799 / 1,014
求める心
3
しおりを挟む
気づいた時、美姫は自分のベッドに寝かされている事に気づいた。拘束は解かれ、パジャマまで着ている。
わ、たし......
ボォーッとした頭で考えていると、部屋の扉が開いた。
「美姫?」
大和の、声だった。
じゃあ、私を助けてくれたのは......大和、だったんだ。
美姫の中に失望が広がっていく。
大和は美姫の元に駆け寄ると、手を握り締めた。
「美姫、美姫......ック無事で、よかった。
ほん、とに......よかった......」
こんなに自分を心配してくれている大和を見ていると、先ほど秀一ではなかったと失望したことに罪悪感を覚えた。
「大和が、ここへ?」
「あぁ。もう、大丈夫だ」
大和は力強く頷いた後、項垂れた。
「俺のせいで、美姫を危ない目に遭わせちまって、ごめん......」
「大和の?」
って、どういうこと?
「あいつらは、灰龍会の連中だ。俺が地検に訴える準備が出来たと知った大瀧詠十郎は、灰龍会に頼んで美姫を拉致し、俺の動きを阻止しようとしたんだ」
「地検、に!?」
美姫は、大和がそこまで大瀧のことを調べ上げていたことに驚いた。
大和はポケットからボイスレコーダーを取り出すと、美姫に見せた。
「これを車内で見つけた時、大瀧側が俺の動きを探るために取り付けたんだって思ってた。
でもこれ、美姫だったんだな......」
美姫は居た堪れず、俯いた。
このボイスレコーダーには大瀧のことを話し合っている会話も収録されていた。美姫に何も話さなかったのは、大地の恋人であった優子からの話を聞いていたので美姫に危険が及ぶことを危惧していたからだ。
もし美姫がそれを聞いてたら、彼女の気持ちは変わっただろうかと考えたが、だからと言って千代菊と関係したことには変わらない。
大和は改めて、自分の過ちを後悔した。
「大瀧と繋がりのある人間を探している中で、赤坂の料亭の女将が浮かび上がったんだ。彼女は女将としてだけでなく、情報屋の顔も持っていた。
そこで、女将や千代菊さんを通じて大瀧の情報を秘密裏に掴み、専門の人間を雇い、長い月日をかけてようやくあいつの悪事を暴けそうだったんだ」
それ、なのに......
震えそうになる唇を噛み締めた。
結局、大和は掌の上で転がされていただけだったと知らされた。
女将は地検に大瀧を告訴するという大和の報告を大瀧に密告し、それを受けて大瀧は灰龍会に美姫を拉致するよう指示したのだ。灰龍会の連中からそれを聞いた時、あれ程信頼していた女将に裏切られたことを知り、脱力した。
大和は全ての証拠と引き換えに、美姫を受け取った。美姫を危険な目に遭わせてしまい、大瀧を訴えることも出来なくなってしまった。
政界の闇はどこまでも黒く、深い。
大和が関わるべきではなかったのだ。
灰龍会......やっぱり、極道の人たちだったんだ。
白の残忍な笑いが浮かび上がり、美姫は背中を震わせた。
「駆けつけた時......美姫が痙攣しながら泡吹いて意識失って......ほんと、美姫が死ぬんじゃないかってめちゃめちゃ恐かった。もし、お前を失ったらと思ったら恐くて堪らなかった......ッグ
ご、め......ごめん。お前を早く迎えに行けなくて、ごめ......」
握った大和の手が、細かく震えている。自分よりも大和の方が傷ついている気がした。
「大和、助けてくれてありがとう。
私は......大丈夫だから」
美姫は力なく答えると、大和の手を握り返した。
もう、克服したと思ってたのに......
RTSDに第4段階があることを思い出した。
「統合」した後もトラウマを喚起させるような物事は起きるが、それによって、しばらくの間、以前の局面に戻されたりしながら、やがて、そうした物事にもあまり影響されないくらいに統合が進んでいく。
私はこのトラウマと一生付き合っていかなければならないんだ。
美姫の心が重く沈んだ。
わ、たし......
ボォーッとした頭で考えていると、部屋の扉が開いた。
「美姫?」
大和の、声だった。
じゃあ、私を助けてくれたのは......大和、だったんだ。
美姫の中に失望が広がっていく。
大和は美姫の元に駆け寄ると、手を握り締めた。
「美姫、美姫......ック無事で、よかった。
ほん、とに......よかった......」
こんなに自分を心配してくれている大和を見ていると、先ほど秀一ではなかったと失望したことに罪悪感を覚えた。
「大和が、ここへ?」
「あぁ。もう、大丈夫だ」
大和は力強く頷いた後、項垂れた。
「俺のせいで、美姫を危ない目に遭わせちまって、ごめん......」
「大和の?」
って、どういうこと?
