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108.回想−1
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今夜、わざと遅くに類は帰宅した。義昭は既に夕食を済ませており、自室に戻るところだったが、類はそんな彼を引き止めた。
「ねぇ、ワイン買ってきたから一緒に飲まない? ミューはお酒あんまり飲まないし、僕ひとりで飲むのもつまんないし」
「おぉ、いいな」
ダイニングテーブルに着くと、美羽が類のために食事の用意をしてくれた。トマトクリームスープ、白身魚のバジルペーストパン粉焼き、ベーコンとほうれん草のアルフレードソースパスタにガーリックトーストが添えてある。
「わぁ、美味しそう!!」
類は歓声をあげ、スプーンを手に取った。
「一気に出しちゃってごめんね」
申し訳なさそうに謝る美羽に、類はとびきりの笑顔を見せた。
「僕こそ、遅くに帰ってきたのにミューにご飯用意させちゃってごめんね」
美羽ははにかんだような笑みを見せると、「お茶、用意するね」と言ってキッチンへと向かった。その背中に呼びかける。
「あ、悪いんだけどワイングラス2つと栓抜きも持ってきてもらっていい?」
「はい」
熱いお茶を美羽が類の目の前に置き、その横にワイングラスと栓抜きを添える。
「ありがとう♪」
「うん」
美羽から栓抜きを受け取ると慣れた手つきでコルクを開け、ルビーのように輝く赤いワインをひとつのグラスになみなみと注ぐ。
「はい、ヨシ」
目の前にグラスを向けられる。
「ありがとう、ルイは飲まないのか?」
「このお酒は食後酒として飲みたいから、食事が終わったら飲むよ」
グラスを傾けた義昭は、喉に焼け付くような熱さを覚えて咳き込んだ。
「強いな、この酒」
「ポートワインだよ。ポルトガル原産で、ワインの中でもアルコール度の高い酒精強化ワインに分類されれてるんだ。
赤ワインはこの色の美しさから『ポルトガルの宝石』と呼ばれてて、食後酒としてチョコレートや葉巻と一緒に飲むとより美味しさが深まるって言われてるよ。あ、そうだ。その為にチョコレートも買っといたんだった!」
「いや、僕は……」
義昭が断るより先に、類は鞄から高級チョコレートの入った箱を出して持ってくると、義昭の目の前で開けて出した。
「ここのチョコレート舌が絡みつくぐらいに甘ったるいんだけど、それがこのワインと合うんだよね」
「そ、そうか」
そう言いながらも手を出さない義昭に、類がチョコレートの箱をぐいと目の前に押しやった。
「ヨシの為に買ってきたんだから、食べてよ!」
「あ。あぁ……」
義昭はチョコレートを恐る恐る摘むとワインを一気飲みした。
「おぉ、いい飲みっぷり!」
ルイは空になったグラスに再びワインをなみなみと注いだ。
「いや、ルイの分がなくなるから、大丈夫だ」
「あぁ、これ食後酒だから、僕はグラスの半分ぐらいでいいや」
「そ、そうか」
「ねぇ、甘いけどこのチョコレート癖になるでしょ? 遠慮せず、どんどん食べてね!!」
類が義昭に勧めていると、食器の後片付けを終えた美羽が遠慮がちに声をかけた。
「それじゃ、おやすみなさい。楽しんでね」
「ミュー、おやすみ!」
類が笑顔で見送り、心のなかで呟いた。
また、あとでね……
食事を終えた類も一緒にポートワインを飲み始めた。
ふたりでの会話は、類が仕事や最近のニュースで話題になっていることなどをどんどん振っていき、それに義昭が答えるのが常だった。アメリカの大学で出会ったふたりだったが、その頃の話をすることはなかったし、類からは聞きずらい雰囲気が漂っていた。
