口元が自然と緩む。そうだ、こいつはいつだって俺を受け入れてくれるんだ。この優しさが俺の心を救う。
その夜、俺は歩夢の隣で眠ることにした。少しでも、この温もりを近くで感じられるように。
バイトにも大分慣れてきて、必要な資金もかなり貯まってきた。今日は土曜日で学校も休みだから、フルでシフトに入れてもらっている。店長は朝早くから商品の発注に出かけていて、もう1人のバイトの高木さんは夕勤。この時間帯は俺と店長の奥さんである晴美さんの2人だけだった。
「そうだ!好きな子と家のケーキ、食べてくれた?」
晴美さんが、楽しそうに尋ねてきた。
「はい!すごく美味しかったです。」
「なら、よかった。」
彼女は嬉しそうに笑ったあと、何かを思い出したように「あ!」と声を上げた。
「そうだ!旦那に頼まれてたこと、すっかり忘れてた。三浦くん、これお願いね。」
「はいっ!」
言われたとおり、俺は床のモップ掛けを始めた。床を丁寧に磨きながら、好きな子の顔を思い出して、自然と頬が緩む。その作業が終わり、次の仕事に移ろうとモップを片付けようとした瞬間だった。
「きゃーっ!!!」
店内に響き渡る晴美さんの絶叫。その声に体が反射的に動き、モップを放り投げてバックヤードへと駆け込む。
「晴美さん!?どうしました!?」
目に飛び込んできたのは、床に倒れ込む晴美さんの姿。足元に広がる赤い液体――血だ。動揺する俺の目に、彼女の腹部に突き刺さった包丁が映る。
「晴美さん!?」
彼女の手はお腹を押さえているが、血が止まる気配はない。その手も、もう真っ赤に染まっていた。
「……三浦くん……大好きな子……手放しちゃ、ダメよ……。世の中はね……ケーキみたいに……甘く……」
「駄目です!喋らないでください!傷が悪化します!」
慌ててポケットからハンカチを取り出し、傷口に押し当てたが、血は止まらない。焦りで手が震える。
「私は……ダメだったみたい。……愛を……大事にして……」
晴美さんの血まみれの手が俺の頬に触れる。その手の冷たさが、彼女の命の尽きかけていることを物語っていた。
「晴美さん!晴美さん!お願いだから!」
しかし、彼女は静かに目を閉じた。
息を引き取った彼女の姿に、俺は何もできなかった自分を呪うように唇を噛み締める。
「……何をやっているんだ!?」
突然の怒声に振り向くと、そこには段ボールを抱えた店長が立っていた。目を見開き、俺と晴美さんを交互に見ている。
「晴美……。お前、晴美を刺したのか!?」
店長が段ボールを床に落とし、俺を指差す。その目には、怒りと恐怖が入り混じっていた。
「違います!俺じゃない!助けようと……!」
「人殺しだ!!警察を呼んでくれ!!」
その言葉が突き刺さり、俺の頭が真っ白になった。どう言い訳しても、目の前の状況はあまりにも俺が犯人のように見えてしまう。
バイトを終えた俺は、歩夢の家にお邪魔していた。歩夢は一人暮らしだから、基本的に断られることはない。それに甘えて、俺はこうして少しでも長く歩夢と一緒にいたいと思っている。
「そういえばさ、さっきの用事ってのは終わったの?」
ゲームのコントローラーを握りながら、歩夢がふと尋ねてきた。その何気ない仕草さえ、俺には妙に愛おしい。
「あー、ごめん。実はさ、これから一週間くらい、一緒に帰れないかもしれないんだ。」
「え、マジで?つまんねぇ……」
歩夢がしょんぼりとした声を漏らす。下唇を少し突き出したその表情に、胸がきゅっと締め付けられた。
「悪い!でもさ、用事が終わったら必ず歩夢の顔、真っ先に見に行くから。」
俺は慌ててフォローするように言葉を重ねる。そう言うと、歩夢の顔が一瞬で明るくなった。
「えへへ、やった!」
無邪気に笑うその顔に、俺の心臓がまた跳ねる。この純粋さが、俺をどうしようもなく惹きつけるんだ。
そうして俺たちは、駄弁りながらゲームに没頭した。画面越しに相手を攻撃したり、ふざけ合ったりするその時間は、俺にとって何よりも幸せな瞬間だった。
夜も更けてきた頃、歩夢がふとあくびを漏らした。
「今日はもう遅いし……泊まってけば?」
「いいの?」
「いいよ。断るわけないだろ。」
照れ臭そうに目を逸らす歩夢を見て、俺の口元が自然と緩む。そうだ、こいつはいつだって俺を受け入れてくれるんだ。この優しさが俺の心を救う。
その夜、俺は歩夢の隣で眠ることにした。少しでも、この温もりを近くで感じられるように。
バイトにも大分慣れてきて、必要な資金もかなり貯まってきた。今日は土曜日で学校も休みだから、フルでシフトに入れてもらっている。店長は朝早くから商品の発注に出かけていて、もう1人のバイトの高木さんは夕勤。この時間帯は俺と店長の奥さんである晴美さんの2人だけだった。
「そうだ!好きな子と家のケーキ、食べてくれた?」
晴美さんが、楽しそうに尋ねてきた。
「はい!すごく美味しかったです。」
「なら、よかった。」
彼女は嬉しそうに笑ったあと、何かを思い出したように「あ!」と声を上げた。
「そうだ!旦那に頼まれてたこと、すっかり忘れてた。三浦くん、これお願いね。」
「はいっ!」
言われたとおり、俺は床のモップ掛けを始めた。床を丁寧に磨きながら、好きな子の顔を思い出して、自然と頬が緩む。その作業が終わり、次の仕事に移ろうとモップを片付けようとした瞬間だった。
「きゃーっ!!!」
店内に響き渡る晴美さんの絶叫。その声に体が反射的に動き、モップを放り投げてバックヤードへと駆け込む。
「晴美さん!?どうしました!?」
目に飛び込んできたのは、床に倒れ込む晴美さんの姿。足元に広がる赤い液体――血だ。動揺する俺の目に、彼女の腹部に突き刺さった包丁が映る。
「晴美さん!?」
彼女の手はお腹を押さえているが、血が止まる気配はない。その手も、もう真っ赤に染まっていた。
「……三浦くん……大好きな子……手放しちゃ、ダメよ……。世の中はね……ケーキみたいに……甘く……」
「駄目です!喋らないでください!傷が悪化します!」
慌ててポケットからハンカチを取り出し、傷口に押し当てたが、血は止まらない。焦りで手が震える。
「私は……ダメだったみたい。……愛を……大事にして……」
晴美さんの血まみれの手が俺の頬に触れる。その手の冷たさが、彼女の命の尽きかけていることを物語っていた。
「晴美さん!晴美さん!お願いだから!」
しかし、彼女は静かに目を閉じた。
息を引き取った彼女の姿に、俺は何もできなかった自分を呪うように唇を噛み締める。
「……何をやっているんだ!?」
突然の怒声に振り向くと、そこには段ボールを抱えた店長が立っていた。目を見開き、俺と晴美さんを交互に見ている。
「晴美……。お前、晴美を刺したのか!?」
店長が段ボールを床に落とし、俺を指差す。その目には、怒りと恐怖が入り混じっていた。
「違います!俺じゃない!助けようと……!」
「人殺しだ!!警察を呼んでくれ!!」
その言葉が突き刺さり、俺の頭が真っ白になった。どう言い訳しても、目の前の状況はあまりにも俺が犯人のように見えてしまう。
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