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229.白状
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「そう、ですか……」
空港のカウンターに立った隼斗の言葉を聞きながら、美羽はこの先どうしようかと考えていた。
本来なら明日の10時半に福岡に発つ予定だったが、美羽が早くに出発したいと言ったために隼斗は羽田空港へ赴き、カウンターにて今日出発の便が取れないか問い合わせしたのだった。
だが、今は正月休みの真っ只中であり、便はどれも満席となっていた。
「仕方ない。新幹線で行くか……
美羽、悪いが新幹線のチケットを調べてもらえるか?」
「うん」
東京から博多まで飛行機で2時間かかるところが、新幹線だと5時間ほどかかる。長時間の移動は辛いが、自分が蒔いた種だ。
美羽は鞄からスマホを取り出した。
もしかして、類からメッセージが届いてるんじゃ……
スマホを手に取る度に、そう期待してしまう自分が嫌になる。だが、LINEを開くと、香織と萌と浩平からしか来ていなかった。
車に乗っていた時にも何度かスマホを確認したが、類からの連絡はあれ以来一度もなかった。見るたびに心の中で落ち込む自分に、もう見なければいいのにと思うのに、どうしても気になって確認してしまう。
美羽は焦れ焦れする気持ちに蓋をするように、アプリを閉じた。
気を取り直して新幹線のチケットサイトへと飛び、指をタップさせる。
東京発、博多行き……あ、これだ。
時刻表を確認してから空港を見回し、デジタル時計の表示を確認すると、美羽はがっくりと肩を落とした。
「ダメ……博多行きの新幹線の最終は17時50分だから、今からじゃ間に合わない」
既に時刻は17時半だった。今からいくら車を飛ばしても20分では駅に辿り着けない。
あんな嘘、咄嗟についちゃったから。
今日福岡に行くなんて、無理な話だったんだ……
美羽が落ち込んでいると、隼斗が呟いた。
「車で行くしかないか」
隼斗の提案に、美羽が反論する。
「車でなんて遠すぎるよ。隼斗兄さんしか運転出来ないし、それじゃ疲れちゃうでしょ」
「心配するな、運転は嫌いじゃない。
夜通し走れば、朝には着く。美羽は寝てればいいから」
真面目であることが隼斗の長所でもあり、短所でもある。隼斗は『今日、福岡に行く』という目的をなんとかして達成しようとしていた。
空港を出て高速の入口を目指して車を走らせる隼斗を横目に、美羽の胃がキリキリと絞られる。
『今日は行くのをやめて、明日の飛行機で福岡に行こう』と言えば、それで済むこと。そうすれば、隼斗兄さんに夜通し運転させることもない……
そう思うのに、なかなか言い出せない。
出発を明日にすれば、今からまた義昭の実家に戻らなければならない。いや、それを避けて家に戻ったしても、既に義昭と琴子がそこにいるのだ。美羽には、どこにも行くところなどない。
ホテルに泊まれば……そう考えたが、翌朝には隼斗が再び義昭の実家に迎えに来ることを思うと、それも無理だった。
それに、福岡に早く着くということは、早くに母に会わなければいけないということでもある。
義昭の家から逃れるために、母から早く来て欲しいと言われてるなんて嘘をついたが、今となってはどうしてそんなことを言ってしまったのかと後悔していた。
お母さんに早く会いたいはずがない。
むしろ、会わずに済むのなら、どんなに嬉しいか……
なによりも、隼斗に嘘をついているという罪悪感が美羽の心の中を占めていた。それは、時間が経つにつれ、グルグルと渦を巻いて大きく、巨大になっていく。胃を引き絞る痛みが強くなってきて、美羽は顔を顰めた。
ハンドルを握る隼斗を苦しそうに見つめる。
このまま隼斗兄さんを騙し続けるなんて、出来ない……
頭上に東名高速道路への矢印の看板が見え、美羽はゴクリと生唾を飲み込んだ。これに乗ってしまえば、本当に福岡に向かってしまう。
隼斗が指で方向指示器を持ち上げ、ウィンカーが点滅する。
美羽はギュッと瞳を閉じて叫んだ。
「隼斗兄さん、高速に乗らないで!!
