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282.教祖
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ふたりで大広間へと向かうと、80畳ほどのスペースに大勢の信者がひしめき合っていた。既に熱気が会場を包み込み、人々の異様な興奮を肌で感じる。
その中に、前の列を陣取って座っている拓斗と華江の姿もあった。派手でブランド好きだった華江が人前で化粧もせず、皆と同じように白い作務衣を着ている様は、何度見ても見慣れない。だが、あの頃よりも華江の瞳は爛々と輝き、生き生きとしているように見えた。
どこに座ろうかときょろきょろしていると、ふと視線を感じて振り返った。大広間の隅に、若い男性がひとり立っているのが気になる。アシンメトリーな黒い前髪の長く垂れている側がこちらに向けられているので、実際に彼が美羽を見ていたのかどうかは分からない。
ぁ、れ……?
そこに不思議な既視感を覚えたが、隼斗に「こっちだ」と言われ、美羽は慌てて歩き出した。
ステージの左端に設けられた演台の前に立つ司会者が、あの教団特有の笑顔で案内する。
「これから新年唱和会を始めます。本日は大勢の人が集まってらっしゃいますので、皆様少しずつ前に詰めてお座りください」
波のように人混みが前へと押し寄せられる。その際に華江が後ろを振り返り、ふたりの姿を認めたようだ。美羽の隣に義昭がいないことを訝しんでいるみたいだが、既に大勢の信者に囲まれているため、身動きがとれない。美羽と隼斗は後方の一番端にスペースを見つけ、そこに座った。
ステージの真ん中には司会者の物よりも大きな演台が豪華な花と共におかれ、後方には大きなスクリーンが垂れ下がっていた。
会場の波が静まったところで、司会者が口火を切った。
「皆様! 新しい年、勝利と祈りへの新たな1年が始まりました! 『幸福阿吽教』は更なる飛躍を目指し、皆様と共に羽ばたいていきます!!」
ワァーッと、多くの賛同の声と拍手が一斉に上がる。
「『幸福阿吽教』は、常に、どんな時でも、永遠に、高槻先生と共にあります!
高槻先生、万歳!!」
司会者の『万歳!!』の合図に皆が立ち上がり、両手を上げる。慌てて立ち上がろうとすると、美羽の腕を隼斗がグイと引いた。いつもなら義昭とその場の雰囲気に流されて立ち上がり、小さく両手を挙げる美羽だったが、隼斗に促されて座り直した。
『万歳!』
「万歳!!」
『万歳!!』
「バンザーイ!!」
『バンザーイ!!』
拍手が会場全体を包み、先程よりも更に熱気が高まる。皆、会場に注目していて、座っている自分たちのことなどきっと気にしていないと思いつつも、非難の目を受けているような気持ちになり、美羽は身を縮こませた。
まだ会場が騒めく中、司会者が高らかに告げる。
「それでは、高槻先生お願い致します!!」
会場が薄暗くなり、ステージ右端にスポットライトが当てられ、先ほどロビーで聞いたのと同じBGMが流れ始めた。
眩いスポットライトを一身に浴びながら、高槻が微笑みながら手を振り、ステージに現れる。途端に大きなどよめきが上がり、割れんばかりの拍手が起こった。
『キャーッ!!』
『先生っ!』
『高槻先生っっ!!』
まるでアイドルか何かのコンサートかのように、黄色い歓声が上がっている。
ゆったりとした口調で歩く高槻は、ふっくらした体型を上手く隠すようにデザインされた濃紫色のドレスに、白いパールのネックレスを身につけている。華江や美羽のような生まれついての美人ではないものの、華やかに見えるメイクに、明るめのブラウンのセミロングに少しパーマのかかったふんわりとしたヘアスタイル、薄く色の入った眼鏡を掛け、見た目は上品そうな中年女性といった雰囲気を醸し出していた。特に、白い作務衣にノーメイクである信者たちの中では際立って見えた。
あちこちから熱狂的な声が上がり、中には感極まって号泣している信者もいた。ヒートアップしていく周りに、居心地の悪さが急上昇する。
その中に、前の列を陣取って座っている拓斗と華江の姿もあった。派手でブランド好きだった華江が人前で化粧もせず、皆と同じように白い作務衣を着ている様は、何度見ても見慣れない。だが、あの頃よりも華江の瞳は爛々と輝き、生き生きとしているように見えた。
どこに座ろうかときょろきょろしていると、ふと視線を感じて振り返った。大広間の隅に、若い男性がひとり立っているのが気になる。アシンメトリーな黒い前髪の長く垂れている側がこちらに向けられているので、実際に彼が美羽を見ていたのかどうかは分からない。
ぁ、れ……?
