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理想の萌えシチュ

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傾いた太陽の光が校舎の窓硝子に吸収されて
圧縮されてから解放されたように
圧倒的な強さで
人気のなくなった教室を眩しく照らし出す

たちまち世界は
オレンジのセロファンを重ねた色へと変化する

彼の部活が終わるのを待ちながら
同じ部活待ちの友達と二人で向かい合わせに座り
女子トークに花を咲かせる

話題は
理想の萌えシチュ

オレンジに染められた瞳をキラキラさせる友達。

「そりゃ、『壁ドン』でしょ!」

「えぇーっ、前から来られるよりも
 後ろからギューッの方が絶対萌えるって!」

互いの萌えシチュトークに熱が籠もる

突然……

ドスッ!!

重い何かが落とされる音と共に
後ろから回された、筋肉質の太い腕

汗の染み込んだTシャツの匂い
耳元をくすぐる
低くて心地のいい声……

「なに
 こうされるのが好きなの?」

「ッッ」

心臓が飛び跳ね
肺が潰れてしまうかと思うくらい驚いて

それから……

「は、離して……///」

恥ずかし、過ぎるよ……

こんな、突然
しかも、友達の見てる前とか

正面に座る友達は私を見て
ニヤニヤ笑ってる

ヴ……

「……うん……好、き……///」

彼の腕に顔を埋めて答える

彼の腕がゆっくり外されて
床に投げ出されたスポーツバッグを
ボスッと左肩に担いだ

「ほら、行くぞ」

私に背を向け
乱暴に差し出される右手

けれど

後ろ姿の短髪から見える
彼の耳は夕陽より真っ赤に染まってて……

照れ隠しだって
知ってるから

「うんっ!」

手を重ねると
強く握り締められて

嬉しくて
弾むように、椅子から立ち上がった
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