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117.あれから1年
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サラはこの日、19歳の誕生日を迎えた。
ステファンとのデートに胸を弾ませながらも彼への恋心に終止符を打つと決めていた1年前。
ステファンから告白され、サラは天にも昇る思いだった。彼を愛し、愛される悦びを全身で感じていた。
だがステファンと恋人だった期間は、僅か3ヶ月だった。後にも先にも、あれほど濃密な3ヶ月は二度とないだろう。
本当に……いろいろなことが、ありました。
サラの中でさまざまな思い出が蘇り、色々な感情が絡まり合いながら渦を巻き、胸が締め付けられるように苦しくなる。
1週間前、ステファンの世界ツアーが発表された。関係者の話では、今はまだ予定を立てている段階なので詳細については後日改めて伝えるとのことだった。
ステファンのザルツブルク音楽祭での演奏は、厳しいと評判の批評家達をも唸らせ、高い評価を得た。音楽祭が8月末に終了してから、ステファンはピアノリサイタルやオケとの共演、雑誌のインタビューなどを精力的にこなし、それは英国でも取り上げられ、話題となっていた。
英国のファン達はそんなステファンの活躍に湧きながら、いつ彼がこちらで公演を行うのだろうと心待ちにしていたので、ようやくステファンの演奏を英国でも聴けるかもしれないと大いに盛り上がった。
サラはステファンの活躍を喜びながらも、もし英国にツアーに来ることになれば、自分は平静でいられるのだろうかと、不安な心持ちだった。
Whatsappのお知らせ音が鳴り、サラはスマホを手に取った。
『駐車場にいます』
アイザックからのそっけないメッセージを読み、サラは立ち上がった。
取引先との商談が終わった後、誕生日のお祝いに食事に行くことになっていた。
サラは、執務室にいた。もうそろそろアイザックが来るだろうと思い、机の上は綺麗に片付けられていた。あとは広げていたファッション雑誌を棚に戻し、空になったコーヒーの紙コップを捨てるだけだ。
掛けてあったコートを羽織ると紙コップを捨て、誰もいなくなった部屋の電気を消し、カードキーで施錠した。
扉を開けると、廊下は薄暗くなっていた。早足でエレベーターホールに向かい、ボタンを押すとすぐに扉が開いた。
エレベーターに乗り込んだサラは、大きく息を吐き出した。
もうステファンとのことは、終わったのです。たとえステファンが英国に来ることになろうとも、私たちの関係が変わることはありません。
地下1階に着き、扉が開くと、一気に冷風が入り込んできた。サラは体温を奪われ、思わずコートの襟を固く合わせた。
ヒールの音を響かせながら地下駐車場を歩いていると、1台の車が近づいてくる。フロントガラス越しに、アイザックが見えた。
私には、アイザックが……婚約者がいるのです。彼との関係を、大切にしなくては。
アイザックに笑顔で手を振り、サラは助手席に乗り込んだ。
「打ち合わせが長引いてすみません。予約時間が迫っていますので、急ぎます」
ビジネスライクなアイザックの言葉に、サラは頷いた。
「はい」
いつまで経ってもアイザックとの距離は縮まらない。それは、サラが彼に対して壁をつくっていることもあるかもしれないが、彼もまたサラに対して他人行儀な態度を崩さないことも原因だった。
私たちは……本当に、夫婦になれるのでしょうか。
窓から流れる景色を見つめ、サラはそっと溜息を吐いた。
ステファンとのデートに胸を弾ませながらも彼への恋心に終止符を打つと決めていた1年前。
ステファンから告白され、サラは天にも昇る思いだった。彼を愛し、愛される悦びを全身で感じていた。
だがステファンと恋人だった期間は、僅か3ヶ月だった。後にも先にも、あれほど濃密な3ヶ月は二度とないだろう。
本当に……いろいろなことが、ありました。
サラの中でさまざまな思い出が蘇り、色々な感情が絡まり合いながら渦を巻き、胸が締め付けられるように苦しくなる。
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ステファンのザルツブルク音楽祭での演奏は、厳しいと評判の批評家達をも唸らせ、高い評価を得た。音楽祭が8月末に終了してから、ステファンはピアノリサイタルやオケとの共演、雑誌のインタビューなどを精力的にこなし、それは英国でも取り上げられ、話題となっていた。
英国のファン達はそんなステファンの活躍に湧きながら、いつ彼がこちらで公演を行うのだろうと心待ちにしていたので、ようやくステファンの演奏を英国でも聴けるかもしれないと大いに盛り上がった。
サラはステファンの活躍を喜びながらも、もし英国にツアーに来ることになれば、自分は平静でいられるのだろうかと、不安な心持ちだった。
Whatsappのお知らせ音が鳴り、サラはスマホを手に取った。
『駐車場にいます』
アイザックからのそっけないメッセージを読み、サラは立ち上がった。
取引先との商談が終わった後、誕生日のお祝いに食事に行くことになっていた。
サラは、執務室にいた。もうそろそろアイザックが来るだろうと思い、机の上は綺麗に片付けられていた。あとは広げていたファッション雑誌を棚に戻し、空になったコーヒーの紙コップを捨てるだけだ。
掛けてあったコートを羽織ると紙コップを捨て、誰もいなくなった部屋の電気を消し、カードキーで施錠した。
扉を開けると、廊下は薄暗くなっていた。早足でエレベーターホールに向かい、ボタンを押すとすぐに扉が開いた。
エレベーターに乗り込んだサラは、大きく息を吐き出した。
もうステファンとのことは、終わったのです。たとえステファンが英国に来ることになろうとも、私たちの関係が変わることはありません。
地下1階に着き、扉が開くと、一気に冷風が入り込んできた。サラは体温を奪われ、思わずコートの襟を固く合わせた。
ヒールの音を響かせながら地下駐車場を歩いていると、1台の車が近づいてくる。フロントガラス越しに、アイザックが見えた。
私には、アイザックが……婚約者がいるのです。彼との関係を、大切にしなくては。
アイザックに笑顔で手を振り、サラは助手席に乗り込んだ。
「打ち合わせが長引いてすみません。予約時間が迫っていますので、急ぎます」
ビジネスライクなアイザックの言葉に、サラは頷いた。
「はい」
いつまで経ってもアイザックとの距離は縮まらない。それは、サラが彼に対して壁をつくっていることもあるかもしれないが、彼もまたサラに対して他人行儀な態度を崩さないことも原因だった。
私たちは……本当に、夫婦になれるのでしょうか。
窓から流れる景色を見つめ、サラはそっと溜息を吐いた。
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