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95.カメラマンの自殺
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サラは、慎重に駐車場を見回した。ステファンの車の横には他の車が横付けされており、ここからは死角になる。
万全を期すため、別の場所に移動し、ステファンを確認するとスマホで話しているのが見えた。きっと管理人と話をつけているところなのだろう。
再び戻り、ステファンの姿が完全に見えないことを確認すると、サラはおそるおそるタブロイド誌を手にした。指が、細かく震えている。
目次から頁を追うと、例の記事が見開きで載っていた。
そのカメラマンとは以前、ステファンと当時の新進女優との熱愛をスクープした報道カメラマンで、今回はステファンとサラの恋仲を暴露する写真をスクープし、その記事が先週のタブロイド誌に掲載されたことが説明されていた。
記事によると、タブロイド誌が発売された3日後、彼は滞在していたホテルの屋上から飛び降り自殺したとのことだった。靴は綺麗にそろえられており、そこには自筆の遺書が入っていたらしい。
そこには遺書の写真が掲載されていた。A4サイズの白紙には、手書きではなくパソコンで打った文章が横書きに並んでいた。最後に名前が打たれた印字の下に、本人のものと思われる自筆のサインが書かれている。
遺書には、次のように書かれていた。
「先日タブロイド誌に掲載されたステファン・クリステンセン氏と姪が恋人関係であるという記事は、すべて捏造したものです。クリステンセン氏に恨みをもつある人物から依頼され、報酬を受け取りました。
ですが、事態が大きくなるにつれて恐ろしくなり、自身の犯した罪の意識に苛まれ、死をもって責任をとることにしました。
世間を騒がせ、クリステンセン氏や姪御さん、おふたりのご家族にもご迷惑を掛け、クリステンセン財閥に多大な影響を及ぼし、大変申し訳ありませんでした」
記事には、『現在ステファンとその恋人と噂されるクリステンセン家令嬢は失踪しており、自殺したカメラマンとの間に何かあったのでは……』と、関連性を疑うようなコメントが添えられていた。
サラは震える手でタブロイド誌を戻した。
自殺だなんて……本当に、そうなのですか?
先ほど読んだ、記者のコメントが脳裏に浮かび上がる。
ステファンとカメラマンの間にある、事件との関連性……その先は、考えたくなかった。
コンビニを出て駐車場へ向かう。サラは買い物袋を手に、車の助手席の扉を開けて乗り込んだ。
「ステファン、お願いします」
ステファンはサイドブレーキに手を掛け、車を発進させた。
助手席に座ったサラを横目で流し見て、ステファンが声を掛けた。
「サラ。まだ気分が優れませんか。これからまた山道に入りますので、もし体調が回復していないのならどこかで休みましょうか」
サラは、カタカタと小さく震えながらも首を振った。
「いいえ。早く、早く帰りましょう。
ここにずっといたら、誰かに見られるかもしれません」
切羽詰まったサラの声を聞き、ステファンはアクセルを踏み込んだ。
サラはステファンが運転している間、彼の顔をまともに見られずにいた。考えたくなくても、カメラマンの事件について考えてしまう。
あれは、自殺です。遺書もあったし、本人の自筆のサインだって添えられていました。
ステファンは私とずっと一緒にいて、しかもログハウスはスマホの圏外にあります。
ステファンに、出来るはずありません……
ログハウスに戻ると、ステファンが助手席の扉を開け、手を差し出す。サラは一瞬その手をとることを躊躇し、ややあって手を取った。
「サラ、大丈夫ですか?
