606 / 1,014
発表
3
しおりを挟む
プレゼン開始の時間となり、あらかたの席が埋まった。がやがやとさざめくような私語が飛び交う中、大和が舞台の左に設置された席へと向かい、マイクの正面に立つ。
美姫は舞台の袖に立ち、祈るような気持ちで大和を見つめていた。まるで自分もそこに立っているかのように、胸がドキドキして落ち着かない。
大和が立った途端、皆が姿勢を正し、報道陣からカメラが向けられる。
報道陣だけではなく、来栖財閥の方でも正面に設置されたビデオカメラが回された。インターネットを通じて、世界中の来栖財閥及び関連企業に映像を流しているのだ。
「皆様、本日は『新生 来栖財閥』の新ロゴマーク発表の場にお越し頂きまして誠にありがとうございます。
『新生 来栖財閥』ということで、今までのブランドイメージを大きく変えていきたいという思いから、私どもは従来のロゴマークとはまったく異なるデザインを起用することにしました」
大和は日本語でのスピーチを終えた後、英語でも同様にスピーチをした。流暢な彼の英語に、感嘆の声が漏れる。英語でのスピーチを入れたのはネットで世界中にこの映像を流している為でもあるが、各支社や関連企業社員に対して来栖財閥次期後継者である大和の顔見せとしての目的も含んでいた。
大和は勿体振るかのように少し間を空けてから、再び口を開いた。
「発表に先立ち、まずは来栖財閥の代表取締役社長である来栖誠一郎より挨拶がございます」
場内にどよめきが起こる中、舞台袖から誠一郎が凛子と共に現れた。
凛子に手を引かれてはいるものの、誠一郎はしっかりと自分の足で立ち、歩いている。依然痩せており白髪が目立つものの、血色が良くなり、入院直後とは比べものにならないほどに回復していた。その姿に、会場からは割れんばかりの拍手が鳴り響いた。
会場の真ん中に誠一郎が立ち、舞台下からマイクを受け取った凛子が誠一郎にそれを渡す。誠一郎はマイクをしっかりと握り、声を張った。
「本日は『新生 来栖財閥』の新ロゴ発表会にお越しくださり、ありがとうございます。この晴れの日に、直接皆様にお会いしてご挨拶出来ることを大変喜ばしく感じております。
多くの方にご心配をお掛け致しましたが、体調は日々回復しております。これも、私をずっと支えてくれた家族、財閥を支えてくれている社員ひとりひとり、そして私の周りにいらっしゃる方々のおかげと感謝にたえません」
凛子は誠一郎の言葉に涙ぐみ、僅かに顔を俯かせた。誠一郎は足に力を込め、背筋を伸ばした。
「来栖財閥は、長い歴史の中でこれまでにないほどの危機を迎えております。今までの慣例を打ち破り、新たに大きく変えていく必要があるとひしひしと感じております。
新しく生まれ変わる『新生 来栖財閥』に、どうかご期待下さい」
誠一郎からマイクを受け取り、続いて凛子が英語で彼のスピーチを通訳する。
凛子が話し終えた後、誠一郎が大和に視線を送り、大きく頷いた。
「ありがとうございました」
大和の言葉を合図に誠一郎は皆に手を振り、舞台の袖へと戻った。皆は先程よりも一層力強い拍手を、誠一郎に送った。
「お父様......」
舞台の袖から心配そうに見つめていた娘に笑顔を見せ、誠一郎の力がふっと緩んだ。それを受けて脇に控えていた者たちが誠一郎を支え、控室へと連れて行く。
自分も一緒に付き添うべきか迷っていると、凛子が美姫の肩を軽く叩いた。
「美姫、しっかりこのプレゼンを見届けるのですよ」
あれほど夫を愛し、病室にいる時には献身的に世話をしている凛子が、今日は控室に連れて行かれる誠一郎を見ようともしなかった。社長代理としての責任を果たすことこそが誠一郎の意思だと、凛子には分かっているからだ。
いつも以上にきりっとした凛子の表情に、美姫もまた背筋を正した。
美姫は舞台の袖に立ち、祈るような気持ちで大和を見つめていた。まるで自分もそこに立っているかのように、胸がドキドキして落ち着かない。
大和が立った途端、皆が姿勢を正し、報道陣からカメラが向けられる。
報道陣だけではなく、来栖財閥の方でも正面に設置されたビデオカメラが回された。インターネットを通じて、世界中の来栖財閥及び関連企業に映像を流しているのだ。
「皆様、本日は『新生 来栖財閥』の新ロゴマーク発表の場にお越し頂きまして誠にありがとうございます。
『新生 来栖財閥』ということで、今までのブランドイメージを大きく変えていきたいという思いから、私どもは従来のロゴマークとはまったく異なるデザインを起用することにしました」
