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おまけ2 ーユリアーノーとヒューバートの攻防ー

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 厩舎での仕事を終えたヒューバートは、今度こそクロードへの挨拶をするためにクロードとルチアの寝室へと向かっていた。

 もうきっと、起きていらっしゃる頃だろう。早く、国王陛下に挨拶しなければ……

 すると、途中の廊下でユリアーノが立っている。

「クロード様とルチア様ならまだ寝てるから、邪魔しないでよねー」
「なっ……!」

 なんで、ユリアーノが知っているのだ。もしかして、寝室に行ったのか?

 訝しんでいると、ユリアーノがパチンと指を鳴らした。

「そうだ、ヒュービー! 浴場の掃除しといてくれないかなぁ」
「また私に指図を……昨日は私が浴場の支度をした。掃除なら、お前がすればよかろう!」
「俺は草花の世話があるからさ。それとも、国王陛下が入られる浴槽の掃除、俺がしてもいいの?」
「……っ、行ってくる!!」
「頑張ってねぇ!」

 ユリアーノがヒラヒラと手を振って、ヒューバートを見送った。


 まったく、なぜこの私が浴場の掃除までしないといけないのだ。だが、国王陛下が使用する全ての場所を清潔に保つのも、私の務めだ。

「んっ? なんだ、これは……」

 脱衣所の床には、染みのようなものがアチコチに広がっていた。

 不思議に思いながらも脱衣所の掃除を終え、浴場へと踏み入れる。キャンドルの火は消えており、天窓から太陽の光が燦々と降り注いでいる。

 浴槽に浮かべられた薔薇の花弁からは未だむせ返るような匂いがたちこめており、その匂いを嗅ぐと、ヒューバートは躰が疼くような感覚にとらわれた。

 落ち着かない気分だ……さっさと掃除をすませてしまおう。

 浴槽の掃除を終え、ふと浴槽の近くに置かれたカウチに目を移すと、カウチが濡れているようだ。

 湯にのぼせて、ここで休まれたのか……

「こっ、これ、は!!」

 カウチには、白濁の液がベットリとついていた。さすがのヒューバートでも、昨晩ここでクロードとルチアが秘事を交わしたのだと分かり、顔を真っ赤にした。

 ヒューバートの母がクロードの乳母であったこともあり、幼い頃からヒューバートはクロードを見てきた。愛する母から隔離され、父から厳しく躾けられ、押さえつけられてきたクロード。その胸の内は、どれだけ苦しいだろうかと幼心に胸を痛めた。

 母が亡くなった時にさえ、涙を流すことはなかったクロード。せめて自分だけは、クロードの一番の理解者でありたいと願った。

 そして、クロードが前国王であった父にクーデターを起こす決意をした時、ヒューバートはクロードが本心では父を殺すのを恐れているのを知っていた。けれど、彼は国民のために立ち上がることにしたのだ。これ以上、彼らを苦しめることがないように。そんなクロードに、ヒューバートは一生彼についていくと誓ったのだった。

 父である前国王を倒してから、ますますクロードは心を閉ざすようになった。誰にも心を許さず、ただ国民のためだけに尽くしている孤高の国王、クロード。ヒューバートはこのまま彼が、一生誰も愛することなく生涯を生きていくのだと思っていたし、自分もまた彼と同じく独身を貫き、一生を彼に捧げるつもりでいた。

 それが……クロードはルチアと出会ったことにより変わった。彼女に対しては今まで見せなかったような表情を見せるようになり、想像も出来なかった行動に出るようになった。その都度ヒューバートは戸惑い、焦燥した。

 自分こそがクロードの一番の理解者であると信じていたのに、いきなり現れたルチアにクロードを奪われたような気がして、ルチアに対して敵対心と嫉妬を覚えた。

 だが、ルチアと接していくうちに、彼女の純真さや芯の強さ、そしてクロードへの愛情の深さを知って、少しずつヒューバートの心が変わっていった。いまだにクロードに対して1番忠実な部下であり、彼の右腕でありたいという気持ちはあるものの、ルチアがクロードにとってなにより大切な存在であることを認めている。

 ただ……いまだ、クロードがルチアに対して優しく甘い表情を見せることに慣れていないのだ。また、ふたりが近寄ったり、キスをする姿を見ることにも……

 そして今、彼らの交わりの痕を見て、ヒューバートは狼狽していた。

 こ、国王陛下だって男だ。久しぶりに再会した王妃殿下とそういうことになるのは、当たり前のことなんだ……こ、これぐらいのことで、動揺するな……

 全身を火照らせながら、ヒューバートはいそいそと掃除に励んだ。
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