上 下
410 / 498

404.依存症

しおりを挟む
 美羽は、圭子の言葉で閃いた。

「パチンコで、使ったんですか?」

 圭子は答えないが、否定しないということは肯定と同義だ。誤魔化すように、圭子はケーキに手をつけた。

 先日の琴子の話が蘇る。やはり圭子は、家族にパチンコに行ってないと嘘をつきつつ、隠れてコソコソと通っていた。
 それだけじゃなく、義昭から借りたお金どころか必要な生活費までパチンコに注ぎ込み、使ってしまったのだ。

 ほのちゃんを置いてパチンコに行って、晃さんに怒られたって聞いてたのに……まだ、懲りてなかったんだ。

 心の中で呆れつつも、それを見せないようにして圭子に尋ねる。

「晃さんから、パチンコ禁止されてるんじゃなかったんですか?」

 圭子が食べていたケーキを掬っていたフォークの手を止め、美羽に顔を上げて食いついた。

「だからぁ!! 兄さんにもお母さんにも知られたくないの!! ぜっっったいに言わないでよっっ!!」

 美羽は短く息を吐き、気持ちを少しでも落ち着かせようとカモミールティーに口をつけた。

 圭子が両肘をテーブルにつき、頭を抱え込んだ。

「ほのかを預けてたあの日、大負けして、うちの貯金崩して使っちゃったのよ。確変きたけど、負けがこんでて取り返せなくて……そのことがパパにバレて、あの人の実家から勝手に帰ってほのかを兄さんのとこに置いてったことも怒られて、パチンコしばらくするなって言われて。我慢したのよ?

 我慢、しようと思ったけど……だめなの。

 パチンコの前を通ると、心臓がバクバクして興奮するの。行きたくて行きたくて堪らなくなるの。何してても、パチンコのことがずっと頭から離れないのよ。

 スーパーに買い物に行っても、数字のゾロ目見るだけでパチンコの連想しちゃって、行きたくて行きたくて気が狂いそうになるの。TVでパチンコのCMが流れると落ち着かなくなって、頭の中でパチンコの曲がかかりっぱなしになって、カーッと躰が熱くなってくるの。

 気づいたらパチンコに向かって歩いてて、強い磁石で引き込まれるみたいに吸い寄せられて……ガラス扉越しに、玉が出てる客をじっと見つめてるの。

 もうこれ以上我慢できなくなって、ちょっとだけって思って、お母さんに『買い物行ってくる』って出掛けてパチンコやったんだけど……やり出したら、止まらなくて。負けてるのわかってても、あと5千、1万、3万つっこめば勝てるかもって思っちゃうの。
 自分で自分が止められないの!!

 お母さんが引っ越したら自制がきかなくなること分かってたから、パート見つけて、ほのかを保育園に預けて、これからはマンション購入のために頑張ってお金を貯めようって……そう、決めてたの」

 琴子が引っ越す際に、圭子が仕事を始めたことやほのかを保育園に入園させたことは聞いていた。これから圭子は心を入れ替えて、新しい暮らしに向けて前向きに取り組んでいると思っていた、願っていた。

「それなのに……気づいたら、ほのかを保育園に預けた足で、パチンコに入ってるの。仕事に行く時間になって、やめなきゃ、もう仕事に行かなきゃって思うのに、あと少し、あと少し……ってやめられなくて、仕事にも行けなくて。
 
 手持ちのお金がなくなって、もうやめなきゃ、これが終わったら絶対に帰るんだって決めたのに……
『そうだ。兄さんからもらったお金がある。そこからちょっとだけ借りて、取り戻せばいいんだ!』
 って思ったら一気にアドレナリンが放出するぐらい、興奮して……コンビニに駆け込んで、ATMからお金おろしてた。

 勝ったらお金を戻そうって思ってたのに、勝った途端に気持ちが大きくなって、これでもっと増やせる、負けたお金を全部取り戻せるって、暗示にかかって。

 まだお金があるから大丈夫、まだお金がある……そう思ってるうちに、どんどんお金がなくなって……
 次こそは取り返す、次こそは取り返せる、次こそは……ってやってるうちに、兄さんからもらったお金も、全部なくなってた。

 ……ヒグッ、うっ、うっ……私、ほんとにバカ!! 死にたい!! なんで私ってこうなの!?

 お母さんに、いくらお金貸してって頼んでも、『前に貸したお金を返してからだ』とか、『もう私はこれから自分の人生を歩むんだから』とか言って、ほのかを盾にしても貸してくれないしっっ!!

 友達にも声かけたけど、誰もお金貸してくれないどころか、電話にも出てくれなくなったり、LINEブロックされたり……

 わた、し……私、美羽さんしかいないのよぉぉぉぉーっっ!!
 うぅっ、うぅっ、ウワーーーーーン!!」

 圭子は人目も憚らず、大声で泣き出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...