嘘……嘘、なの!!」
美羽の言葉に隼斗は目を見開き、ハンドルを切った。後ろを走っていた車がけたたましくクラクションを鳴らす。ウィンカーが消え、隼斗は車を路肩に停めると、一時停止させた。
「嘘って、どういうことだ?」
低い隼斗の声にビクビクしつつ、美羽は肩を落として小さく答えた。
「お母さんに早く来いって言われた話。
嘘……なの」
空港のカウンターに立った隼斗の言葉を聞きながら、美羽はこの先どうしようかと考えていた。
本来なら明日の10時半に福岡に発つ予定だったが、美羽が早くに出発したいと言ったために隼斗は羽田空港へ赴き、カウンターにて今日出発の便が取れないか問い合わせしたのだった。
だが、今は正月休みの真っ只中であり、便はどれも満席となっていた。
「仕方ない。新幹線で行くか……
美羽、悪いが新幹線のチケットを調べてもらえるか?」
「うん」
東京から博多まで飛行機で2時間かかるところが、新幹線だと5時間ほどかかる。長時間の移動は辛いが、自分が蒔いた種だ。
美羽は鞄からスマホを取り出した。
もしかして、類からメッセージが届いてるんじゃ……
スマホを手に取る度に、そう期待してしまう自分が嫌になる。だが、LINEを開くと、香織と萌と浩平からしか来ていなかった。
車に乗っていた時にも何度かスマホを確認したが、類からの連絡はあれ以来一度もなかった。見るたびに心の中で落ち込む自分に、もう見なければいいのにと思うのに、どうしても気になって確認してしまう。
美羽は焦れ焦れする気持ちに蓋をするように、アプリを閉じた。
気を取り直して新幹線のチケットサイトへと飛び、指をタップさせる。
東京発、博多行き……あ、これだ。
時刻表を確認してから空港を見回し、デジタル時計の表示を確認すると、美羽はがっくりと肩を落とした。
「ダメ……博多行きの新幹線の最終は17時50分だから、今からじゃ間に合わない」
既に時刻は17時半だった。今からいくら車を飛ばしても20分では駅に辿り着けない。
あんな嘘、咄嗟についちゃったから。
今日福岡に行くなんて、無理な話だったんだ……
美羽が落ち込んでいると、隼斗が呟いた。
「車で行くしかないか」
隼斗の提案に、美羽が反論する。
「車でなんて遠すぎるよ。隼斗兄さんしか運転出来ないし、それじゃ疲れちゃうでしょ」
「心配するな、運転は嫌いじゃない。
夜通し走れば、朝には着く。美羽は寝てればいいから」
真面目であることが隼斗の長所でもあり、短所でもある。隼斗は『今日、福岡に行く』という目的をなんとかして達成しようとしていた。
空港を出て高速の入口を目指して車を走らせる隼斗を横目に、美羽の胃がキリキリと絞られる。
『今日は行くのをやめて、明日の飛行機で福岡に行こう』と言えば、それで済むこと。そうすれば、隼斗兄さんに夜通し運転させることもない……
そう思うのに、なかなか言い出せない。
出発を明日にすれば、今からまた義昭の実家に戻らなければならない。いや、それを避けて家に戻ったしても、既に義昭と琴子がそこにいるのだ。美羽には、どこにも行くところなどない。
ホテルに泊まれば……そう考えたが、翌朝には隼斗が再び義昭の実家に迎えに来ることを思うと、それも無理だった。
それに、福岡に早く着くということは、早くに母に会わなければいけないということでもある。
義昭の家から逃れるために、母から早く来て欲しいと言われてるなんて嘘をついたが、今となってはどうしてそんなことを言ってしまったのかと後悔していた。
お母さんに早く会いたいはずがない。
むしろ、会わずに済むのなら、どんなに嬉しいか……
なによりも、隼斗に嘘をついているという罪悪感が美羽の心の中を占めていた。それは、時間が経つにつれ、グルグルと渦を巻いて大きく、巨大になっていく。胃を引き絞る痛みが強くなってきて、美羽は顔を顰めた。
ハンドルを握る隼斗を苦しそうに見つめる。
このまま隼斗兄さんを騙し続けるなんて、出来ない……
頭上に東名高速道路への矢印の看板が見え、美羽はゴクリと生唾を飲み込んだ。これに乗ってしまえば、本当に福岡に向かってしまう。
隼斗が指で方向指示器を持ち上げ、ウィンカーが点滅する。
美羽はギュッと瞳を閉じて叫んだ。
「隼斗兄さん、高速に乗らないで!!
嘘……嘘、なの!!」
美羽の言葉に隼斗は目を見開き、ハンドルを切った。後ろを走っていた車がけたたましくクラクションを鳴らす。ウィンカーが消え、隼斗は車を路肩に停めると、一時停止させた。
「嘘って、どういうことだ?」
低い隼斗の声にビクビクしつつ、美羽は肩を落として小さく答えた。
「お母さんに早く来いって言われた話。
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