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制裁 ー秀一視点ー

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 凍えた空気が次第に和らいでいくのが肌に感じられる夜明けの一歩手前。空が僅かに白み始めてきた。
 黒塗りのベンツが、閑静な住宅街にあるアパートの道路脇に停まった。後ろ姿からしてまともな職に付いているとは思えない大柄で肩幅のガッチリした男がふたり、車から出てきた。どう見ても、早朝には似つかわしくない光景だった。

 アパートの一つの部屋の扉の前に立ち、ひとりが黒いスーツの胸ポケットから徐に鍵を取り出し、鍵穴へと差し込むと回した。鍵が解錠される音と共に扉を開け、ふたりは土足のまま踏み込む。玄関を跨ぎ、台所を横切り、硝子の引き戸を開けると、シングルベッドから起き上がった男が恐怖でひきっった声を上げた。

 「だっ!!!だれ、だっっ!?」
 大柄な男達はサングラスを外すことも、声を発することもなく、ただ黙々と作業を進める。ふたりはベッドから起き上がろうとした男に向かって歩き、ひとりが後ろから羽交い締めにした。

 「なっ!!!……な、にをっっ!!!」

 もうひとりが手慣れた様子でパジャマを脱がせ、その下のボクサーパンツも脱がせて裸体にした。羽交い締めにしていた男は、抵抗しようと藻掻く男の両腕を後ろに回して素早く縄で拘束し、続いて黒の細い布で目隠しをした。

 「やっ…やめっっ、ろ!!!」

 男の焦りと不安が声になって表れる。だが、そんな男の感情は当然の如く無視され、足を折り曲げられ、太腿と脛を一纏めにして左右それぞれ拘束された。

 「ヴっっ!!!」

 ベッドから下ろされると、男は脚を開いた状態で四つん這いにされ、後ろ手に拘束されている為手を付くことが出来ず、顎をラグについた。

 「俺、をっ……どうする気だっっ……」

 威勢はいいが、声が震え、恐怖感で満たされていた。

 その時…扉が開き、また誰か入ってくる音が聞こえてきた。先程の大男達のようなドスドスとした足音とは違う。一定の歩幅を保ち、優美ささえも感じられる……
 けれど、ヒタヒタと恐怖が迫ってくるような、躰の芯まで凍りつかせる、冷たい足音……

 硝子戸が静かに開けられ、ピシャリと音を立てて閉まった。

 「藤堂礼音……お待たせ致しました。
  制裁の時間の始まりですよ」

 秀一の妖艶でいて、冷酷な声が響いた。
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