「あいつらは、灰龍会の連中だ。俺が地検に訴える準備が出来たと知った大瀧詠十郎は、灰龍会に頼んで美姫を拉致し、俺の動きを阻止しようとしたんだ」
「地検、に!?」
美姫は、大和がそこまで大瀧のことを調べ上げていたことに驚いた。
大和はポケットからボイスレコーダーを取り出すと、美姫に見せた。
「これを車内で見つけた時、大瀧側が俺の動きを探るために取り付けたんだって思ってた。
でもこれ、美姫だったんだな......」
美姫は居た堪れず、俯いた。
このボイスレコーダーには大瀧のことを話し合っている会話も収録されていた。美姫に何も話さなかったのは、大地の恋人であった優子からの話を聞いていたので美姫に危険が及ぶことを危惧していたからだ。
もし美姫がそれを聞いてたら、彼女の気持ちは変わっただろうかと考えたが、だからと言って千代菊と関係したことには変わらない。
大和は改めて、自分の過ちを後悔した。
「大瀧と繋がりのある人間を探している中で、赤坂の料亭の女将が浮かび上がったんだ。彼女は女将としてだけでなく、情報屋の顔も持っていた。
そこで、女将や千代菊さんを通じて大瀧の情報を秘密裏に掴み、専門の人間を雇い、長い月日をかけてようやくあいつの悪事を暴けそうだったんだ」
それ、なのに......
震えそうになる唇を噛み締めた。
結局、大和は掌の上で転がされていただけだったと知らされた。
女将は地検に大瀧を告訴するという大和の報告を大瀧に密告し、それを受けて大瀧は灰龍会に美姫を拉致するよう指示したのだ。灰龍会の連中からそれを聞いた時、あれ程信頼していた女将に裏切られたことを知り、脱力した。
大和は全ての証拠と引き換えに、美姫を受け取った。美姫を危険な目に遭わせてしまい、大瀧を訴えることも出来なくなってしまった。
政界の闇はどこまでも黒く、深い。
大和が関わるべきではなかったのだ。
灰龍会......やっぱり、極道の人たちだったんだ。
白の残忍な笑いが浮かび上がり、美姫は背中を震わせた。
「駆けつけた時......美姫が痙攣しながら泡吹いて意識失って......ほんと、美姫が死ぬんじゃないかってめちゃめちゃ恐かった。もし、お前を失ったらと思ったら恐くて堪らなかった......ッグ
ご、め......ごめん。お前を早く迎えに行けなくて、ごめ......」
握った大和の手が、細かく震えている。自分よりも大和の方が傷ついている気がした。
「大和、助けてくれてありがとう。
私は......大丈夫だから」
美姫は力なく答えると、大和の手を握り返した。
もう、克服したと思ってたのに......
RTSDに第4段階があることを思い出した。
「統合」した後もトラウマを喚起させるような物事は起きるが、それによって、しばらくの間、以前の局面に戻されたりしながら、やがて、そうした物事にもあまり影響されないくらいに統合が進んでいく。
私はこのトラウマと一生付き合っていかなければならないんだ。
美姫の心が重く沈んだ。
0
お気に入りに追加
338
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
若妻シリーズ
笹椰かな
恋愛
とある事情により中年男性・飛龍(ひりゅう)の妻となった18歳の愛実(めぐみ)。
気の進まない結婚だったが、優しく接してくれる夫に愛実の気持ちは傾いていく。これはそんな二人の夜(または昼)の営みの話。
乳首責め/クリ責め/潮吹き
※表紙の作成/かんたん表紙メーカー様
※使用画像/SplitShire様
【R18】こんな産婦人科のお医者さんがいたら♡妄想エロシチュエーション短編作品♡
雪村 里帆
恋愛
ある日、産婦人科に訪れるとそこには顔を見たら赤面してしまう程のイケメン先生がいて…!?何故か看護師もいないし2人きり…エコー検査なのに触診されてしまい…?雪村里帆の妄想エロシチュエーション短編。完全フィクションでお送り致します!
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
【R18】黒髪メガネのサラリーマンに監禁された話。
猫足02
恋愛
ある日、大学の帰り道に誘拐された美琴は、そのまま犯人のマンションに監禁されてしまう。
『ずっと君を見てたんだ。君だけを愛してる』
一度コンビニで見かけただけの、端正な顔立ちの男。一見犯罪とは無縁そうな彼は、狂っていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる