15 / 498
14.高まる不安
しおりを挟む
白いポーチの扉を抜けると庭があり、フラットな石畳の両脇には綺麗に短く刈り込まれた芝が広がっている。真っ白な壁にライトグレーの屋根の二階建てのモダンな邸宅は、父と息子の二人暮らしにはかなり大きく感じる。
ダークブラウンの重厚な玄関の扉には鍵穴がなく、壁に番号のボタンがついた黒いカードリーダーのような機械が埋め込まれていた。そこに類が手を翳し、4桁の暗証番号を押すと扉がガチャッと鳴った。
え、何これ……すごいシステム。
美羽が思わず見入っていると、類が扉を開けた。
「遺品整理とかちゃんと出来てなくてごちゃごちゃしてるけど、あがって」
中に入るように促され、玄関へと入る。玄関は日本のような段差がなくフラットで、磨き上げられた白い床から直接フローリングの廊下へと繋がっていた。
「お邪魔します」
靴を脱いであがると、その先はゆったりとしたリビングルームが広がっていて、左側には階段が上と下に伸びていた。地下もあるらしい。
日本とは違う広々とした間取りと高い天井に圧倒され、美羽は思わずぐるっと見回した。
革張りのカウチがL字型に置かれ、重厚なガラスのローテーブルが置かれている。前方の壁にはスチールの枠に囲まれたモダンな暖炉が埋め込まれていた。最近日本でも流行っている薪を使わないバイオエタノール暖炉だ。温暖なLAでは機能性としてよりもインテリアを重視して置かれているのだろう。その上には60インチはあると思われる大きなスクリーンのTVが掛かっていた。
「今、取ってくるから、そこで適当に座ってて」
類がそう声をかけ、階段を上っていった。
美羽がおずおずとカウチに座ると思ったよりも深く沈み、包み込まれるような感覚に陥った。肘掛けの横のボタンに触れてしまい、足掛け用のオットマンが跳ね上がる。
「うわっ……」
思わず声を上げた美羽に、義昭ももう一方のカウチに座って同じようにし、背もたれを低くした。
「これは、快適だな」
「うん……」
長時間のフライトで疲労と睡眠不足の中、葬儀に出席して緊張が続き、今こうして快適なカウチに身を任せてしまうと、そのまま眠ってしまいそうだった。美羽は本能と理性を闘わせ、なんとか眠気と疲れを追い払うとカウチから身を起こし、立ち上がった。
そこへ、マグカップを載せたトレイと大きな紙袋を持った類が下りてきた。
「お待たせー」
義昭の肘掛けから飛行機で使うようなトレイを出し、そこにマグカップを載せる。義昭はウトウトしかけた躰をのっそりと起こし、「ありがとう……」と言い、マグカップを手に取った。美羽はそのまま夫が寝てしまわず、ホッと息を吐いた。
類から手渡されたマグカップを手に取ると、ローテーブルの前に正座した。口に持っていくと、カモミールの匂いが鼻腔をつく。その香りを嗅ぐだけで気持ちがリラックスし、癒されていく。ゆっくりと口に含むとトロッとした甘さが広がった。類はカモミールティーに蜂蜜を入れて飲むのが好きだったと、思い出した。
「それで、これが父さんから」
ローテーブルの上に大きな紙袋が置かれた。
「ありがとう」
美羽は戸惑いながら受け取ると、おそるおそる中を覗いた。
けれど、紙袋には包装用のティッシュがたくさん詰められていて、中身が見えない。
「開けてみて、もし美羽が気に入らなければ、ここに置いてっていいから」
類にそんなことを言われ、ますます気になった美羽はティッシュを取り除いた。そこには、小さな箱がいくつも入っている。その一つを取り出し、包装紙を開けると、そこにはさくらんぼのデザインのネックレスが入っていた。
「可愛い……」
他にも開けていくと、指輪やブレスレット、ピアス等のアクセサリーが入っている。どれも可愛らしいデザインのものばかりだった。思えば美羽は、幼い頃から誕生日にはブローチやヘアアクセサリー等、身につけるものを父からプレゼントされていた。離れていても、父は自分を忘れることなく、誕生日には密かに祝ってくれていたのだと思うと、美羽の胸が熱く震えた。
「……父さんは、毎年ミューの誕生日にはプレゼントを買ってた」
類の『ミューの』という言葉に、引っ掛かりを覚える。双子である自分たちは同じ誕生日なのだから、普通なら『僕たちの』というのが自然なはずなのに。それでも、美羽はそれ以上関わりを持ちたくなくて、違和感を心の奥に押し込め、笑顔を見せた。
「ありがとう。大切にするね……それじゃ、そろそろ行こうか」
ふと義昭に目を移すと、カウチに横たわって眠っている。美羽は顔を引き攣らせ、義昭の元へと行き、肩を揺さぶった。
「義昭さん! 義昭さん! ホテルに帰るから……」
