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46.世間体
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もし……もし、こんなことが世間に知られてしまったら……この子たちだけじゃなく、母親である私まで非難されてしまう。新聞に顔写真が載り、TVのニュースで流されて、近所の人たちや友人、同級生にまで知られて……世間から非難され、怯えて毎日を暮らす事になってしまう。
華江の混乱が徐々に更なる怒りとなって、燃え上がる。
絶対にそんなことにはさせない!
この間違った関係をすぐにでも正さなければ。
華江は迸る怒りを言葉に変えて、類を攻撃し、非難した。
「あなたは姉弟愛を思春期の一時的な欲情に流されて本当の愛だと勘違いしてるだけ!! こんな関係絶対にありえないのっっ!!」
華江の滾る怒りを受け止めてもまだ、類の母親を見つめる眼差しはまるで硬く閉ざされた氷山のように冷たく恐ろしいものだった。
「世間でありえないとか非常識とか関係ないし。大切なのは僕たちの気持ちでしょ? 僕たちは生まれた時から互いが大切な存在で、ずっとその想いは変わらない。別にふたりに迷惑掛けるつもりないし、子供だって欲しいわけじゃない」
類の言葉に、美羽は肩を小さく震わせた。
もちろん、美羽だって子供が欲しいと望んでいるわけない。けれど、彼女の胸の中には『今は、まだ』という言葉がついてくる。
まだ高校生である自分を自覚しているし、類と禁忌の関係で子供など望めない事も分かっているけれど……将来、いつか子供を産み、育てたいという密かな願いも持っているのもまた事実だった。
誰にも……類にすら、話したことのない、密かな想い。それを目の前で一刀両断され、理解はしているものの、美羽の胸がチクリと痛んだ。
華江は類の両腕を掴み、揺さぶった。自分の思い通りにならない息子に激しい怒りと憤りが胸の中でとぐろを巻き、憎しみすら生み出されていく。
「どうして、どうして分からないの!! なんであなたはいつでも私の言うことを聞かないの!! その目は何!! 私の事をなんだと思ってるの!! 私はあなたの母親なのよ!! 私はあなたたちのことを思って言ってるの!!」
キャンキャンと子犬のように吠え立てる華江を、類が鼻で笑った。
「ちょ、待ってよ……僕たちのためじゃなくて、母さんのため、でしょ?
世間体が気になるから、自分が恥をかくからって正直に言えばいいじゃん」
本心を見透かされ、華江はカーッと一気に顔を熱くした。けれど、その言葉を超える説得力ある言い訳を華江は持たない。ただ、やり場をなくした怒りだけが台風のように吹き荒れる。
「そんなはずないでしょう!! こ、んな……狂ってる……ウッ、ウゥッ……信じ、られない……うちの、子が……あぁぁぁぁぁぁあああああああ!!」
華江は膝からガクンと床に落ち、抑制のきかない感情に撃ち抜かれて泣き崩れた。類は支配者のようにそれを見下ろし、ソファの片隅で小さくなっている美羽は全身を震わせながら青い顔で嗚咽を漏らしている。
父親の宏典は、その光景に呆然と立ち尽くしていた。
いつもならアメリカ出張同行を楽しみにし、滞在中グルメや買い物に夢中の妻がずっと落ち着かない様子を見せ、一日も早く家に帰りたいと言い出したのには驚いた。理由を聞いても口籠り、ただ子供たちが心配だからと答えたのも、普段子供たちのことをあまり話題にしない華江らしくなかった。飛行機の中でも上の空かと思えばイライラした様子を見せたり、感情の揺れが激しかった。そんな華江になす術もなく、ただ不安だけが心の中にじわじわと浸透していった。
玄関に着いた途端華江は無口になり、扉に耳を当ててから慎重に鍵を開けた。その姿に、違和感を覚えた。
それが、玄関を開けたことで、華江の心に何があったのかを知ったのだった。
玄関からも聞こえるほどの嬌声と淫らな音。
類が、女を連れ込んでいるのか?
そう考えたのは、まさか品行方正な美羽が男を連れ込み、玄関から聞こえるぐらいあられのない声で叫んでいるなど、想像できなかったからだ。
華江は荷物をそこに置いたまま靴を脱ぎ捨て、スタスタと音の方へと近づいていった。宏典は重い気持ちを引き摺りながら華江の後ろをついて行った。
両親が不在の中、高校生の類に対して彼女を家に連れ込んでセックスするなと説教しても、どのぐらい自分の言うことを聞いてくれるだろうかと鬱々した思いでいると、華江のけたたましい悲鳴が鳴り響いた。
『あなたたち何してるのっっ!! 今すぐ離れなさい!!』
あまりの激しい癇癪に驚愕しながらリビングルームに入ると、美羽が慌てて乱れた衣服を直し、類が平然とした顔で全裸のまま彼女の傍に立っている。その下半身は情事の最中とばかりに勢い良く屹立《きつりつ》していた。
一体……どういうことなんだ!?
