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75.露呈

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 お金を払い、タクシーを降りると自宅へ急ぐ。門扉の鍵を開け、アプローチを抜けて玄関に立つと、重厚な扉を前にサラは生唾を呑み込んだ。

 腕時計を見ると、既に6時半を回っている。扉を開ければ、その音で気づかれてしまうかもしれない。震える指で暗証番号を押し、慎重に開ける。

 玄関には父とステファンの革靴があり、サラの躰に緊張が走る。家政婦の靴がないので、人払いしたのだろう。

 リビングの扉は固く閉ざされており、玄関の扉が開いたことには気づかれなかったようだ。 

 震える躰を抱き締めながら、音をたてないようにそっと靴を脱いだ。深呼吸し、玄関からリビングへと続く廊下を、脱いだ靴を抱きしめながら一歩一歩歩いて行く。

 怖くて今にも逃げ出したいが、それよりも真実を知りたいと思う気持ちが勝っていた。

 リビングの扉に耳を当てて意識を集中すると、ステファンの声がくぐもって聞こえてきた。


「私は、サラを愛しています。姪としてではなく、ひとりの女性として」


 ステファン……!?

 一瞬で頭が真っ白になった。

 怒りを押し殺したような父の声が、続いて聞こえる。

「では、ステファン……お前は、サラと恋仲にあることを認めると、いうのだな?」

 私たちの仲を、知られてしまった……でも、なぜ!?

「知られたくはありませんでしたが……証拠を見せつけられて、白を切る方が難しいでしょう」
「分かっているのか!? サラは私の娘。お前と血が繋がった姪なんだぞ!!」

 普段穏やかで決して声を荒げることのない父の激しい怒りを含んだ声音に、サラは肩を大きく震わせた。膝がガクガクと大きく震え、床にへなりこむ。口に両手を当て、ガチガチと打ち鳴らす歯を抑え込んだ。

 こんな日が……いつか、来るんじゃないかって恐れていました。
 お父様に知られてしまった以上、私たちはもう……別れるしかありません。

 あまりのショックに、涙すら出なかった。

 感情的に声を荒げるジョージに対し、ステファンはあくまで冷静だった。

「兄様。私は、決して中途半端な思いでサラと付き合っているのではありませんよ。
 私たちはずっと互いに恋心を抱きながらも、叔父と姪という禁忌の関係に悩み、想いを断ち、諦めようと苦しんできたのです。決して、一時の気の迷いなどではありません。

 サラが成人になるのを待ってから想いを遂げたのは、彼女が未成年であるうちは親の庇護下にあるというだけでなく、兄様たちに対しての罪悪感もありました。
  
 けれど、私たちはそんな罪悪感やモラルさえ超えてしまう程、深く愛し合っています。私は、彼女の存在なくしての人生など考えられないし、サラもまた私を強く求めています」

 あぁ、ステファン……

 毅然としたステファンの態度に、サラは胸が震えた。ステファンのサラへの深い愛情は、父への罪悪感すら霞ませてしまう。

「ありえん! ありえん! ありえんっっ!! 
 私の大切な娘をよくもたぶらかしたな! いつからサラをそそのかし、どうやって手に入れたんだ!!」

 声だけ聞けば父とは思えないほど鬼気迫るその物言いに、サラは驚愕し、怯えた。

 お父様は、誤解していらっしゃる。ステファンが私をそそのかし、誑かしたのではありません。
 私は幼い頃からステファンに憧れ、その想いはいつの間にか愛情へと変わっていました。
 私たちは、純粋に好き合って結ばれましたのに。

 どうしたら、お父様に分かってもらえるんですの?

 サラは苦悶した。
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