大和は日本語でのスピーチを終えた後、英語でも同様にスピーチをした。流暢な彼の英語に、感嘆の声が漏れる。英語でのスピーチを入れたのはネットで世界中にこの映像を流している為でもあるが、各支社や関連企業社員に対して来栖財閥次期後継者である大和の顔見せとしての目的も含んでいた。
大和は勿体振るかのように少し間を空けてから、再び口を開いた。
「発表に先立ち、まずは来栖財閥の代表取締役社長である来栖誠一郎より挨拶がございます」
場内にどよめきが起こる中、舞台袖から誠一郎が凛子と共に現れた。
凛子に手を引かれてはいるものの、誠一郎はしっかりと自分の足で立ち、歩いている。依然痩せており白髪が目立つものの、血色が良くなり、入院直後とは比べものにならないほどに回復していた。その姿に、会場からは割れんばかりの拍手が鳴り響いた。
会場の真ん中に誠一郎が立ち、舞台下からマイクを受け取った凛子が誠一郎にそれを渡す。誠一郎はマイクをしっかりと握り、声を張った。
「本日は『新生 来栖財閥』の新ロゴ発表会にお越しくださり、ありがとうございます。この晴れの日に、直接皆様にお会いしてご挨拶出来ることを大変喜ばしく感じております。
多くの方にご心配をお掛け致しましたが、体調は日々回復しております。これも、私をずっと支えてくれた家族、財閥を支えてくれている社員ひとりひとり、そして私の周りにいらっしゃる方々のおかげと感謝にたえません」
凛子は誠一郎の言葉に涙ぐみ、僅かに顔を俯かせた。誠一郎は足に力を込め、背筋を伸ばした。
「来栖財閥は、長い歴史の中でこれまでにないほどの危機を迎えております。今までの慣例を打ち破り、新たに大きく変えていく必要があるとひしひしと感じております。
新しく生まれ変わる『新生 来栖財閥』に、どうかご期待下さい」
誠一郎からマイクを受け取り、続いて凛子が英語で彼のスピーチを通訳する。
凛子が話し終えた後、誠一郎が大和に視線を送り、大きく頷いた。
「ありがとうございました」
大和の言葉を合図に誠一郎は皆に手を振り、舞台の袖へと戻った。皆は先程よりも一層力強い拍手を、誠一郎に送った。
「お父様......」
舞台の袖から心配そうに見つめていた娘に笑顔を見せ、誠一郎の力がふっと緩んだ。それを受けて脇に控えていた者たちが誠一郎を支え、控室へと連れて行く。
自分も一緒に付き添うべきか迷っていると、凛子が美姫の肩を軽く叩いた。
「美姫、しっかりこのプレゼンを見届けるのですよ」
あれほど夫を愛し、病室にいる時には献身的に世話をしている凛子が、今日は控室に連れて行かれる誠一郎を見ようともしなかった。社長代理としての責任を果たすことこそが誠一郎の意思だと、凛子には分かっているからだ。
いつも以上にきりっとした凛子の表情に、美姫もまた背筋を正した。
0
お気に入りに追加
338
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
若妻シリーズ
笹椰かな
恋愛
とある事情により中年男性・飛龍(ひりゅう)の妻となった18歳の愛実(めぐみ)。
気の進まない結婚だったが、優しく接してくれる夫に愛実の気持ちは傾いていく。これはそんな二人の夜(または昼)の営みの話。
乳首責め/クリ責め/潮吹き
※表紙の作成/かんたん表紙メーカー様
※使用画像/SplitShire様
【R18】こんな産婦人科のお医者さんがいたら♡妄想エロシチュエーション短編作品♡
雪村 里帆
恋愛
ある日、産婦人科に訪れるとそこには顔を見たら赤面してしまう程のイケメン先生がいて…!?何故か看護師もいないし2人きり…エコー検査なのに触診されてしまい…?雪村里帆の妄想エロシチュエーション短編。完全フィクションでお送り致します!
完結【R―18】様々な情事 短編集
秋刀魚妹子
恋愛
本作品は、過度な性的描写が有ります。 というか、性的描写しか有りません。
タイトルのお品書きにて、シチュエーションとジャンルが分かります。
好みで無いシチュエーションやジャンルを踏まないようご注意下さい。
基本的に、短編集なので登場人物やストーリーは繋がっておりません。
同じ名前、同じ容姿でも関係無い場合があります。
※ このキャラの情事が読みたいと要望の感想を頂いた場合は、同じキャラが登場する可能性があります。
※ 更新は不定期です。
それでは、楽しんで頂けたら幸いです。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる