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123.揺れる光の中で
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こうしていると、ふたりだけの世界にいるようで、心酔してしまう。
穏やかで幸せな時間が愛おしく感じる。
グラスボールを飾り終えるとふたりで協力してモールを飾り付け、それから小さなオーナメントを隙間を埋めるように飾り付けていく。
全てのオーナメントを飾り付け終えると、全体を見渡してバランスを確認し、真っ赤なツリースカートを履かせた。
だが、ここには肝心のものがない。
類が腰を屈めて下に置かれていた箱に手を伸ばすと、ツリーの一番上に飾る星のオーナメントを美羽に手渡した。
「ミューのために取っといたんだ。つけてくれる?」
「うん」
銀色に輝く星のオーナメントを受け取り、美羽はにっこりと頷いた。
背伸びをしてツリーに手を伸ばしたけれど、150センチに満たない美羽の身長では、ツリーの頂上に届かない。
「スツールを……」
そう呟いた美羽の腰を類は掴むと、グイと高く持ち上げた。
「キャッ!! 類、重いからいいよ!!」
「軽いよ。ほら、早くつけて」
「う、うん……」
小さな美羽は軽く、力を与えたらすぐに壊れそうなほど華奢だった。それを大切にしたいと思う一方で、自分の手でめちゃくちゃに壊したいという衝動も沸き起こる。
このまま美羽を押し倒して蹂躙したら、どうなるのかな……
「載せたよ」
美羽の声にハッとし、類は恭しく丁寧に彼女を下ろした。
ふたりで完成したツリーを眺める。
「毎年、家族でクリスマスツリーを飾ってたよね」
「うん……」
予想通り、美羽は痛みを与えられたかのように辛い表情を浮かべる。自分も胸が痛みながら、美羽に痛みを与えていることにゾクゾクと興奮する。
「ごめんね、ミュー」
感情を抑えて小さく告げた類の声に、美羽が見上げる。愛しい弟への同情、哀しみ、憐れみ、後悔……美羽の感情が、類の胸に入り込んでくる。
それに付け入るように、切ない表情で類は瞳を潤ませた。
「僕が、ミューの父さんとの綺麗な思い出を汚してしまった」
「そ、なこと……」
美羽の瞳がみるみる潤んだ。
「類、そんな風に思わないで。一番辛い思いをしたのは、類なんだから……」
ほんとに優しいね、ミューは。
「ミュー……」
類は美羽に向き直り、救いを求める庇護者のような瞳で見つめた。
耐え難い誘惑から逃れようとして退こうとする美羽に、類は膝をガクッと曲げて膝立ちの状態になった。美羽の腰をギュッと強く抱き締める。
切なそうに眉を寄せて見上げると真っ直ぐ美羽を捉え、掠れて震えた声で訴える。
「ミュー……ック……僕を、助けてよ。
ミューしかいなんだ、僕を救えるのはッグ」
「ッッ!」
美羽は大きく息を吸い込むと、躊躇いながらも類をそっと抱き締めた。
自分を受け入れてもらえたという歓喜が類の胸の奥から湧き出そうになるのを、必死に抑える。美羽に感づかれてはならない。
豊かな胸に頭を擦り寄せてみても、美羽は抗うことはなかった。腰に絡みついた腕を、解く仕草も見せない。
類は躰を震わせ、涙を浮かべて美羽を見上げた。
「もう僕は、ミューなしでは生きていけないんだ」
美羽の瞳から涙がポロポロと零れ落ちる。
私、だって……類なしではもう、生きられない。
言葉にならない美羽の声が、聞こえてくるかのようだ。
美羽の抱き締める手に力が籠もり、ふたりの心の距離が急速に近づいた。
その時、玄関の扉が開く音がガチャッと聞こえ、美羽は弾かれたように手を外し、類から離れた。まるで、悪夢から醒めたような怯えた表情だ。
類は眉間を寄せて睫毛を揺らし、切なげな表情を浮かべて美羽に呼びかけた。
「ミュー……」
玄関で靴を脱ぐ音が聞こえる。義昭の足音が近づいてきているのを聞きながら、美羽の躰が小刻みに震えていた。類はそれを、絶望的な気持ちで見つめていた。
僕を見て。
ねぇ、見捨てないでよ……
けれど、美羽の視界の先に類はもう、映されていなかった。
リビングの扉が開く。
「ただいま」
義昭の声に振り向いた美羽は、硬い笑みを浮かべた。
「義昭さん、お帰りなさい」
「おぉ、クリスマスツリーか。いいな」
Shit!
