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秀一がレナードの胸を掌で押し戻す。
『私は、貴方の想いに応えることは出来ないと…以前にもお伝えした筈ですが?』
そして、くるりと踵を返すと美姫がそこにいることに驚きもせず、「美姫、戻りますよ」と声を掛け、美姫の元まで来ると、彼女の背中に手を当て階段を下りるように促した。
『シューイチ!!僕、絶対に諦めないからねっっ!!!』
レナードの焼け付くような視線と甲高い声から逃れるように階下へと下りていった。
その後、レナードは部屋から出てくることはなかった……
演奏会は再開されることなく、モルテッソーニの家を出ることとなった。
玄関までモルテッソーニとカミルとミシェルが送ってくれる。帰りもザックがホテルまで運転すると、申し出てくれた。
モルテッソーニが『また遊びにおいで』と声を掛け、美姫は『はい、よろしくお願いします』と丁寧にお辞儀をして挨拶をした。美姫は渡せなかったレナードへのお土産を渡すように頼み、紙袋を渡した。
カミルはモルテッソーニの胸に引き寄せられて寄りかかりながら、申し訳なさそうな顔をした。
『こんなことになっちゃってごめんね、ミキ……レオはいつだって気分屋だから。音楽の才能は一流なんだけど……
何せ、まだ17歳だからね』
『えっっ……!!!じゅう、なな…歳……だったんですか……』
若いだろうとは思っていたが、高校、いや中学ぐらいは卒業してからこっちに来たのだと美姫は思っていた。
今レナードが17歳ってことは、秀一さんと同じ時期に渡澳したって言ってたから当時は13歳だったってことだよね。
13歳と言えば、日本で言えばまだ中学1年生。そんな若い頃から独りで師匠の元に住み込んでいるなんて……世界が違う……
ザックの言葉を思い出した。
レナードは、秀一さんに憧れてここに来たんだよね……
それ程までの想いと決意で、13歳という若さで渡墺したレナード。秀一さんを想う気持ちは絶対に誰にも負けない自信があるけれど、もし自分がレナードの立場だったとして、憧れだけで……13歳の私は異国の地に住むことが出来るだろうか……
いや、とてもじゃないけれど……無理、だ。
そう考えると、レナードが愛しく思えた。
ミシェルが壁に背中を凭れさせ、両腕を軽く組んで美姫を見下ろした。
『ちょっとした余興のせいで今日はあたし達の演奏をミキに聞かせられなかったから、今度はゆっくりおいでなさいな。たっぷり味わわせてあげるわよ』
そう言った後、内緒話をする時のようなジェスチャーで掌を口の端に当て、ウィンクをした。
『シューイチがここにいた頃の話も、いろいろ聞かせてあげるわよ、ウフッ……』
恐らく……生きてきて、まともにウィンクをされたことなんて初めてで、美姫はドギマギしてしまった。しかも、ミシェルのあまりの自然な仕草と色気は相当な破壊力を持っている。
改めて、美姫はここで2年間を過ごした秀一が心配になった。
『私は、貴方の想いに応えることは出来ないと…以前にもお伝えした筈ですが?』
そして、くるりと踵を返すと美姫がそこにいることに驚きもせず、「美姫、戻りますよ」と声を掛け、美姫の元まで来ると、彼女の背中に手を当て階段を下りるように促した。
『シューイチ!!僕、絶対に諦めないからねっっ!!!』
レナードの焼け付くような視線と甲高い声から逃れるように階下へと下りていった。
その後、レナードは部屋から出てくることはなかった……
演奏会は再開されることなく、モルテッソーニの家を出ることとなった。
玄関までモルテッソーニとカミルとミシェルが送ってくれる。帰りもザックがホテルまで運転すると、申し出てくれた。
モルテッソーニが『また遊びにおいで』と声を掛け、美姫は『はい、よろしくお願いします』と丁寧にお辞儀をして挨拶をした。美姫は渡せなかったレナードへのお土産を渡すように頼み、紙袋を渡した。
カミルはモルテッソーニの胸に引き寄せられて寄りかかりながら、申し訳なさそうな顔をした。
『こんなことになっちゃってごめんね、ミキ……レオはいつだって気分屋だから。音楽の才能は一流なんだけど……
何せ、まだ17歳だからね』
『えっっ……!!!じゅう、なな…歳……だったんですか……』
若いだろうとは思っていたが、高校、いや中学ぐらいは卒業してからこっちに来たのだと美姫は思っていた。
今レナードが17歳ってことは、秀一さんと同じ時期に渡澳したって言ってたから当時は13歳だったってことだよね。
13歳と言えば、日本で言えばまだ中学1年生。そんな若い頃から独りで師匠の元に住み込んでいるなんて……世界が違う……
ザックの言葉を思い出した。
レナードは、秀一さんに憧れてここに来たんだよね……
それ程までの想いと決意で、13歳という若さで渡墺したレナード。秀一さんを想う気持ちは絶対に誰にも負けない自信があるけれど、もし自分がレナードの立場だったとして、憧れだけで……13歳の私は異国の地に住むことが出来るだろうか……
いや、とてもじゃないけれど……無理、だ。
そう考えると、レナードが愛しく思えた。
ミシェルが壁に背中を凭れさせ、両腕を軽く組んで美姫を見下ろした。
『ちょっとした余興のせいで今日はあたし達の演奏をミキに聞かせられなかったから、今度はゆっくりおいでなさいな。たっぷり味わわせてあげるわよ』
そう言った後、内緒話をする時のようなジェスチャーで掌を口の端に当て、ウィンクをした。
『シューイチがここにいた頃の話も、いろいろ聞かせてあげるわよ、ウフッ……』
恐らく……生きてきて、まともにウィンクをされたことなんて初めてで、美姫はドギマギしてしまった。しかも、ミシェルのあまりの自然な仕草と色気は相当な破壊力を持っている。
改めて、美姫はここで2年間を過ごした秀一が心配になった。
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