お願い、起きて……早くここを出たい。
ダークブラウンの重厚な玄関の扉には鍵穴がなく、壁に番号のボタンがついた黒いカードリーダーのような機械が埋め込まれていた。そこに類が手を翳し、4桁の暗証番号を押すと扉がガチャッと鳴った。
え、何これ……すごいシステム。
美羽が思わず見入っていると、類が扉を開けた。
「遺品整理とかちゃんと出来てなくてごちゃごちゃしてるけど、あがって」
中に入るように促され、玄関へと入る。玄関は日本のような段差がなくフラットで、磨き上げられた白い床から直接フローリングの廊下へと繋がっていた。
「お邪魔します」
靴を脱いであがると、その先はゆったりとしたリビングルームが広がっていて、左側には階段が上と下に伸びていた。地下もあるらしい。
日本とは違う広々とした間取りと高い天井に圧倒され、美羽は思わずぐるっと見回した。
革張りのカウチがL字型に置かれ、重厚なガラスのローテーブルが置かれている。前方の壁にはスチールの枠に囲まれたモダンな暖炉が埋め込まれていた。最近日本でも流行っている薪を使わないバイオエタノール暖炉だ。温暖なLAでは機能性としてよりもインテリアを重視して置かれているのだろう。その上には60インチはあると思われる大きなスクリーンのTVが掛かっていた。
「今、取ってくるから、そこで適当に座ってて」
類がそう声をかけ、階段を上っていった。
美羽がおずおずとカウチに座ると思ったよりも深く沈み、包み込まれるような感覚に陥った。肘掛けの横のボタンに触れてしまい、足掛け用のオットマンが跳ね上がる。
「うわっ……」
思わず声を上げた美羽に、義昭ももう一方のカウチに座って同じようにし、背もたれを低くした。
「これは、快適だな」
「うん……」
長時間のフライトで疲労と睡眠不足の中、葬儀に出席して緊張が続き、今こうして快適なカウチに身を任せてしまうと、そのまま眠ってしまいそうだった。美羽は本能と理性を闘わせ、なんとか眠気と疲れを追い払うとカウチから身を起こし、立ち上がった。
そこへ、マグカップを載せたトレイと大きな紙袋を持った類が下りてきた。
「お待たせー」
義昭の肘掛けから飛行機で使うようなトレイを出し、そこにマグカップを載せる。義昭はウトウトしかけた躰をのっそりと起こし、「ありがとう……」と言い、マグカップを手に取った。美羽はそのまま夫が寝てしまわず、ホッと息を吐いた。
類から手渡されたマグカップを手に取ると、ローテーブルの前に正座した。口に持っていくと、カモミールの匂いが鼻腔をつく。その香りを嗅ぐだけで気持ちがリラックスし、癒されていく。ゆっくりと口に含むとトロッとした甘さが広がった。類はカモミールティーに蜂蜜を入れて飲むのが好きだったと、思い出した。
「それで、これが父さんから」
ローテーブルの上に大きな紙袋が置かれた。
「ありがとう」
美羽は戸惑いながら受け取ると、おそるおそる中を覗いた。
けれど、紙袋には包装用のティッシュがたくさん詰められていて、中身が見えない。
「開けてみて、もし美羽が気に入らなければ、ここに置いてっていいから」
類にそんなことを言われ、ますます気になった美羽はティッシュを取り除いた。そこには、小さな箱がいくつも入っている。その一つを取り出し、包装紙を開けると、そこにはさくらんぼのデザインのネックレスが入っていた。
「可愛い……」
他にも開けていくと、指輪やブレスレット、ピアス等のアクセサリーが入っている。どれも可愛らしいデザインのものばかりだった。思えば美羽は、幼い頃から誕生日にはブローチやヘアアクセサリー等、身につけるものを父からプレゼントされていた。離れていても、父は自分を忘れることなく、誕生日には密かに祝ってくれていたのだと思うと、美羽の胸が熱く震えた。
「……父さんは、毎年ミューの誕生日にはプレゼントを買ってた」
類の『ミューの』という言葉に、引っ掛かりを覚える。双子である自分たちは同じ誕生日なのだから、普通なら『僕たちの』というのが自然なはずなのに。それでも、美羽はそれ以上関わりを持ちたくなくて、違和感を心の奥に押し込め、笑顔を見せた。
「ありがとう。大切にするね……それじゃ、そろそろ行こうか」
ふと義昭に目を移すと、カウチに横たわって眠っている。美羽は顔を引き攣らせ、義昭の元へと行き、肩を揺さぶった。
「義昭さん! 義昭さん! ホテルに帰るから……」
お願い、起きて……早くここを出たい。
0
お気に入りに追加
231
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる