857 / 1,014
板挟み
4
しおりを挟む
「分かりました。
まずは、お二人がどれぐらい妊娠の成功率があるのか確認させてもらいます。大和さんは精液検査をご希望とのことでしたが、禁欲期間は守って頂けましたか」
予約の際に精液検査を申し込んだ際、3日から4日間の禁欲期間を持たなければいけないことを大和は聞いていた。
「はい」
美姫の前で質問されるとは思わず、歯切れ悪く答える。
内藤は、そんな大和の気持ちには御構い無しで説明した。
「では、フロアの一番奥にある採精室に行ってもらえますか。精子の検査をしますので」
「分かり、ました……」
大和は固い表情で頷いた後、美姫に安心させるように笑みを見せ、立ち上がった。美姫はそれを固い表情で見送った。
医師が美姫に向き直り、問診表を手に取る。
「過去3ヶ月間の月経ですが、最後の月経は3ヶ月前ですか……かなり空いていますね。
元々、生理不順な方ですか」
美姫は頷いた。
「一時期ピルを飲んでいた時は生理が定期的に来るようになっていたんですが、1年ぐらい前にやめてからまた生理不順になりました。生理が来る時にはかなり重く、たぶん人よりも血液の量は多めだと思います」
大和との性行為がなくなり、避妊の必要がなくなったので、1年ほど前からピルの服用をやめていた。生理不順であることは知っていたが、この問診表を書くまでは前回の生理が3ヶ月前だったとは気付かず、美姫自身も驚いていた。
「では、美姫さんには、まず血液検査を受けてもらいます。そこでエストロゲン(卵胞ホルモン)やLH(黄体化ホルモン)、FSH(卵胞刺激ホルモン)といったホルモン値を測ります。その後、経膣超音波検査を実施します」
「ぇ……」
ど、どうしよう……今日は、話を聞くつもりだけで来たのに。
看護師が、美姫を案内する。
「では、血液採取しますね」
美姫は戸惑いながらも、腕を出した。
血液採取が終わると、別の部屋に案内された。そこには診察台が置かれていたが、両足を引っ掛ける踏み台があり、分娩台のようだと美姫は感じた。中央はカーテンで仕切られている。
看護師が声を掛けた。
「スカートを履かれているので、下着を脱ぐだけで大丈夫ですよ。脱いだ下着は籠の中に入れておいて下さい」
「はい」
パンティを脱ぎ、籠の中に入れた。目隠し用の蓋があるのがありがたい。
内診台に腰かけて待っている間、心もとなく、不安な気持ちに襲われた。
本当に、これでいいの?
父のことを思い、覚悟したはずなのにそんな思いが浮かび上がる。
秀一の言葉が脳裏に響く。
『どうして子供をもつ覚悟もないのに、不妊治療など受けるのですか』
あの時、秀一さんに言われたのに、私は結局ここに来てしまった。
もし大和との子供を妊娠したら、秀一さんはなんて言うだろう……
込み上がりそうになる思いを押し込んで唇をきつく結び、必死に耐えた。
その時、扉の向こう側から女性の悲痛な泣き声が聞こえてきた。聞いては悪いと思ったが、静まり返ったこの部屋にいると、はっきり聞こえてきてしまう。
「ウッ、ウゥッ……もぅ、やだ……また、駄目だ、なんて……ウグッ。
どう、して……どうしてなのっっ!!」
ヒステリックな中に落胆の籠った女性の声。
そして、それを宥める男性の声。
「また……次、がんばろう。
な? まだ、チャンスはある......」
「ッッもう私たち、6年も不妊治療続けてるのに……ッグ。もう歳だって、お金だって限界……ヴッ今、回が……最後の望みだって、かけてたのに……ウゥゥゥゥッ、ウッ、ヒック……」
悲痛な女性の声を聞き、美姫の胸が苦しくなった。
まずは、お二人がどれぐらい妊娠の成功率があるのか確認させてもらいます。大和さんは精液検査をご希望とのことでしたが、禁欲期間は守って頂けましたか」
予約の際に精液検査を申し込んだ際、3日から4日間の禁欲期間を持たなければいけないことを大和は聞いていた。
「はい」
美姫の前で質問されるとは思わず、歯切れ悪く答える。
内藤は、そんな大和の気持ちには御構い無しで説明した。
「では、フロアの一番奥にある採精室に行ってもらえますか。精子の検査をしますので」
「分かり、ました……」
大和は固い表情で頷いた後、美姫に安心させるように笑みを見せ、立ち上がった。美姫はそれを固い表情で見送った。
医師が美姫に向き直り、問診表を手に取る。
「過去3ヶ月間の月経ですが、最後の月経は3ヶ月前ですか……かなり空いていますね。
