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128.降臨
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その時、急に会場の後ろがざわざわし始めた。興奮と緊張を含んだような空気が会場を包んでいく。
その騒めきは、まるで津波のように押し寄せてきた。
なんでしょう……
サラが後ろを振り返ると、一人の男性がこちらに向かって歩いてくる。
周りの人々は彼に視線を向け、追いかけながらも決して話しかけようとはしない。いや、彼の崇高なオーラがそれを阻んでいるのだ。
彼が歩く先から、どんどん道が開かれていく。流れている音楽や人々の騒めきが聴こえなくなり、時間さえも止まってしまったような感覚に陥った。
サラは、その男性をまるで夢でも見ているかのように見つめていた。
信じ、られません……
信じられないと思っているのはサラだけではなかった。隣に立つジョージも、ナタリーですら驚愕の眼差しで見つめている。
「兄様、お久し振りです」
ステファンは、柔らかな笑みをジョージに向けた。銀髪が肩先で艶かしく揺れ、切れ長のライトグレーの瞳は金縁の細いフレームのレンズから変わることなく美しく煌めき、匂うほどの色香を漂わせている。
洗練されたデザインが人気のフランスブランドの燕尾服は深い夜のような光沢のある紺で、襟の部分が光沢のある黒でジレと同色となっていた。それに白いシャツと最上級の礼服であることを示すホワイトタイで合わせている。その完璧な着こなしに、周囲の女性達からは溜息が溢れていた。
3年という月日を経て彼の目尻や頬には年輪を感じさせるものがあったが、ますます深まった男らしさと色香に渋さが加わり、より魅力的な男性となっていた。
「お、お前……
どう、して……ここに……」
ジョージは穏やかなステファンとは対照的に、明らかに動揺し、声を上擦らせていた。
「クリステンセン財閥150周年の記念パーティーですから、私も親族の一員として当然出席しなければならないでしょう?
招待したのは兄様ではありませんか。フフッ、お忘れですか?」
報道陣も大勢いる中、ジョージはステファンに話を合わせるしかなかった。差し出された手を握り返すと、たくさんのフラッシュが焚かれた。
「いや、すまん。まさか出席してもらえるとは思わなかったもんでな……
来てくれて、嬉しいよ」
ジョージは強張った笑みを浮かべた。
ステファンを認めた時は一瞬顔を青ざめたものの、さすがナタリーは平静を取り戻していた。微笑みながら、自ら手を差し出す。
「ステファンとずっと連絡がとれなかったので、どうしているかと心配していたのですよ。
お元気そうでよかったわ」
ステファンは百戦錬磨の義姉の鉄壁な守りに、艶やかな笑みを返す。
「ありがとうございます。
姉様たちもお元気そうで、安心しました」
ステファンの視線が、ナタリーの横にいるサラを捉える。その視線はそれまでジョージやナタリーに向けられていたものの、彼の意識はずっと自分に向けられていることをサラはひしひしと感じていた。
「サラ……」
ステファンの低く艶のある声で名前を呼ばれ、それだけでサラは顔が熱くなり、全身が震えた。何もかも忘れ、彼の声に蕩かされてしまいそうになる。
溢れそうになる涙を必死に堪え、サラは笑顔を繕った。
「お久しぶり、です」
名前を呼ぶことさえ、躊躇われた。
想いが、溢れ出してしまいそうだったから。
「貴女は、相変わらず美しい……」
艶麗な笑みを向けられ、サラの心臓がドクン、と激しく跳ねた。全身が熱く滾り、眠っていた細胞のひとつひとつが呼び覚まされていくようだった。激しい鼓動が、サラの心を大きく揺さぶる。
ステファン、生きていてくれた。
また、会うことができたのですね……
その騒めきは、まるで津波のように押し寄せてきた。
なんでしょう……
サラが後ろを振り返ると、一人の男性がこちらに向かって歩いてくる。
周りの人々は彼に視線を向け、追いかけながらも決して話しかけようとはしない。いや、彼の崇高なオーラがそれを阻んでいるのだ。
彼が歩く先から、どんどん道が開かれていく。流れている音楽や人々の騒めきが聴こえなくなり、時間さえも止まってしまったような感覚に陥った。
サラは、その男性をまるで夢でも見ているかのように見つめていた。
信じ、られません……
信じられないと思っているのはサラだけではなかった。隣に立つジョージも、ナタリーですら驚愕の眼差しで見つめている。
「兄様、お久し振りです」
ステファンは、柔らかな笑みをジョージに向けた。銀髪が肩先で艶かしく揺れ、切れ長のライトグレーの瞳は金縁の細いフレームのレンズから変わることなく美しく煌めき、匂うほどの色香を漂わせている。
洗練されたデザインが人気のフランスブランドの燕尾服は深い夜のような光沢のある紺で、襟の部分が光沢のある黒でジレと同色となっていた。それに白いシャツと最上級の礼服であることを示すホワイトタイで合わせている。その完璧な着こなしに、周囲の女性達からは溜息が溢れていた。
3年という月日を経て彼の目尻や頬には年輪を感じさせるものがあったが、ますます深まった男らしさと色香に渋さが加わり、より魅力的な男性となっていた。
「お、お前……
どう、して……ここに……」
ジョージは穏やかなステファンとは対照的に、明らかに動揺し、声を上擦らせていた。
「クリステンセン財閥150周年の記念パーティーですから、私も親族の一員として当然出席しなければならないでしょう?
招待したのは兄様ではありませんか。フフッ、お忘れですか?」
報道陣も大勢いる中、ジョージはステファンに話を合わせるしかなかった。差し出された手を握り返すと、たくさんのフラッシュが焚かれた。
「いや、すまん。まさか出席してもらえるとは思わなかったもんでな……
来てくれて、嬉しいよ」
ジョージは強張った笑みを浮かべた。
ステファンを認めた時は一瞬顔を青ざめたものの、さすがナタリーは平静を取り戻していた。微笑みながら、自ら手を差し出す。
「ステファンとずっと連絡がとれなかったので、どうしているかと心配していたのですよ。
お元気そうでよかったわ」
ステファンは百戦錬磨の義姉の鉄壁な守りに、艶やかな笑みを返す。
「ありがとうございます。
姉様たちもお元気そうで、安心しました」
ステファンの視線が、ナタリーの横にいるサラを捉える。その視線はそれまでジョージやナタリーに向けられていたものの、彼の意識はずっと自分に向けられていることをサラはひしひしと感じていた。
「サラ……」
ステファンの低く艶のある声で名前を呼ばれ、それだけでサラは顔が熱くなり、全身が震えた。何もかも忘れ、彼の声に蕩かされてしまいそうになる。
溢れそうになる涙を必死に堪え、サラは笑顔を繕った。
「お久しぶり、です」
名前を呼ぶことさえ、躊躇われた。
想いが、溢れ出してしまいそうだったから。
「貴女は、相変わらず美しい……」
艶麗な笑みを向けられ、サラの心臓がドクン、と激しく跳ねた。全身が熱く滾り、眠っていた細胞のひとつひとつが呼び覚まされていくようだった。激しい鼓動が、サラの心を大きく揺さぶる。
ステファン、生きていてくれた。
また、会うことができたのですね……
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