「ヨシってほんと物知りだよねー。いろんな話聞くの、すっごく楽しいよ」
「いや、そうでもないが……」
そう言いながらも義昭は真っ赤な顔を緩めて、饒舌に語った。類はその隙をつき、義昭のグラスに少量の睡眠薬を混ぜた。
類に勧められるままチョコレートを肴にワインをぐいぐい飲み、フルボトルがあっという間に空になっていた。
「ちょっと、トイレ行ってくるね」
そう言って立ち上がった類が、椅子に足を引っ掛けてよろめいた。
「お、おい大丈夫か!?」
一瞬酒に冷めたかのように驚いた義昭が覗き込んだ。
「あはっ、そんなに飲んでないつもりだったのに、酔っ払ったみたい」
「そうか」
類は俯いてポケットを探ってから、くるりと義昭に振り向いた。
「今日は、もう寝るよ。
ヨシも結構きてるんじゃない?」
「あぁ、そうだな。そろそろ寝ないとな」
義昭はふらふらと立ち上がったものの、グラリと躰が揺れて床に倒れこんだ。
「ヨシ!?」
「す、すまない。僕もかなりきているようだな」
「明日も仕事だし、早く寝なよ」
「あぁ、そうだな……じゃ、また明日」
義昭は緩慢な仕草で立ち上がると、フラつきながら階段の手摺に掴まり、一歩一歩ゆっくりと歩いていった。頭がグラングラン揺れ、今にも寝そうだった。
だが、なんとか階段を上りきり、自室に辿り着いたようで、扉の閉まる音が聞こえて類はホッと息を吐いた。もし自力でたどり着けなければ、類が運ばなければならないところだった。
今頃は、睡眠薬とワインの効果で死んだように眠っていることだろう。
部屋に戻った類はポケットからスマホを取り出すと、画面に出ていた矢印ボタンを押した。
『お、おい大丈夫か!?』
義昭の声が再生される。
「うん、完璧♪」
唇を歪めて微笑んだ。
今度は別のアプリを立ち上げると、美羽がドレッサーの前に座り、濡れた髪をドライヤーで乾かしている姿が映し出された。
フフッ……ミューに、揺さぶりをかけないとね。
「ねぇ、ワイン買ってきたから一緒に飲まない? ミューはお酒あんまり飲まないし、僕ひとりで飲むのもつまんないし」
「おぉ、いいな」
ダイニングテーブルに着くと、美羽が類のために食事の用意をしてくれた。トマトクリームスープ、白身魚のバジルペーストパン粉焼き、ベーコンとほうれん草のアルフレードソースパスタにガーリックトーストが添えてある。
「わぁ、美味しそう!!」
類は歓声をあげ、スプーンを手に取った。
「一気に出しちゃってごめんね」
申し訳なさそうに謝る美羽に、類はとびきりの笑顔を見せた。
「僕こそ、遅くに帰ってきたのにミューにご飯用意させちゃってごめんね」
美羽ははにかんだような笑みを見せると、「お茶、用意するね」と言ってキッチンへと向かった。その背中に呼びかける。
「あ、悪いんだけどワイングラス2つと栓抜きも持ってきてもらっていい?」
「はい」
熱いお茶を美羽が類の目の前に置き、その横にワイングラスと栓抜きを添える。
「ありがとう♪」
「うん」
美羽から栓抜きを受け取ると慣れた手つきでコルクを開け、ルビーのように輝く赤いワインをひとつのグラスになみなみと注ぐ。
「はい、ヨシ」
目の前にグラスを向けられる。
「ありがとう、ルイは飲まないのか?」
「このお酒は食後酒として飲みたいから、食事が終わったら飲むよ」
グラスを傾けた義昭は、喉に焼け付くような熱さを覚えて咳き込んだ。
「強いな、この酒」
「ポートワインだよ。ポルトガル原産で、ワインの中でもアルコール度の高い酒精強化ワインに分類されれてるんだ。