あと、少しだったのに……
類は俯いて拳をギュッと握り締めてから立ち上がると、完璧な笑みを浮かべた。
「さっき、ミューと飾ったんだ。綺麗でしょ?」
「あぁ。クリスマスなんて気にしたこともなかったが、ツリーがあると気分が盛り上がるな」
「よ、義昭さん、ご飯は?」
美羽はツリーへと歩み寄る義昭とは反対に、キッチンへと足を向けた。
「いや、遅くなりそうだったからコンビニで買ってきたものを会社で食べたから、大丈夫だ。
今日は疲れたから、風呂に入ったら寝るよ」
「あ、私ももう、休もうかな。今日は……疲れちゃったし」
美羽も義昭に便乗するようにそう言うと、そそくさと立ち去って行った。
ひとり残された類はギリッと歯噛みした。ツリーに飾られた美羽のグラスボールを掴み、ギュッと握り締める。
今度は完璧に、堕としてみせる。
類の指で弾かれたグラスボールは、大きく揺さぶられた。
穏やかで幸せな時間が愛おしく感じる。
グラスボールを飾り終えるとふたりで協力してモールを飾り付け、それから小さなオーナメントを隙間を埋めるように飾り付けていく。
全てのオーナメントを飾り付け終えると、全体を見渡してバランスを確認し、真っ赤なツリースカートを履かせた。
だが、ここには肝心のものがない。
類が腰を屈めて下に置かれていた箱に手を伸ばすと、ツリーの一番上に飾る星のオーナメントを美羽に手渡した。
「ミューのために取っといたんだ。つけてくれる?」
「うん」
銀色に輝く星のオーナメントを受け取り、美羽はにっこりと頷いた。
背伸びをしてツリーに手を伸ばしたけれど、150センチに満たない美羽の身長では、ツリーの頂上に届かない。
「スツールを……」
そう呟いた美羽の腰を類は掴むと、グイと高く持ち上げた。
「キャッ!! 類、重いからいいよ!!」
「軽いよ。ほら、早くつけて」
「う、うん……」
小さな美羽は軽く、力を与えたらすぐに壊れそうなほど華奢だった。それを大切にしたいと思う一方で、自分の手でめちゃくちゃに壊したいという衝動も沸き起こる。
このまま美羽を押し倒して蹂躙したら、どうなるのかな……
「載せたよ」
美羽の声にハッとし、類は恭しく丁寧に彼女を下ろした。
ふたりで完成したツリーを眺める。
「毎年、家族でクリスマスツリーを飾ってたよね」
「うん……」
予想通り、美羽は痛みを与えられたかのように辛い表情を浮かべる。自分も胸が痛みながら、美羽に痛みを与えていることにゾクゾクと興奮する。
「ごめんね、ミュー」
感情を抑えて小さく告げた類の声に、美羽が見上げる。愛しい弟への同情、哀しみ、憐れみ、後悔……美羽の感情が、類の胸に入り込んでくる。
それに付け入るように、切ない表情で類は瞳を潤ませた。
「僕が、ミューの父さんとの綺麗な思い出を汚してしまった」
「そ、なこと……」
美羽の瞳がみるみる潤んだ。
「類、そんな風に思わないで。一番辛い思いをしたのは、類なんだから……」
ほんとに優しいね、ミューは。
「ミュー……」
類は美羽に向き直り、救いを求める庇護者のような瞳で見つめた。
耐え難い誘惑から逃れようとして退こうとする美羽に、類は膝をガクッと曲げて膝立ちの状態になった。美羽の腰をギュッと強く抱き締める。
切なそうに眉を寄せて見上げると真っ直ぐ美羽を捉え、掠れて震えた声で訴える。
「ミュー……ック……僕を、助けてよ。
ミューしかいなんだ、僕を救えるのはッグ」
「ッッ!」
美羽は大きく息を吸い込むと、躊躇いながらも類をそっと抱き締めた。
自分を受け入れてもらえたという歓喜が類の胸の奥から湧き出そうになるのを、必死に抑える。美羽に感づかれてはならない。
豊かな胸に頭を擦り寄せてみても、美羽は抗うことはなかった。腰に絡みついた腕を、解く仕草も見せない。
類は躰を震わせ、涙を浮かべて美羽を見上げた。
「もう僕は、ミューなしでは生きていけないんだ」
美羽の瞳から涙がポロポロと零れ落ちる。
私、だって……類なしではもう、生きられない。
言葉にならない美羽の声が、聞こえてくるかのようだ。
美羽の抱き締める手に力が籠もり、ふたりの心の距離が急速に近づいた。
その時、玄関の扉が開く音がガチャッと聞こえ、美羽は弾かれたように手を外し、類から離れた。まるで、悪夢から醒めたような怯えた表情だ。
類は眉間を寄せて睫毛を揺らし、切なげな表情を浮かべて美羽に呼びかけた。
「ミュー……」
玄関で靴を脱ぐ音が聞こえる。義昭の足音が近づいてきているのを聞きながら、美羽の躰が小刻みに震えていた。類はそれを、絶望的な気持ちで見つめていた。
僕を見て。
ねぇ、見捨てないでよ……
けれど、美羽の視界の先に類はもう、映されていなかった。
リビングの扉が開く。
「ただいま」
義昭の声に振り向いた美羽は、硬い笑みを浮かべた。
「義昭さん、お帰りなさい」
「おぉ、クリスマスツリーか。いいな」
Shit!
あと、少しだったのに……
類は俯いて拳をギュッと握り締めてから立ち上がると、完璧な笑みを浮かべた。
「さっき、ミューと飾ったんだ。綺麗でしょ?」
「あぁ。クリスマスなんて気にしたこともなかったが、ツリーがあると気分が盛り上がるな」
「よ、義昭さん、ご飯は?」
美羽はツリーへと歩み寄る義昭とは反対に、キッチンへと足を向けた。
「いや、遅くなりそうだったからコンビニで買ってきたものを会社で食べたから、大丈夫だ。
今日は疲れたから、風呂に入ったら寝るよ」
「あ、私ももう、休もうかな。今日は……疲れちゃったし」
美羽も義昭に便乗するようにそう言うと、そそくさと立ち去って行った。
ひとり残された類はギリッと歯噛みした。ツリーに飾られた美羽のグラスボールを掴み、ギュッと握り締める。
今度は完璧に、堕としてみせる。
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