宏典の頭が真っ白になった。華江は怒りを剥き出しにして感情を露わにしているが、宏典はこの状況に頭がまったくついていけなかった。
華江の混乱が徐々に更なる怒りとなって、燃え上がる。
絶対にそんなことにはさせない!
この間違った関係をすぐにでも正さなければ。
華江は迸る怒りを言葉に変えて、類を攻撃し、非難した。
「あなたは姉弟愛を思春期の一時的な欲情に流されて本当の愛だと勘違いしてるだけ!! こんな関係絶対にありえないのっっ!!」
華江の滾る怒りを受け止めてもまだ、類の母親を見つめる眼差しはまるで硬く閉ざされた氷山のように冷たく恐ろしいものだった。
「世間でありえないとか非常識とか関係ないし。大切なのは僕たちの気持ちでしょ? 僕たちは生まれた時から互いが大切な存在で、ずっとその想いは変わらない。別にふたりに迷惑掛けるつもりないし、子供だって欲しいわけじゃない」
類の言葉に、美羽は肩を小さく震わせた。
もちろん、美羽だって子供が欲しいと望んでいるわけない。けれど、彼女の胸の中には『今は、まだ』という言葉がついてくる。
まだ高校生である自分を自覚しているし、類と禁忌の関係で子供など望めない事も分かっているけれど……将来、いつか子供を産み、育てたいという密かな願いも持っているのもまた事実だった。
誰にも……類にすら、話したことのない、密かな想い。それを目の前で一刀両断され、理解はしているものの、美羽の胸がチクリと痛んだ。
華江は類の両腕を掴み、揺さぶった。自分の思い通りにならない息子に激しい怒りと憤りが胸の中でとぐろを巻き、憎しみすら生み出されていく。
「どうして、どうして分からないの!! なんであなたはいつでも私の言うことを聞かないの!! その目は何!! 私の事をなんだと思ってるの!! 私はあなたの母親なのよ!! 私はあなたたちのことを思って言ってるの!!」
キャンキャンと子犬のように吠え立てる華江を、類が鼻で笑った。
「ちょ、待ってよ……僕たちのためじゃなくて、母さんのため、でしょ?
世間体が気になるから、自分が恥をかくからって正直に言えばいいじゃん」
本心を見透かされ、華江はカーッと一気に顔を熱くした。けれど、その言葉を超える説得力ある言い訳を華江は持たない。ただ、やり場をなくした怒りだけが台風のように吹き荒れる。
「そんなはずないでしょう!! こ、んな……狂ってる……ウッ、ウゥッ……信じ、られない……うちの、子が……あぁぁぁぁぁぁあああああああ!!」
華江は膝からガクンと床に落ち、抑制のきかない感情に撃ち抜かれて泣き崩れた。類は支配者のようにそれを見下ろし、ソファの片隅で小さくなっている美羽は全身を震わせながら青い顔で嗚咽を漏らしている。
父親の宏典は、その光景に呆然と立ち尽くしていた。
いつもならアメリカ出張同行を楽しみにし、滞在中グルメや買い物に夢中の妻がずっと落ち着かない様子を見せ、一日も早く家に帰りたいと言い出したのには驚いた。理由を聞いても口籠り、ただ子供たちが心配だからと答えたのも、普段子供たちのことをあまり話題にしない華江らしくなかった。飛行機の中でも上の空かと思えばイライラした様子を見せたり、感情の揺れが激しかった。そんな華江になす術もなく、ただ不安だけが心の中にじわじわと浸透していった。
玄関に着いた途端華江は無口になり、扉に耳を当ててから慎重に鍵を開けた。その姿に、違和感を覚えた。
それが、玄関を開けたことで、華江の心に何があったのかを知ったのだった。
玄関からも聞こえるほどの嬌声と淫らな音。
類が、女を連れ込んでいるのか?
そう考えたのは、まさか品行方正な美羽が男を連れ込み、玄関から聞こえるぐらいあられのない声で叫んでいるなど、想像できなかったからだ。
華江は荷物をそこに置いたまま靴を脱ぎ捨て、スタスタと音の方へと近づいていった。宏典は重い気持ちを引き摺りながら華江の後ろをついて行った。
両親が不在の中、高校生の類に対して彼女を家に連れ込んでセックスするなと説教しても、どのぐらい自分の言うことを聞いてくれるだろうかと鬱々した思いでいると、華江のけたたましい悲鳴が鳴り響いた。
『あなたたち何してるのっっ!! 今すぐ離れなさい!!』
あまりの激しい癇癪に驚愕しながらリビングルームに入ると、美羽が慌てて乱れた衣服を直し、類が平然とした顔で全裸のまま彼女の傍に立っている。その下半身は情事の最中とばかりに勢い良く屹立《きつりつ》していた。
一体……どういうことなんだ!?
宏典の頭が真っ白になった。華江は怒りを剥き出しにして感情を露わにしているが、宏典はこの状況に頭がまったくついていけなかった。
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