赤ワインはこの色の美しさから『ポルトガルの宝石』と呼ばれてて、食後酒としてチョコレートや葉巻と一緒に飲むとより美味しさが深まるって言われてるよ。あ、そうだ。その為にチョコレートも買っといたんだった!」
「いや、僕は……」
義昭が断るより先に、類は鞄から高級チョコレートの入った箱を出して持ってくると、義昭の目の前で開けて出した。
「ここのチョコレート舌が絡みつくぐらいに甘ったるいんだけど、それがこのワインと合うんだよね」
「そ、そうか」
そう言いながらも手を出さない義昭に、類がチョコレートの箱をぐいと目の前に押しやった。
「ヨシの為に買ってきたんだから、食べてよ!」
「あ。あぁ……」
義昭はチョコレートを恐る恐る摘むとワインを一気飲みした。
「おぉ、いい飲みっぷり!」
ルイは空になったグラスに再びワインをなみなみと注いだ。
「いや、ルイの分がなくなるから、大丈夫だ」
「あぁ、これ食後酒だから、僕はグラスの半分ぐらいでいいや」
「そ、そうか」
「ねぇ、甘いけどこのチョコレート癖になるでしょ? 遠慮せず、どんどん食べてね!!」
類が義昭に勧めていると、食器の後片付けを終えた美羽が遠慮がちに声をかけた。
「それじゃ、おやすみなさい。楽しんでね」
「ミュー、おやすみ!」
類が笑顔で見送り、心のなかで呟いた。
また、あとでね……
食事を終えた類も一緒にポートワインを飲み始めた。
ふたりでの会話は、類が仕事や最近のニュースで話題になっていることなどをどんどん振っていき、それに義昭が答えるのが常だった。アメリカの大学で出会ったふたりだったが、その頃の話をすることはなかったし、類からは聞きずらい雰囲気が漂っていた。
「ヨシってほんと物知りだよねー。いろんな話聞くの、すっごく楽しいよ」
「いや、そうでもないが……」
そう言いながらも義昭は真っ赤な顔を緩めて、饒舌に語った。類はその隙をつき、義昭のグラスに少量の睡眠薬を混ぜた。
類に勧められるままチョコレートを肴にワインをぐいぐい飲み、フルボトルがあっという間に空になっていた。
「ちょっと、トイレ行ってくるね」
そう言って立ち上がった類が、椅子に足を引っ掛けてよろめいた。
「お、おい大丈夫か!?」
一瞬酒に冷めたかのように驚いた義昭が覗き込んだ。
「あはっ、そんなに飲んでないつもりだったのに、酔っ払ったみたい」
「そうか」
類は俯いてポケットを探ってから、くるりと義昭に振り向いた。
「今日は、もう寝るよ。
ヨシも結構きてるんじゃない?」
「あぁ、そうだな。そろそろ寝ないとな」
義昭はふらふらと立ち上がったものの、グラリと躰が揺れて床に倒れこんだ。
「ヨシ!?」
「す、すまない。僕もかなりきているようだな」
「明日も仕事だし、早く寝なよ」
「あぁ、そうだな……じゃ、また明日」
義昭は緩慢な仕草で立ち上がると、フラつきながら階段の手摺に掴まり、一歩一歩ゆっくりと歩いていった。頭がグラングラン揺れ、今にも寝そうだった。
だが、なんとか階段を上りきり、自室に辿り着いたようで、扉の閉まる音が聞こえて類はホッと息を吐いた。もし自力でたどり着けなければ、類が運ばなければならないところだった。
今頃は、睡眠薬とワインの効果で死んだように眠っていることだろう。
部屋に戻った類はポケットからスマホを取り出すと、画面に出ていた矢印ボタンを押した。
『お、おい大丈夫か!?』
義昭の声が再生される。
「うん、完璧♪」
唇を歪めて微笑んだ。
今度は別のアプリを立ち上げると、美羽がドレッサーの前に座り、濡れた髪をドライヤーで乾かしている姿が映し出された。
フフッ……ミューに、揺さぶりをかけないとね。
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