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143.突きつけられる現実

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 自然な流れで聞くつもりだったのに、唐突なタイミングの上に、声音に真剣味が籠ってしまった。

 類がフッと笑みを浮かべて、目を細める。

「なに、気になるの?」
「べ、別にそういうわけじゃ……」
「あっそ」

 軽くあしらった類が、ケーキを口に運ぶ。美羽は、『しまった!』という表情を浮かべた。

 せっかく話を切り出したのに、自分で終わらせるなんて……

 落ち込んでいると、類がそんな美羽を見つめ、瞬きをしてからにっこりと笑みを浮かべた。

「ブラウン弁護士からだよ。ようやくこっちでの生活が落ち着いたから改めてお礼のメールしたら、電話がかかってきたんだ」

 嘘……

 美羽の表情が強張った。

 類は息をするように平気な顔で軽い嘘を吐くが、重い嘘を吐く時には瞬きをしてから笑みを見せる。それは恐らく、美羽だけが知っている類の癖だった。

 それに、もしブラウン弁護士からの電話であれば、わざわざ美羽から離れた場所で話す必要などないはずだし、そもそも美羽にふたりが話す英語を聞き取ることなど出来ない。

「どうして、嘘つくの?」

 美羽は顔を歪め、類を見上げた。

「どうして、嘘だって思うの?」

 類が美羽をじっと見つめる。大きな黒曜石の瞳はまるで穢れなど存在しないかのように美しく、美羽をたじろがせる。

「どうして、言えないの?」

 美羽が類に質問で返すと、意味深な笑みを浮かべられた。

「もし……『彼女』だって言ったら、どうする?」
「かの……じょ」

 美羽はそれきり、黙り込んだ。

 類に電話が掛かってきた時点で考えてしまった、彼女の存在。それが、事実だったとしたら……

 打ちのめされている、自分がいる。そうでないようにと願い、そんなはずがないと否定してしまう。
 それは間違いなく、類を弟ではなくひとりの男性として見ているという証だ。

「なに、ミュー。嫉妬してるの?」

 ムスクのようなセクシーで甘ったるい声が類から発せられる。真っ赤な唇が上下で合わさって擦られ、濡れて艶めいた。細められていた目がしっかりと見開き、猫目の大きな漆黒の瞳が黒豹のように獲物を捕らえる眼差しで美羽を見据えている。

 美羽の心臓がバクンと大きく跳ねる。

「そ、そんな……弟に、嫉妬するわけないじゃない。
 類に彼女がいてもおかしくないし……いいことだと、思……う」

 そう。
 類に彼女がいるなら……姉として、祝福しなくちゃいけないんだ。

 伏し目がちにして、強張った笑みを見せた。


「なに、それ」

 類が苦々にがにがしげな表情を浮かべる。

「残酷だね、ミューは。
 僕が好きなのが誰か、知ってるはずなのに」

 氷のような冷たい響きに、美羽の背筋がゾクリと震えた。食べかけの皿をテーブルに置き、美羽は腰を浮かせた。

「そうだ、洗濯物を畳まないと……」

 洗濯籠に伸ばそうとした美羽の手を、類が逃さないとばかりにグイと引っ張った。もう片方の手が持っていたケーキ皿をガシャンと乱暴に置き、美羽はビクリと身を震わせた。

「毎晩、僕を激しく求める癖に」

 美羽の顔がカッと熱くなり、胸にズキッとナイフを突き刺されたような痛みが走る。

「そん、なの……」

 TVのリモコンを手に取った類が、電源を消した。彼の声が、静まり返った部屋に低く響く。



「そんなのは、夜のふたりきりの世界でだけ?」



 類にグイと距離を縮められ、美羽は肩を震わせた。
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