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奪われた幸せ ー久美sideー
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それは、美姫の記者会見での発言に端を発する。
親しい友人の男性に襲われたとなれば、名前を挙げずとも自然とその人物は限られてくる。
美姫がサークルのメンバーで集まり、礼音に襲われた翌日。礼音は放校処分となり、美姫は大学に来なくなった。
これが、美姫を襲った犯人が礼音であることを何よりも如実に表している。
電話やLINEでの繋がりは絶っていたものの、フェイスブックやツイッター、インスタグラムのアカウントは残っている。そこから、学生の間で礼音が美姫を襲った犯人なのではないかという噂が広まっているのを知った。更には、礼音に同じような手口で襲われたという子まで現れ、礼音が犯人であることは疑う余地もないとされた。
礼音の顔写真が広まり、それまで彼の存在を知らなかった学生にまで一気に礼音のことが知られる。そして、それは構内の学生だけに留まらず、SNSを通じて拡散しているようだった。
礼音の住むアパートのドアには、『女の敵!』、『死ね!!』、『地獄に落ちろ!!!』等の心無い言葉が書かれた紙がたくさん張られた。ひっきりなしにチャイムが鳴らされ、ドアが叩かれ、蹴られ、罵声を浴びせられる。
美姫が、あんなこと言わなければ......私たちは、ささやかな幸せを見つけられたのに。
絶対に、許さない。
憎しみの炎がふつふつと沸き上がり、とぐろを巻いていた。
その日、ファミレスの仕事を終えた私はその足で礼音のアパートに向かっていた。この頃はよく礼音の嫌がらせの為に学生が群がってたりするから、見つからないように気をつけなくてはいけない。
礼音のアパートに近づくと、3人の男がドアの前に立ち、めちゃくちゃにチャイムを鳴らしながらドンドンと蹴り、近所に聞こえるような大きな声で罵声を浴びせていた。
「おら、いつまで隠れてるつもりだ!」
「堂々と出てこいよ!」
「被害に遭ったやつらにちゃんと謝れ!」
それでも、一向に礼音が出てくる気配がないのにイライラしたのか、そのうちの1人がいったん扉を離れた。地面に落ちている小石を拾うと、それを窓ガラスに向かって投げつける。
ガシャン!
甲高い音が響き、窓ガラスが割れる。
それを見た他の2人も石を拾い、競い合うようにして窓ガラスに投げつけた。
酷い......
悔しさと怒りで胸がいっぱいになるけど、彼らを止めに行ったところで、聞くわけがない。私は彼らが去るまで、そこに立ち竦むしかなかった。
礼音の友人でも、知り合いでもないと思った。恐らくSNSの書き込みを見て、面白半分にやってきたのだろう。
あいつら......礼音が悪人だから、何をやっても構わないと思ってるんだ。
女を襲った犯人を制裁するという正義を振り翳しながら、その実、ただ自分の鬱憤晴らしをしているに過ぎない彼らを見て、反吐が出る程不愉快な気持ちが広がっていく。
彼らが完全に視界からいなくなるまで待ち、誰も見ていないのを確認して礼音の部屋へ入った。
礼音は、部屋の隅っこで毛布を頭から被っていた。きっとその中で小さくなって震えているのだろう。
これを見たら......礼音が加害者だと、どうして言えるだろう。
警戒されないよう、なるべく優しい声でゆっくりと声を掛ける。
「礼、音......」
「ヒッ、くる、来るなっっ!! た、たすけっ...ヒィッ!たす、け......ウゥッ」
完全に怯えきっている。礼音は声の主が私だと分かっていないようで混乱し、毛布を固く握り締めて更に小さく縮こまっていた。
礼音......
息が詰まるほどの苦しさと、彼への深い愛情が込み上げてくる。毛布の上から、礼音をそっと抱き締める。
「大丈夫。大丈夫、だから......
礼音は、私が守るから」
私だけが、あなたの救いだから。
礼音が落ち着くのを待ち、部屋に飛び散ったガラスの破片を片付ける。新しいガラスを入れるのにいくらかかるんだろうと思うと、気が重くなった。
早くここを出て、新たな生活を始めたいのに......
ガラスを箒で掃いた後、破片が残っていないように雑巾がけをする。礼音は顔を少し覗かせているものの、未だ毛布にくるまったままだ。そのままにしておくわけにもいかないので、部屋にあったダンボール箱を分解し、割れた窓ガラスに当てて修復する。みすぼらしく仕上がった窓ガラスを見て、泣けてきた。
時計を見ると、キャバクラに行く時間が迫っている。
これから、用意しないと......
シャワーを浴びるため浴室へ向かおうとしたら、インターホンが鳴った。
また、なの!?
