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After Story2 ー夢のようなプロポーズー
幾度目かの初夜ー2
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タクシーを降り、ポーチを抜けて玄関へと入る。嗅ぎ慣れた家の匂いを感じると、ここが自分の家なのだと安心感にも似た思いが胸を満たす。
秀一が美姫のコートを脱がせ、ハンガーに掛けてくれる。
「すっかり遅くなってしまいましたね」
秀一の声音に少し残念そうな感情が含まれていることを感じ、思わずフフッと笑みが溢れる。
美姫も秀一の肩に手をかけ、コートを脱がせながらハンガーへと掛けた。
「えぇ。でも、とても楽しかったです……秀一さん、今日は本当にありがとうございました。
薫子と悠にも会えたし、みんなにお祝いしてもらって、素敵な1日でした」
笑顔を見せた美姫に、秀一が瞳を覗き込む。
「まだ、今日という日は終わっていませんよ……これから私たちの特別な夜が始まるのでしょう?
今日は、夫婦となった『初夜』なのですから。夜の貴女を独占すると、約束しましたしね」
『初夜』という言葉に、美姫はドギマギした。
いったい、私たちは何度『初夜』を迎えるのだろう……
初めて躰を重ねた日、ウィーンへと向かう飛行機での中、ウィーンに着いてから迎えた夜、新しくここに住み始めた日……
どれも美姫にとっては『初夜』と名付けるのに相応しい夜であったけれど、事実上夫婦となったその夜を『初夜』と呼ぶのなら、間違いなく今日この日が二人にとっての初夜なのだ。
そう意識した途端、美姫は更に胸が高鳴るのを覚えた。
秀一は優しく新妻の手を引き寄せ、今朝贈った結婚指輪に口づけを落とした。
「私の、愛しい妻……」
熟した桃から果汁が溢れ出すように、全身が濃厚な甘さに蕩かされる。
「さぁ、貴女も私を呼んで下さいますか」
上目遣いで艶かしい視線を投げかけられ、美姫の鼓動がトクトクと速まる。
「わた、しの……愛しい……旦那、さ……ック」
言い終える前に涙が溢れ、喉が詰まった。幸せ過ぎると涙が溢れてしまうと教えてくれたのは、秀一だった。
美姫はそんな涙を幾度流したかしれない。きっと今は、彼を思って辛く苦しい思いをした涙を上回る程に多いだろう。
そんな幸せを与えてくれた秀一と、これからも共に過ごせる喜びに胸が打ち震える。
秀一の長く細い指が、美姫の目尻の涙を掬い上げる。
「その美しい顔を上げて、私によく貴女のドレスを見せて下さい」
美姫は秀一の言葉に従い、すっと背筋を伸ばした。
「まるで……ウェディングドレスのようですね」
秀一の言葉に、再び涙が溢れる。
舞踏会に行く前にドレスを着た美姫を目の前にし、呑み込んだ言葉を今、秀一が真実の言葉として掛けてくれている。
あの時は、ウェディングドレスなど一生着ることはない。
秀一さんと結婚出来るなんて、考えもしなかったのに……
美姫は唇を震わせながら、笑みを見せた。
「これが、私のウェディングドレスです」
秀一が美姫を片手で抱き寄せ、美姫の小さな手を取る。
「えぇ……生涯を誓った、美しい私の花嫁です」
美姫の手を自分の口元まで引き上げ、愛おしげにゆっくりと落とされる口づけは、見ているだけで美姫の芯奥を熱くさせる。
秀一が纏っている香水はミドルノートからラストノートへと移り、余韻を僅かに残すような麝香が漂っている。それが、彼そのものが持っている色香と混じり合って、より官能的に美姫の性感を擽る。
「ッハァァァ……」
もう一方の華奢な腰に回された秀一の手にスルリと撫でられ、総毛立つ。
視線が絡み合い、お互いの瞳の奥に揺らめく欲情の波を感じる。
けれど、早急に唇を重ねることはせず、秀一は美姫の艶やかな髪を梳くようにひと束掬い上げて口づけを落とした。前髪を掻き上げられ、額に唇の熱が触れる。
睫毛を秀一の吐息が揺らし、その感触に背中が震える。
フッと秀一の笑みが溢され、鼻先と鼻先が触れ合う。
「甘くて性的な興奮を呼び起こす、香りがします……」
秀一の言葉に小さく躰を震わせ、美姫は睫毛をそっと上げた。
官能的に息を吸いながら秀一の鼻先が美姫の鼻梁をなぞり上げ、それから下りてきて鼻先にゆっくりと口づけが落とされ、艶かしく息が吐き出される。
ゾワゾワした快感が、背中を駆け抜けた。
秀一が美姫のコートを脱がせ、ハンガーに掛けてくれる。
「すっかり遅くなってしまいましたね」
秀一の声音に少し残念そうな感情が含まれていることを感じ、思わずフフッと笑みが溢れる。
美姫も秀一の肩に手をかけ、コートを脱がせながらハンガーへと掛けた。
「えぇ。でも、とても楽しかったです……秀一さん、今日は本当にありがとうございました。
薫子と悠にも会えたし、みんなにお祝いしてもらって、素敵な1日でした」
笑顔を見せた美姫に、秀一が瞳を覗き込む。
「まだ、今日という日は終わっていませんよ……これから私たちの特別な夜が始まるのでしょう?
