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104.父の余命
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「ピンポーン」という音と共に扉が開くと、エレベーターホールの奥に大きなドアが立ち塞がっていた。そこはロック式の自動ドアとなっているため、一般者は許可なく立ち入りできないようになっている。
ここは、一般の英国人が無料で治療が受けられるNHS(National Health Service)ではなく、医療費が自己負担となるプライベートホスピタルだ。
普段は特別扱いを嫌うジョージだが、今はマスコミに追われている身だ。プライバシーを確保するためにも、特別な手配が必要だった。
そこは病棟というよりは、高級ホテルのような佇まいで、扉を抜けた先にある天井まで一面ガラス張りになった窓からは、周りの景色が一望出来た。廊下には穏やかなBGMが流れ、壁には自然画が飾られている。
ナタリーとサラ以外には誰も廊下を歩いておらず、まさにプライベート空間であった。
一番奥にある大きな扉の前に立つと、ナタリーは静かにノックして扉を開け、サラに中に入るよう視線で促した。
室内も外観と同じく、まるでホテルのVIPルームのような造りだった。光を多く取り込める明るく広々としたリビングには応接のためのテーブルと椅子が置かれ、小さいながらもキッチンまで備え付けてある。ソファベッドが置かれており、付き添い人も泊まれるようになっていた。
ただひとつホテルと異なっているのは、クイーンベッドの横に点滴の台や幾つものコードに繋がれたモニターがあることだった。
サラは、そのベッドに寝ている主に近づいた。
「お父、さま……」
その声に、躰がピクンと反応した。徐々に瞼が開かれ、娘の姿を認めた途端、ジョージの目尻から涙が伝って零れ落ちた。
「サラ……」
その弱々しく掠れた声だけ、じゃない。中年太りと形容してもいいぐらい肉付きのよかった父が、急激に体重を落とし、痩せこけていた。そして、頭髪に混じる白い髪。それらが、いかに僅かな期間にジョージが多くの辛苦を味わったのか、物語っていた。
それを見た途端、サラはどうしようもない自己嫌悪と罪悪感に打ちのめされた。
お父様をこんな風にしてしまったのは、私。
私のせいで、お父様は……
嗚咽を漏らし、涙ぐむサラに、ジョージは震える指を差し出し、頬を撫でた。愛おしく見つめるその瞳に、父親としての愛情を感じ、サラの胸は張り裂けんばかりに痛んだ。
頬を撫でたジョージの手から力が抜けてベッドに落とされると、サラはその手を両手で握り締めた。
お父様、どうか……どうか、以前のように元気になってください。
祈るように、握り続ける。隣に立つナタリーは口元をハンカチで抑え、肩を細かく震わせていた。
「お医者様は……重なったストレスと過労が心臓の血圧を上昇させ、それとは逆に血液を送るポンプが圧迫され、心不全を起こしたんだろうって仰ってました。今回助かったのは奇跡だ。今すぐにでもそのストレスの原因を取り除かねば、お父様の命の保証は出来ないとも……」
「そ、んな……」
サラの顔が一気に蒼白になる。父のストレスの原因が自分にあることを、サラは痛いほど理解していた。
「このままだとジョージは……ウグッ……2年、以上生きられる……可能性、は……ウゥッ非常に低い、って……ウッ、ウッ……」
2、年……
ナタリーから父の余命を聞かされた途端、サラの視界が真っ白に塗り潰された。
ここは、一般の英国人が無料で治療が受けられるNHS(National Health Service)ではなく、医療費が自己負担となるプライベートホスピタルだ。
普段は特別扱いを嫌うジョージだが、今はマスコミに追われている身だ。プライバシーを確保するためにも、特別な手配が必要だった。
そこは病棟というよりは、高級ホテルのような佇まいで、扉を抜けた先にある天井まで一面ガラス張りになった窓からは、周りの景色が一望出来た。廊下には穏やかなBGMが流れ、壁には自然画が飾られている。
ナタリーとサラ以外には誰も廊下を歩いておらず、まさにプライベート空間であった。
一番奥にある大きな扉の前に立つと、ナタリーは静かにノックして扉を開け、サラに中に入るよう視線で促した。
室内も外観と同じく、まるでホテルのVIPルームのような造りだった。光を多く取り込める明るく広々としたリビングには応接のためのテーブルと椅子が置かれ、小さいながらもキッチンまで備え付けてある。ソファベッドが置かれており、付き添い人も泊まれるようになっていた。
ただひとつホテルと異なっているのは、クイーンベッドの横に点滴の台や幾つものコードに繋がれたモニターがあることだった。
サラは、そのベッドに寝ている主に近づいた。
「お父、さま……」
その声に、躰がピクンと反応した。徐々に瞼が開かれ、娘の姿を認めた途端、ジョージの目尻から涙が伝って零れ落ちた。
「サラ……」
その弱々しく掠れた声だけ、じゃない。中年太りと形容してもいいぐらい肉付きのよかった父が、急激に体重を落とし、痩せこけていた。そして、頭髪に混じる白い髪。それらが、いかに僅かな期間にジョージが多くの辛苦を味わったのか、物語っていた。
それを見た途端、サラはどうしようもない自己嫌悪と罪悪感に打ちのめされた。
お父様をこんな風にしてしまったのは、私。
私のせいで、お父様は……
嗚咽を漏らし、涙ぐむサラに、ジョージは震える指を差し出し、頬を撫でた。愛おしく見つめるその瞳に、父親としての愛情を感じ、サラの胸は張り裂けんばかりに痛んだ。
頬を撫でたジョージの手から力が抜けてベッドに落とされると、サラはその手を両手で握り締めた。
お父様、どうか……どうか、以前のように元気になってください。
祈るように、握り続ける。隣に立つナタリーは口元をハンカチで抑え、肩を細かく震わせていた。
「お医者様は……重なったストレスと過労が心臓の血圧を上昇させ、それとは逆に血液を送るポンプが圧迫され、心不全を起こしたんだろうって仰ってました。今回助かったのは奇跡だ。今すぐにでもそのストレスの原因を取り除かねば、お父様の命の保証は出来ないとも……」
「そ、んな……」
サラの顔が一気に蒼白になる。父のストレスの原因が自分にあることを、サラは痛いほど理解していた。
「このままだとジョージは……ウグッ……2年、以上生きられる……可能性、は……ウゥッ非常に低い、って……ウッ、ウッ……」
2、年……
ナタリーから父の余命を聞かされた途端、サラの視界が真っ白に塗り潰された。
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