先程のコンビニエンスストアで何かあったのですか?」
その言葉に、サラは肩をビクリと震わせた。ステファンが、その異変に気づかないわけがない。
「何が、あったのですか」
重く響くステファンの声を聞き、誤魔化すことなどとても出来ないとサラは悟った。
ログハウスの中に入るとソファに腰を下ろし、サラは深く息を吐き出した。
「先ほど……コンビニで、タブロイド誌を読みました」
サラの言葉に、ステファンの眉が微かに上がる。
「私たちのスクープを撮ったカメラマンが自殺した……と、その記事にはあり、遺書も掲載されていました」
「そうですか」
ステファンの表情は変化しない。優雅にコートを脱いで掛けると、ゆったりとサラの隣に腰掛けた。
サラは何度も小さな呼吸を繰り返した。喉から出かける言葉を呑み込み、また言葉を繋ごうとし……
それからようやく、掠れた声で喉から搾り取るようにして声を押し出した。
「カメラマンを、自殺したように見せかけて殺したのは……
ステファン、なのですか?」
万全を期すため、別の場所に移動し、ステファンを確認するとスマホで話しているのが見えた。きっと管理人と話をつけているところなのだろう。
再び戻り、ステファンの姿が完全に見えないことを確認すると、サラはおそるおそるタブロイド誌を手にした。指が、細かく震えている。
目次から頁を追うと、例の記事が見開きで載っていた。
そのカメラマンとは以前、ステファンと当時の新進女優との熱愛をスクープした報道カメラマンで、今回はステファンとサラの恋仲を暴露する写真をスクープし、その記事が先週のタブロイド誌に掲載されたことが説明されていた。
記事によると、タブロイド誌が発売された3日後、彼は滞在していたホテルの屋上から飛び降り自殺したとのことだった。靴は綺麗にそろえられており、そこには自筆の遺書が入っていたらしい。
そこには遺書の写真が掲載されていた。A4サイズの白紙には、手書きではなくパソコンで打った文章が横書きに並んでいた。最後に名前が打たれた印字の下に、本人のものと思われる自筆のサインが書かれている。
遺書には、次のように書かれていた。
「先日タブロイド誌に掲載されたステファン・クリステンセン氏と姪が恋人関係であるという記事は、すべて捏造したものです。クリステンセン氏に恨みをもつある人物から依頼され、報酬を受け取りました。
ですが、事態が大きくなるにつれて恐ろしくなり、自身の犯した罪の意識に苛まれ、死をもって責任をとることにしました。
世間を騒がせ、クリステンセン氏や姪御さん、おふたりのご家族にもご迷惑を掛け、クリステンセン財閥に多大な影響を及ぼし、大変申し訳ありませんでした」
記事には、『現在ステファンとその恋人と噂されるクリステンセン家令嬢は失踪しており、自殺したカメラマンとの間に何かあったのでは……』と、関連性を疑うようなコメントが添えられていた。
サラは震える手でタブロイド誌を戻した。
自殺だなんて……本当に、そうなのですか?
先ほど読んだ、記者のコメントが脳裏に浮かび上がる。
ステファンとカメラマンの間にある、事件との関連性……その先は、考えたくなかった。
コンビニを出て駐車場へ向かう。サラは買い物袋を手に、車の助手席の扉を開けて乗り込んだ。
「ステファン、お願いします」
ステファンはサイドブレーキに手を掛け、車を発進させた。
助手席に座ったサラを横目で流し見て、ステファンが声を掛けた。
「サラ。まだ気分が優れませんか。これからまた山道に入りますので、もし体調が回復していないのならどこかで休みましょうか」
サラは、カタカタと小さく震えながらも首を振った。
「いいえ。早く、早く帰りましょう。
ここにずっといたら、誰かに見られるかもしれません」
切羽詰まったサラの声を聞き、ステファンはアクセルを踏み込んだ。
サラはステファンが運転している間、彼の顔をまともに見られずにいた。考えたくなくても、カメラマンの事件について考えてしまう。
あれは、自殺です。遺書もあったし、本人の自筆のサインだって添えられていました。
ステファンは私とずっと一緒にいて、しかもログハウスはスマホの圏外にあります。
ステファンに、出来るはずありません……
ログハウスに戻ると、ステファンが助手席の扉を開け、手を差し出す。サラは一瞬その手をとることを躊躇し、ややあって手を取った。
「サラ、大丈夫ですか?
先程のコンビニエンスストアで何かあったのですか?」
その言葉に、サラは肩をビクリと震わせた。ステファンが、その異変に気づかないわけがない。
「何が、あったのですか」
重く響くステファンの声を聞き、誤魔化すことなどとても出来ないとサラは悟った。
ログハウスの中に入るとソファに腰を下ろし、サラは深く息を吐き出した。
「先ほど……コンビニで、タブロイド誌を読みました」
サラの言葉に、ステファンの眉が微かに上がる。
「私たちのスクープを撮ったカメラマンが自殺した……と、その記事にはあり、遺書も掲載されていました」
「そうですか」
ステファンの表情は変化しない。優雅にコートを脱いで掛けると、ゆったりとサラの隣に腰掛けた。
サラは何度も小さな呼吸を繰り返した。喉から出かける言葉を呑み込み、また言葉を繋ごうとし……
それからようやく、掠れた声で喉から搾り取るようにして声を押し出した。
「カメラマンを、自殺したように見せかけて殺したのは……
ステファン、なのですか?」
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