今日は、夫婦となった『初夜』なのですから。夜の貴女を独占すると、約束しましたしね」
『初夜』という言葉に、美姫はドギマギした。
いったい、私たちは何度『初夜』を迎えるのだろう……
初めて躰を重ねた日、ウィーンへと向かう飛行機での中、ウィーンに着いてから迎えた夜、新しくここに住み始めた日……
どれも美姫にとっては『初夜』と名付けるのに相応しい夜であったけれど、事実上夫婦となったその夜を『初夜』と呼ぶのなら、間違いなく今日この日が二人にとっての初夜なのだ。
そう意識した途端、美姫は更に胸が高鳴るのを覚えた。
秀一は優しく新妻の手を引き寄せ、今朝贈った結婚指輪に口づけを落とした。
「私の、愛しい妻……」
熟した桃から果汁が溢れ出すように、全身が濃厚な甘さに蕩かされる。
「さぁ、貴女も私を呼んで下さいますか」
上目遣いで艶かしい視線を投げかけられ、美姫の鼓動がトクトクと速まる。
「わた、しの……愛しい……旦那、さ……ック」
言い終える前に涙が溢れ、喉が詰まった。幸せ過ぎると涙が溢れてしまうと教えてくれたのは、秀一だった。
美姫はそんな涙を幾度流したかしれない。きっと今は、彼を思って辛く苦しい思いをした涙を上回る程に多いだろう。
そんな幸せを与えてくれた秀一と、これからも共に過ごせる喜びに胸が打ち震える。
秀一の長く細い指が、美姫の目尻の涙を掬い上げる。
「その美しい顔を上げて、私によく貴女のドレスを見せて下さい」
美姫は秀一の言葉に従い、すっと背筋を伸ばした。
「まるで……ウェディングドレスのようですね」
秀一の言葉に、再び涙が溢れる。
舞踏会に行く前にドレスを着た美姫を目の前にし、呑み込んだ言葉を今、秀一が真実の言葉として掛けてくれている。
あの時は、ウェディングドレスなど一生着ることはない。
秀一さんと結婚出来るなんて、考えもしなかったのに……
美姫は唇を震わせながら、笑みを見せた。
「これが、私のウェディングドレスです」
秀一が美姫を片手で抱き寄せ、美姫の小さな手を取る。
「えぇ……生涯を誓った、美しい私の花嫁です」
美姫の手を自分の口元まで引き上げ、愛おしげにゆっくりと落とされる口づけは、見ているだけで美姫の芯奥を熱くさせる。
秀一が纏っている香水はミドルノートからラストノートへと移り、余韻を僅かに残すような麝香が漂っている。それが、彼そのものが持っている色香と混じり合って、より官能的に美姫の性感を擽る。
「ッハァァァ……」
もう一方の華奢な腰に回された秀一の手にスルリと撫でられ、総毛立つ。
視線が絡み合い、お互いの瞳の奥に揺らめく欲情の波を感じる。
けれど、早急に唇を重ねることはせず、秀一は美姫の艶やかな髪を梳くようにひと束掬い上げて口づけを落とした。前髪を掻き上げられ、額に唇の熱が触れる。
睫毛を秀一の吐息が揺らし、その感触に背中が震える。
フッと秀一の笑みが溢され、鼻先と鼻先が触れ合う。
「甘くて性的な興奮を呼び起こす、香りがします……」
秀一の言葉に小さく躰を震わせ、美姫は睫毛をそっと上げた。
官能的に息を吸いながら秀一の鼻先が美姫の鼻梁をなぞり上げ、それから下りてきて鼻先にゆっくりと口づけが落とされ、艶かしく息が吐き出される。
ゾワゾワした快感が、背中を駆け抜けた。
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