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18.罪悪感
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食事を済ませ、一階のロビーへと下りた。
「サラ、今日は実家に泊まるのだろう?」
ジョージの弾んだ声がする。サラは無意識にステファンを伺うようにそちらを向きかけて、慌てて父の方へと向き直った。
「え、えぇ」
「実家にもサラの服が揃っていますから、明日はそのまま大学に行けますものね。
私が大学まで送りましょう」
ナタリーがサラに微笑んだ。
ステファンが腕時計に視線を落とし、3人に顔を向けた。
「では、私はこれで……サラ、久し振りに二人に甘えて下さいね」
ステファンは振り返ることなく、去って行った。秘密の関係を保つためには仕方ないと分かっていても、サラはどうしても寂しさを感じてしまった。
「ステファンは忙しそうだな……」
ステファンの後ろ姿を見送りながら呟くジョージに、ナタリーが微笑んだ。
「ラインハルトに師事した程の実力あるピアニストですもの。しかもあの甘いマスク……女性やマスコミが放っておきませんわ」
「ナタリー……」
ジョージが少し不機嫌な顔を覗かせ、ナタリーは悪戯っぽく言う。
「あら、あなた。フフッ、弟に嫉妬されるなんて……サラに笑われてしまいますよ、ねぇ?」
「……え? あ、えぇ……」
サラはナタリーに突然話を振られ、慌てて相槌を打った。
二人は……私がステファンと淫らな関係にあるなんて夢にも思っていないのでしょうね。
ホッとしていい筈なのに、サラは心憂い気持ちになった。
久し振りに実家に帰ったサラは、用意されたケーキと紅茶を頂きながら両親と他愛もない話題で談笑した。
本当はすぐにでも一人になりたかったが、久しぶりの娘との再会を喜んでいる両親への気遣いと怪しまれたくないという後ろ暗い気持ちがあり、そこを離れられずにいたのだった。
しばらくしてお風呂に入りたいからという理由で話を切り上げ、リビングルームを後にした。二階の自室に行く途中、ふと、受話器の横のメーリングボックスに自分宛の絵葉書が入っているのを目にした。
お父様からだわ……
いつも出張先から絵葉書を送ってくれる父。きっと大学寮の住所が分からず、実家に送ったのだろう。
美しく古い建物が重なった街並みの写真の裏には、『サラ、18歳の誕生日おめでとう! 愛を込めて 父と母より』とあった。
部屋に戻ると、ベッドの下の籐のカゴを引っ張り出した。そこには、今までに両親から送られた絵葉書が入っている。
小さい頃、両親がいなくて寂しくなると、サラはよく取り出して何度も繰り返し絵葉書を眺めて読んだものだった。パソコンや携帯ではなく、手書きで書かれた温もりのある字が嬉しくて、絵葉書を抱きしめて眠ったこともあった。
ステファンを想うこの気持ちは揺るぐことはないけれど……私を愛し、慈しんでくれたお父様とお母様のことを思うと溜まらなく悲しくて、苦しくて、辛くなります。
私の中の罪悪感はきっと……この先ずっと……続く……終わることは、ない……背負い続けていかなければならないのです……私が、ステファンと一緒にいる限り……
薄靄だった罪悪感は、今や濃く暗い影を落としてサラを覆い尽くしていた。
「サラ、今日は実家に泊まるのだろう?」
ジョージの弾んだ声がする。サラは無意識にステファンを伺うようにそちらを向きかけて、慌てて父の方へと向き直った。
「え、えぇ」
「実家にもサラの服が揃っていますから、明日はそのまま大学に行けますものね。
私が大学まで送りましょう」
ナタリーがサラに微笑んだ。
ステファンが腕時計に視線を落とし、3人に顔を向けた。
「では、私はこれで……サラ、久し振りに二人に甘えて下さいね」
ステファンは振り返ることなく、去って行った。秘密の関係を保つためには仕方ないと分かっていても、サラはどうしても寂しさを感じてしまった。
「ステファンは忙しそうだな……」
ステファンの後ろ姿を見送りながら呟くジョージに、ナタリーが微笑んだ。
「ラインハルトに師事した程の実力あるピアニストですもの。しかもあの甘いマスク……女性やマスコミが放っておきませんわ」
「ナタリー……」
ジョージが少し不機嫌な顔を覗かせ、ナタリーは悪戯っぽく言う。
「あら、あなた。フフッ、弟に嫉妬されるなんて……サラに笑われてしまいますよ、ねぇ?」
「……え? あ、えぇ……」
サラはナタリーに突然話を振られ、慌てて相槌を打った。
二人は……私がステファンと淫らな関係にあるなんて夢にも思っていないのでしょうね。
ホッとしていい筈なのに、サラは心憂い気持ちになった。
久し振りに実家に帰ったサラは、用意されたケーキと紅茶を頂きながら両親と他愛もない話題で談笑した。
本当はすぐにでも一人になりたかったが、久しぶりの娘との再会を喜んでいる両親への気遣いと怪しまれたくないという後ろ暗い気持ちがあり、そこを離れられずにいたのだった。
しばらくしてお風呂に入りたいからという理由で話を切り上げ、リビングルームを後にした。二階の自室に行く途中、ふと、受話器の横のメーリングボックスに自分宛の絵葉書が入っているのを目にした。
お父様からだわ……
いつも出張先から絵葉書を送ってくれる父。きっと大学寮の住所が分からず、実家に送ったのだろう。
美しく古い建物が重なった街並みの写真の裏には、『サラ、18歳の誕生日おめでとう! 愛を込めて 父と母より』とあった。
部屋に戻ると、ベッドの下の籐のカゴを引っ張り出した。そこには、今までに両親から送られた絵葉書が入っている。
小さい頃、両親がいなくて寂しくなると、サラはよく取り出して何度も繰り返し絵葉書を眺めて読んだものだった。パソコンや携帯ではなく、手書きで書かれた温もりのある字が嬉しくて、絵葉書を抱きしめて眠ったこともあった。
ステファンを想うこの気持ちは揺るぐことはないけれど……私を愛し、慈しんでくれたお父様とお母様のことを思うと溜まらなく悲しくて、苦しくて、辛くなります。
私の中の罪悪感はきっと……この先ずっと……続く……終わることは、ない……背負い続けていかなければならないのです……私が、ステファンと一緒にいる限り……
薄靄だった罪悪感は、今や濃く暗い影を落としてサラを覆い尽くしていた。
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