そこに不思議な既視感を覚えたが、隼斗に「こっちだ」と言われ、美羽は慌てて歩き出した。
ステージの左端に設けられた演台の前に立つ司会者が、あの教団特有の笑顔で案内する。
「これから新年唱和会を始めます。本日は大勢の人が集まってらっしゃいますので、皆様少しずつ前に詰めてお座りください」
波のように人混みが前へと押し寄せられる。その際に華江が後ろを振り返り、ふたりの姿を認めたようだ。美羽の隣に義昭がいないことを訝しんでいるみたいだが、既に大勢の信者に囲まれているため、身動きがとれない。美羽と隼斗は後方の一番端にスペースを見つけ、そこに座った。
ステージの真ん中には司会者の物よりも大きな演台が豪華な花と共におかれ、後方には大きなスクリーンが垂れ下がっていた。
会場の波が静まったところで、司会者が口火を切った。
「皆様! 新しい年、勝利と祈りへの新たな1年が始まりました! 『幸福阿吽教』は更なる飛躍を目指し、皆様と共に羽ばたいていきます!!」
ワァーッと、多くの賛同の声と拍手が一斉に上がる。
「『幸福阿吽教』は、常に、どんな時でも、永遠に、高槻先生と共にあります!
高槻先生、万歳!!」
司会者の『万歳!!』の合図に皆が立ち上がり、両手を上げる。慌てて立ち上がろうとすると、美羽の腕を隼斗がグイと引いた。いつもなら義昭とその場の雰囲気に流されて立ち上がり、小さく両手を挙げる美羽だったが、隼斗に促されて座り直した。
『万歳!』
「万歳!!」
『万歳!!』
「バンザーイ!!」
『バンザーイ!!』
拍手が会場全体を包み、先程よりも更に熱気が高まる。皆、会場に注目していて、座っている自分たちのことなどきっと気にしていないと思いつつも、非難の目を受けているような気持ちになり、美羽は身を縮こませた。
まだ会場が騒めく中、司会者が高らかに告げる。
「それでは、高槻先生お願い致します!!」
会場が薄暗くなり、ステージ右端にスポットライトが当てられ、先ほどロビーで聞いたのと同じBGMが流れ始めた。
眩いスポットライトを一身に浴びながら、高槻が微笑みながら手を振り、ステージに現れる。途端に大きなどよめきが上がり、割れんばかりの拍手が起こった。
『キャーッ!!』
『先生っ!』
『高槻先生っっ!!』
まるでアイドルか何かのコンサートかのように、黄色い歓声が上がっている。
ゆったりとした口調で歩く高槻は、ふっくらした体型を上手く隠すようにデザインされた濃紫色のドレスに、白いパールのネックレスを身につけている。華江や美羽のような生まれついての美人ではないものの、華やかに見えるメイクに、明るめのブラウンのセミロングに少しパーマのかかったふんわりとしたヘアスタイル、薄く色の入った眼鏡を掛け、見た目は上品そうな中年女性といった雰囲気を醸し出していた。特に、白い作務衣にノーメイクである信者たちの中では際立って見えた。
あちこちから熱狂的な声が上がり、中には感極まって号泣している信者もいた。ヒートアップしていく周りに、居心地の悪さが急上昇する。
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