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334.秘密のファイル

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 美羽はそっとドアノブを震える手で閉めてから、深呼吸した。心臓がドクドクと大きく音をたてている。

 掃除機をかけるためにここに入ったことは今までに何度もあるのに、こんなに緊張しているのは、これが後ろめたいことだと思っているからだ。罪悪感が冷たく背中を伝う。

 大丈夫。今日は残業だって言ってたから、まだこの時間に帰ってくることはない……

 そう自分に言い聞かせて励まし、ゴクリと生唾を飲み込んだ。

 義昭の部屋はモノトーンで統一されたダブルサイズのベッドとデスクとキャビネットと書棚、それにクローゼットだけの飾り気のないシンプルな部屋。

 その中でも、特に無機質なデスクの上のパソコンへと向かい、マウスに触れる。スクリーンセーバーが解除され、ロックされていなかったことに安堵の息を吐く。

 マウスを動かし、写真を保存しているアプリを開いた。

 几帳面な義昭は、年代ごとに纏めて保管している。その中でも、アメリカ留学時代のものを探して下へとスクロールしていく。

 あった……

 緊張と興奮を胸に、マウスをクリックする。

 ファイルが開き、あっという間にたくさんの写真が目の前に現れる。美羽は、そのひとつひとつを目を凝らして追っていく。

 だが……

 ない。どう、して!?

 殆どが風景の写真で、数少ない友人との写真には、オカダリョウジだけでなく、類の写真すらなかった。美羽はもう一度丁寧に上から下までなぞっていったが、やはり彼らの姿は影すらなかった。

 そんなはず、ない。義昭さんは、類のことを留学してた時から知っていたし、何らかの気持ちも抱いていたはず。それなのに、類の写真が1枚もないなんて……
  
 そこに、ふたり……もしくは、義昭だけが握ってる秘密がある気がして、美羽は写真アプリを閉じると、今度はドキュメントファイルを片っ端から開けていった。
 
 どれも、仕事に関するものばかりだ。美羽は諦めかけながら下へとスクロールしていく。

 きっちりと日付とタイトルが付けられたファイルが並ぶ中、ひとつだけタイトルがないものがあった。



 これだ。



 高鳴る鼓動を感じながらマウスを動かし、クリックした。

 ロックがかけられていたらどうしようかと思ったが、ロックはかけられていなかった。

 クリックすると、アメリカ留学時代のものと思われる写真が出てきた。そこには、遠くに類が写っている。

 やっぱり、義昭さんは類のことを……

 鼓動がバクバクと煩く響く。手が氷のように冷たく、小刻みに震える。それでもなんとか指を動かし、クリックし続けた。

 義昭の撮った写真は、多くの人に囲まれている類を遠くから盗撮したような写真ばかりだった。そこに、オカダの姿はない。

 義昭さんにとって類は憧れの遠い存在で、ふたりに接点はなかったのかな……

 そんなことを考えていると、ファイルの中に動画が紛れているのを見つけた。

 なんだろう、これ。

 クリックすると、出てきた動画は薄暗くてよく見えない。画面に顔を近づけ、目を凝らす。
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