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459.弟の愛

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「わた、し……お母さんから、暴力……受け、てて……」
「美羽、話さなくていい」

 隼斗が制するように強く言ったが、美羽は顔を上げて弱々しく微笑んだ。

 私に出来ることは、これぐらいしかないから。
 どうか、龍也さんの誤解を解かせてほしい。隼斗兄さんは、何も悪くないのだから。

「あの、日……私、大学の卒業式で……式が終わって家で塞ぎ込んでたら、お母さんが帰ってきて……ハァッ」

 あの日の記憶が、ギラギラと照りつける真夏の残照のように、景色も、色も、音も、匂いも、痛みも……何もかもが鮮やかに脳裏に蘇える。

 階段を下り、玄関へと向かった美羽に掛けられた鋭い母の声。

『美羽っ! どこへ行くのっっ!!』

 髪の毛を強く引っ張られ、思い切り振り回され、チェストに強く打ち付けられた。

『行かせないっ! 行かせないわよっ! あんな悪魔のとこになんか、絶対に行かせるもんですかっっ!!』

 怒号が響き、ハイヒールで蹴り付けられ、背中に細いヒールが突き刺さった。

 まるで今起こっているかのように、骨にまで沁みるほどジンジンとした痛みを腕に、メリメリと突き刺さる痛みを背骨に感じる。

 痛い、痛い、痛い……くる、しぃ。
 ごめん、ごめんなさ……ッッ……お母、さん。

 美羽の全身が震え、冷や汗が出てくる。

「美羽、やめろ」

 隼斗の声が聞こえないほど、耳鳴りが鳴っている。頭が割れるように痛い。

 それでも、説明しなきゃ。隼斗兄さんの、誤解を解かないと……

「ハァッ、ハァッ、そ、こにっっ……ハッ、ハッ、隼、斗……ッッ兄、さんが……ハッ、ハッ、ハッ来、て……」
「美羽、もういい! やめるんだ!!」

 隼斗が美羽の肩を抱き抱えようとした時、



「ミューっっ!!」



 類が、息を切らしながら走ってきた。

「ハッハッハッハッ……る、ぃ……ハァッ」

 類の顔を認めた途端、美羽の全身から力が抜け、安堵が広がっていく。

「ッッ類……ハァッ、ハァッ」

 良か……た……類、来てくれた……
 
 手を伸ばすと、類もまた手を伸ばす。美羽の手を掴むとグッと美羽を引き寄せ、類が背中に手を回し、抱き締めた。

「ハァッ、ハァッミュ、ミュー……大丈夫、だから。ハァッ……ゆっく、り……息、して」
「る、ぃっ、類、類ぃぃ……ハァッ、ハァッ、ハァッ」
「いるよ、ここにいる……ッッごめっ、ミュー。
 やっぱり、僕が行けばよかった……」

 類は躰を震わせ、美羽を抱く腕に力を込めた。

 そんなふたりを見て呆然としている龍也に、類が顔を向けた。

「僕は、ミューが怪我したり、ショックを受けたりすると、それが分かるんだ。だから……駆けつけた」
「えぇっ、ほんまに双子ってそないなことあるん!? おもろいなぁ」
 
 類を纏うオーラが、途端に禍々しく変化した。近づいただけで電流が走りそうなほどの、殺気を放っている。



「ねぇ……ミューに何したの? 
 ミューを傷つけるのは、僕が絶対に許さないから」


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