元々、生理不順な方ですか」
美姫は頷いた。
「一時期ピルを飲んでいた時は生理が定期的に来るようになっていたんですが、1年ぐらい前にやめてからまた生理不順になりました。生理が来る時にはかなり重く、たぶん人よりも血液の量は多めだと思います」
大和との性行為がなくなり、避妊の必要がなくなったので、1年ほど前からピルの服用をやめていた。生理不順であることは知っていたが、この問診表を書くまでは前回の生理が3ヶ月前だったとは気付かず、美姫自身も驚いていた。
「では、美姫さんには、まず血液検査を受けてもらいます。そこでエストロゲン(卵胞ホルモン)やLH(黄体化ホルモン)、FSH(卵胞刺激ホルモン)といったホルモン値を測ります。その後、経膣超音波検査を実施します」
「ぇ……」
ど、どうしよう……今日は、話を聞くつもりだけで来たのに。
看護師が、美姫を案内する。
「では、血液採取しますね」
美姫は戸惑いながらも、腕を出した。
血液採取が終わると、別の部屋に案内された。そこには診察台が置かれていたが、両足を引っ掛ける踏み台があり、分娩台のようだと美姫は感じた。中央はカーテンで仕切られている。
看護師が声を掛けた。
「スカートを履かれているので、下着を脱ぐだけで大丈夫ですよ。脱いだ下着は籠の中に入れておいて下さい」
「はい」
パンティを脱ぎ、籠の中に入れた。目隠し用の蓋があるのがありがたい。
内診台に腰かけて待っている間、心もとなく、不安な気持ちに襲われた。
本当に、これでいいの?
父のことを思い、覚悟したはずなのにそんな思いが浮かび上がる。
秀一の言葉が脳裏に響く。
『どうして子供をもつ覚悟もないのに、不妊治療など受けるのですか』
あの時、秀一さんに言われたのに、私は結局ここに来てしまった。
もし大和との子供を妊娠したら、秀一さんはなんて言うだろう……
込み上がりそうになる思いを押し込んで唇をきつく結び、必死に耐えた。
その時、扉の向こう側から女性の悲痛な泣き声が聞こえてきた。聞いては悪いと思ったが、静まり返ったこの部屋にいると、はっきり聞こえてきてしまう。
「ウッ、ウゥッ……もぅ、やだ……また、駄目だ、なんて……ウグッ。
どう、して……どうしてなのっっ!!」
ヒステリックな中に落胆の籠った女性の声。
そして、それを宥める男性の声。
「また……次、がんばろう。
な? まだ、チャンスはある......」
「ッッもう私たち、6年も不妊治療続けてるのに……ッグ。もう歳だって、お金だって限界……ヴッ今、回が……最後の望みだって、かけてたのに……ウゥゥゥゥッ、ウッ、ヒック……」
悲痛な女性の声を聞き、美姫の胸が苦しくなった。
0
お気に入りに追加
338
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
若妻シリーズ
笹椰かな
恋愛
とある事情により中年男性・飛龍(ひりゅう)の妻となった18歳の愛実(めぐみ)。
気の進まない結婚だったが、優しく接してくれる夫に愛実の気持ちは傾いていく。これはそんな二人の夜(または昼)の営みの話。
乳首責め/クリ責め/潮吹き
※表紙の作成/かんたん表紙メーカー様
※使用画像/SplitShire様
【R18】こんな産婦人科のお医者さんがいたら♡妄想エロシチュエーション短編作品♡
雪村 里帆
恋愛
ある日、産婦人科に訪れるとそこには顔を見たら赤面してしまう程のイケメン先生がいて…!?何故か看護師もいないし2人きり…エコー検査なのに触診されてしまい…?雪村里帆の妄想エロシチュエーション短編。完全フィクションでお送り致します!
完結【R―18】様々な情事 短編集
秋刀魚妹子
恋愛
本作品は、過度な性的描写が有ります。 というか、性的描写しか有りません。
タイトルのお品書きにて、シチュエーションとジャンルが分かります。
好みで無いシチュエーションやジャンルを踏まないようご注意下さい。
基本的に、短編集なので登場人物やストーリーは繋がっておりません。
同じ名前、同じ容姿でも関係無い場合があります。
※ このキャラの情事が読みたいと要望の感想を頂いた場合は、同じキャラが登場する可能性があります。
※ 更新は不定期です。
それでは、楽しんで頂けたら幸いです。
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる