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35.初対面

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 翌日。ホテルにベンジャミンが迎えに来てくれ、ラインハルトの家まで運転してくれることとなった。

 今日はクリスマスパーティーということで、サラは深みのあるワインレッドの少し胸元の開いたカクテルドレスにパールのネックレスを合わせていた。

 ステファンは細身の黒ストライプスーツにベストを合わせ、深いワインレッドに細かい水玉模様の入ったネクタイを締め、後ろにひとつに髪を結い、ウェリントン型のサングラスをかけている。いつもは無地のスーツを着ることの多いステファンだが、遠目には無地のように見えるその柄は彼のエレガントさとシャープさを引き立てていて、よく似合っていた。さり気なくサラのドレスとネクタイの色が同じであることに気がつき、サラはドキドキした。

 シェーンブルン宮殿からそう遠く離れていない路上にて、ベンジャミンの車が停車した。

「はい、着いたよぉ」

 ステファンのエスコートで、サラは車から降りた。

「あの薄いピンクの建物の左隣がラインハルトの自宅になります」

 広大な土地にポツンと佇む門から遠く離れた所に建っているお屋敷を想像していたサラは、それを見て少し驚いた。

 門も無ければ庭もなく、また隣同士の家の隙間もない。ただ、建物は大きく、3階建てで広さもかなりありそうだった。塗装された壁はシェーンブルン宮殿で見たテレジアンイエローを思わせるような濃く気品のある黄色だった。扉は薄いクリームイエローで、扉の幅と同じくらいのクリスマスリースが掛けられている。

 ここが、ステファンが3年間住んでいたラインハルトの自宅、なのですね……

 そう思うと緊張して、サラはゴクリと喉を鳴らした。

 ベンジャミンが鍵穴に挿すより早く、クリスマスリースに飾られた鐘の音と共に内側から扉が開いた。

「ステファン!」

 そう言って、ステファンの胸に飛び込んだ少年。

 プラチナブロンドのサラサラな髪の毛、横顔から覗く血管さえ見えそうな透き通るような白い肌に、ほんのり紅く染まった頬と柔らかく口角の上がった艶やかな唇。
 そして、何より印象的なのは……

 吸い込まれてしまいそう……

 クリスタルブルーのような透明感を持ったアクアマリンの瞳。プラチナブロンドの美しい髪を更に際立たせる胸元までしっかりボタンの留められた黒シャツに同色のベスト、極めて白に近いシャイニーライトグレーの長めのネクタイを締めた彼は、美しい人形が何かの仕掛けで動いているのでは……という気持ちにさえもさせられてしまうぐらい人間離れした顔立ちだった。

『ノア、お久しぶりです』

 ステファンがドイツ語で答えた。

 すると、今度は廊下の奥からドイツ語で何か呼び掛けるような声がしたかと思うと、誰かがこちらに向かって駆けてくる足音が近づいてきた。

「ステファァァァン♪」

 ノアがハグしているのも気にせず、ステファンに上から覆い被さるようにハグをし、チュッ、チュッというリップ音をたてながら両頬を合わせた。

 纏わりつくような強烈な香水の匂いが彼が近付いただけで放たれて、サラは鼻孔をつかれて噎せ返りそうだった。

 ステファンよりも背の高いその男は、肩まであるブルネットのウェーブがかった髪を揺らめかせていた。下がり気味の眉と目尻が、鷲鼻の冷たい印象を抑え、優しさを感じさせる。尖った顎にはオシャレに整えられた顎鬚が生えており、柔らかなオーラを纏っていた。

 深緑に赤やピンクの薔薇が描かれた芸術的な柄のスーツを身に纏い、ボタンは留めらておらず、中の白をベースにしたスーツと同じ薔薇柄のサテンシャツが覗いて見えた。これ程個性的な服装であるにも関わらず、彼の顔立ちと体格にしっくりとはまっていた。

 目の前で交わされる強烈な歓迎の挨拶に、サラの鼓動がバクバクと速まる。

『ラファエル、何してんの!? 僕のステファンに勝手に触れないでよね!』
『いやーん、ノアったら、何怒ってんのよぉ。ただの挨拶でしょぉ? フランスでは、これが普通なのっ。
 まぁ、ステファンには特別な感情が入ってなくもないけど、ね……ウフッ』

 少し籠もった鼻にかかるような、色気を纏った調子でラファエルが微笑んだ。

 ドイツ語なので、何を話しているかは分からないが、ステファンを巡って言い争っていることはサラにも伝わってきた。

 そこへ、ベンジャミンが割り込んだ。

『もう、久しぶりの再会なんだから仲良くしようよ。今日はステファンの姪っ子ちゃんのサラも来てくれてるんだしさ、ねっ』

 途端に、ふたりの視線がサラに集中した。ステファンがノアとラファエルを引き剥がし、英語でサラを紹介する。

「私の姪のサラです。彼女はドイツ語が喋れませんので、英語でお願いします」

 ノアは何も言わず、サラを睨み付けている。

 ラファエルは艶やかな笑みを浮かべた。ステファンは滲み出るような色気だが、ラファエルは躰全体から放たれる強い色気を持っていた。浴びるように纏った香水が更にその効果を高めている。

「初めましてぇ、ラフィーって呼んでね? ステファンの姪っ子ちゃんが、こんなに美しいマドモアゼルだったなんて、知らなかったわ……あたし、綺麗な娘も大好きなのぉ。ふふっ……どうぞよろしく、ね?」
「よ、よろしくお願いします」

 個性的な面々を前に戸惑うサラに、ベンジャミンが極上の笑顔を向けた。

「さぁ、入って!」
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