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453.お花見
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眼窩に目黒川を眺めながら、4km続く桜並木をゆっくりと歩く。川までもが桜の花弁でピンク一色に染まり、まるで絨毯を敷き詰めたようだ。
つい数年前までは、『川の悪臭が酷い』、『ゴミが放置されたままだ』、との声が聞かれたが、区や地域住民の対策が進み、改善されているようだ。
今日まで桜は持つだろうかと心配していたが、多くの桜の木々はちょうど散り始めの時期に入っており、風に揺さぶられるたびにひらひらと桜の花弁が舞い散る様を見られたのは、かえって情緒が増して良かった。対岸にも、同じように桜並木が視界のずっと先まで続いていた。
木々を繋ぐように赤と白の提灯が飾りつけられ、さまざまな種類の屋台が並び、食欲を刺激する匂いがあちらこちらから漂っている。
中目黒駅から歩くと混雑するため、池尻大橋駅の方から歩いてきたが、狭い道には家族連れやカップル、友人同士、大型観光バスで乗り付けた外国人観光客……たくさんの人が歩き、賑わっていた。
それでも、まだ平日なだけマシだ。週末ともなれば大混雑となり、歩くことすらままならなくなる。
「きゃ~っ、美羽たぁん! 桜、綺麗たぁ~ん♪」
萌が、フリルのスカートをひらめかせてくるりと回った。
ピンク一色のウール素材のワンピースには襟、袖口、スカートにたっぷりとフリルがあしらわれ、同素材のフリル付きケープの胸元には大きなリボンがついていた。頭の上にはちょこんとミニシルクハットが飾られ、白いロングブーツを履いている。
大勢の人がいる中でも、萌の格好はかなり目立っていた。珍しいからと、萌の写真を撮ったり、一緒に記念写真を撮る外国人観光客もいたぐらいだ。「Wow, Japanese Anime Cosplay!」と勘違いして、興奮している人もいた。
笑顔で応じるたびに、萌はちゃっかりデタントのビジネスカードを渡し、宣伝をしていた。感心しつつも、その手のカフェだと勘違いされたらどうしようと美羽は少し不安になった。
「本当……まだこんなに咲いてるなんて、凄いよね。来て良かった」
「今年は遅咲きだったもんねぇ」
萌と香織と3人で微笑み合う。
目の前では類がひとりで歩き、さらにその前を隼斗と龍也が歩いていた。
視界に、白く細いけれど、男性らしさを感じる骨張った類の手が飛び込んでくる。
先日聴いたあの歌が、頭の中に流れる。
愛しい人と手を繋いで、桜のトンネルを歩けたら……どんなに幸せだろう。
そんな思いが過ぎっていると、龍也が類を振り返った。
「自分、せっかくのお花見やのに、彼女と歩かんでええのん?」
美羽の肩が小さく震える。
「香織だって、せっかくだから女友達と喋りたい時もあるでしょ」
類の答えを聞き、美羽は密かに安堵した。
「へぇー。お優しいことですなぁ」
龍也は、ここに来たのは初めてらしかった。
「さすが東京は川沿いでも、賑やかでよろしおすなぁ。鴨川なんて屋台なくて、楽しめんのは昔ながらの壮観な桜並木の情緒だけやで」
「ん? 淀川は屋台あるだろ」
隼斗のツッコミに、龍也は少し目を細めた。
「屋台あるんは駐車場だけで、こんな川沿いにズラーッと並ぶことあらへんねんかぁ。そっから見えるんは桜のトンネルだけやで、つまらん、つまらん」
「そうか? 俺はその方がいいと思うが」
噛み合ってそうで噛み合っていないふたりの会話を聞きながら、美羽はこっそり息を吐いた。
隼斗兄さん……よく龍也さんと友達を続けてられるなぁ。
つい数年前までは、『川の悪臭が酷い』、『ゴミが放置されたままだ』、との声が聞かれたが、区や地域住民の対策が進み、改善されているようだ。
今日まで桜は持つだろうかと心配していたが、多くの桜の木々はちょうど散り始めの時期に入っており、風に揺さぶられるたびにひらひらと桜の花弁が舞い散る様を見られたのは、かえって情緒が増して良かった。対岸にも、同じように桜並木が視界のずっと先まで続いていた。
木々を繋ぐように赤と白の提灯が飾りつけられ、さまざまな種類の屋台が並び、食欲を刺激する匂いがあちらこちらから漂っている。
中目黒駅から歩くと混雑するため、池尻大橋駅の方から歩いてきたが、狭い道には家族連れやカップル、友人同士、大型観光バスで乗り付けた外国人観光客……たくさんの人が歩き、賑わっていた。
それでも、まだ平日なだけマシだ。週末ともなれば大混雑となり、歩くことすらままならなくなる。
「きゃ~っ、美羽たぁん! 桜、綺麗たぁ~ん♪」
萌が、フリルのスカートをひらめかせてくるりと回った。
ピンク一色のウール素材のワンピースには襟、袖口、スカートにたっぷりとフリルがあしらわれ、同素材のフリル付きケープの胸元には大きなリボンがついていた。頭の上にはちょこんとミニシルクハットが飾られ、白いロングブーツを履いている。
大勢の人がいる中でも、萌の格好はかなり目立っていた。珍しいからと、萌の写真を撮ったり、一緒に記念写真を撮る外国人観光客もいたぐらいだ。「Wow, Japanese Anime Cosplay!」と勘違いして、興奮している人もいた。
笑顔で応じるたびに、萌はちゃっかりデタントのビジネスカードを渡し、宣伝をしていた。感心しつつも、その手のカフェだと勘違いされたらどうしようと美羽は少し不安になった。
「本当……まだこんなに咲いてるなんて、凄いよね。来て良かった」
「今年は遅咲きだったもんねぇ」
萌と香織と3人で微笑み合う。
目の前では類がひとりで歩き、さらにその前を隼斗と龍也が歩いていた。
視界に、白く細いけれど、男性らしさを感じる骨張った類の手が飛び込んでくる。
先日聴いたあの歌が、頭の中に流れる。
愛しい人と手を繋いで、桜のトンネルを歩けたら……どんなに幸せだろう。
そんな思いが過ぎっていると、龍也が類を振り返った。
「自分、せっかくのお花見やのに、彼女と歩かんでええのん?」
美羽の肩が小さく震える。
「香織だって、せっかくだから女友達と喋りたい時もあるでしょ」
類の答えを聞き、美羽は密かに安堵した。
「へぇー。お優しいことですなぁ」
龍也は、ここに来たのは初めてらしかった。
「さすが東京は川沿いでも、賑やかでよろしおすなぁ。鴨川なんて屋台なくて、楽しめんのは昔ながらの壮観な桜並木の情緒だけやで」
「ん? 淀川は屋台あるだろ」
隼斗のツッコミに、龍也は少し目を細めた。
「屋台あるんは駐車場だけで、こんな川沿いにズラーッと並ぶことあらへんねんかぁ。そっから見えるんは桜のトンネルだけやで、つまらん、つまらん」
「そうか? 俺はその方がいいと思うが」
噛み合ってそうで噛み合っていないふたりの会話を聞きながら、美羽はこっそり息を吐いた。
隼斗兄さん……よく龍也さんと友達を続けてられるなぁ。
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