全身が緊張し、扉の奥を見透かすかのように息を潜めてじっと見つめる。
親しい友人の男性に襲われたとなれば、名前を挙げずとも自然とその人物は限られてくる。
美姫がサークルのメンバーで集まり、礼音に襲われた翌日。礼音は放校処分となり、美姫は大学に来なくなった。
これが、美姫を襲った犯人が礼音であることを何よりも如実に表している。
電話やLINEでの繋がりは絶っていたものの、フェイスブックやツイッター、インスタグラムのアカウントは残っている。そこから、学生の間で礼音が美姫を襲った犯人なのではないかという噂が広まっているのを知った。更には、礼音に同じような手口で襲われたという子まで現れ、礼音が犯人であることは疑う余地もないとされた。
礼音の顔写真が広まり、それまで彼の存在を知らなかった学生にまで一気に礼音のことが知られる。そして、それは構内の学生だけに留まらず、SNSを通じて拡散しているようだった。
礼音の住むアパートのドアには、『女の敵!』、『死ね!!』、『地獄に落ちろ!!!』等の心無い言葉が書かれた紙がたくさん張られた。ひっきりなしにチャイムが鳴らされ、ドアが叩かれ、蹴られ、罵声を浴びせられる。
美姫が、あんなこと言わなければ......私たちは、ささやかな幸せを見つけられたのに。
絶対に、許さない。
憎しみの炎がふつふつと沸き上がり、とぐろを巻いていた。
その日、ファミレスの仕事を終えた私はその足で礼音のアパートに向かっていた。この頃はよく礼音の嫌がらせの為に学生が群がってたりするから、見つからないように気をつけなくてはいけない。
礼音のアパートに近づくと、3人の男がドアの前に立ち、めちゃくちゃにチャイムを鳴らしながらドンドンと蹴り、近所に聞こえるような大きな声で罵声を浴びせていた。
「おら、いつまで隠れてるつもりだ!」
「堂々と出てこいよ!」
「被害に遭ったやつらにちゃんと謝れ!」
それでも、一向に礼音が出てくる気配がないのにイライラしたのか、そのうちの1人がいったん扉を離れた。地面に落ちている小石を拾うと、それを窓ガラスに向かって投げつける。
ガシャン!
甲高い音が響き、窓ガラスが割れる。
それを見た他の2人も石を拾い、競い合うようにして窓ガラスに投げつけた。
酷い......
悔しさと怒りで胸がいっぱいになるけど、彼らを止めに行ったところで、聞くわけがない。私は彼らが去るまで、そこに立ち竦むしかなかった。
礼音の友人でも、知り合いでもないと思った。恐らくSNSの書き込みを見て、面白半分にやってきたのだろう。
あいつら......礼音が悪人だから、何をやっても構わないと思ってるんだ。
女を襲った犯人を制裁するという正義を振り翳しながら、その実、ただ自分の鬱憤晴らしをしているに過ぎない彼らを見て、反吐が出る程不愉快な気持ちが広がっていく。
彼らが完全に視界からいなくなるまで待ち、誰も見ていないのを確認して礼音の部屋へ入った。
礼音は、部屋の隅っこで毛布を頭から被っていた。きっとその中で小さくなって震えているのだろう。
これを見たら......礼音が加害者だと、どうして言えるだろう。
警戒されないよう、なるべく優しい声でゆっくりと声を掛ける。
「礼、音......」
「ヒッ、くる、来るなっっ!! た、たすけっ...ヒィッ!たす、け......ウゥッ」
完全に怯えきっている。礼音は声の主が私だと分かっていないようで混乱し、毛布を固く握り締めて更に小さく縮こまっていた。
礼音......
息が詰まるほどの苦しさと、彼への深い愛情が込み上げてくる。毛布の上から、礼音をそっと抱き締める。
「大丈夫。大丈夫、だから......
礼音は、私が守るから」
私だけが、あなたの救いだから。
礼音が落ち着くのを待ち、部屋に飛び散ったガラスの破片を片付ける。新しいガラスを入れるのにいくらかかるんだろうと思うと、気が重くなった。
早くここを出て、新たな生活を始めたいのに......
ガラスを箒で掃いた後、破片が残っていないように雑巾がけをする。礼音は顔を少し覗かせているものの、未だ毛布にくるまったままだ。そのままにしておくわけにもいかないので、部屋にあったダンボール箱を分解し、割れた窓ガラスに当てて修復する。みすぼらしく仕上がった窓ガラスを見て、泣けてきた。
時計を見ると、キャバクラに行く時間が迫っている。
これから、用意しないと......
シャワーを浴びるため浴室へ向かおうとしたら、インターホンが鳴った。
また、なの!?
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