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過去の呪縛
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漆黒の闇の中、幼いクロードは膝を抱えて座っていた。肩を震わせ、唇を噛み締め、涙を堪えて膝を抱える。
そこへ、すっと消えそうなくらい細い一筋の光が差し込んだ。
その光を求めて立ち上がり、クロードは歩き出す。
けれど……
歩いても、歩いても、その光には届かない。
やがて、必死に走ってその光を追い掛ける。
「ははぎみっ! ま、まって……まってください!!」
足が縺れ、床に倒れたクロードに、巨大な影が覆い被さる。微かな光は消え、漆黒の闇に飲み込まれた。
空気全体を震わすような声が、一帯に響き渡る。
『あの女のことなど、忘れろ』
『人の感情など、捨てろ。国王になるためにはいらぬものだ』
幼いクロードは耳を塞ぎ、頭を床に沈めて震えている。漆黒の闇が、のしかかるかのように強い力で抑えつけていく。
「やめ、て……」
すると、突然……温かい光がクロードを包み込み、躰にのしかかっていた圧力がふっと消えた。
「クロ……クロード……」
わたしは……このこえを、しっている。
「はは、ぎみ? ははぎみ、なのですか?」
微かに聞こえる柔らかい声に、クロードが顔を上げる。
「だい、じょうぶ……私が、そばに……」
クロードの躰が浮き上がる。温かく包まれていた光にギュウッと抱き締められるような感覚を覚える。
ーーわたしは、このぬくもりをしっている。
クロードは涙を流し、微笑んだ。
「やっと……あえましたね」
目を開けると、クロードは、まるで幼い子供を宥める母親に抱かれるかのように、ルチアの胸に抱き留められていた。
僅かに身じろぐと、ルチアがクロードを見下ろした。
「クロード、様……」
「ルチア?」
ルチアが、クロードの背中に回していた手を外した。
「申し訳ございませんっっ。クロード様が夢で魘されていたので、心配でつい……クロード様のことを抱き締めておりました」
「やはり、お前だったのか」
「え?」
「いや、こちらの話だ」
お前は……過去の、幼い私までも救ってくれたのだな。
離されたルチアの手を、再び背中へと回させる。
「クロード様!?」
「こうしていて、くれまいか? もう少しで……届きそうだったのだ」
「ぇ? ……ぁ、はい」
ルチアの温かな胸に包まれて、クロードは今度は幸せな眠りに墜ちていった。
トン、トン……
扉をノックする音が響く。
暫くしてもう一度、
トン、トン……
今度は遠慮がちに小さくノックする音が響いた後、ゆっくりと扉が開き、ユリアーノが顔を覗かせる。
「クロード様、ルチア様……」
囁くように声をかけ、視線を彷徨わせた先には……ルチアに抱き締められて、穏やかに寝息をたてるクロードの姿があった。
「え……」
ユリアーノが驚きで目を見開く。
いつもなら足音が近づいただけで目を覚ますクロード様が、扉をノックしても目を覚まさないなんて……
「二人共、幸せそうな顔して寝ちゃって」
クロード様にとって、ルチア様は本当に特別なんだなぁ。
そう思うと、ユリアーノ自身も嬉しさで心が満たされた。
ニッコリと微笑むと、
「おやすみなさい……」
小さく呟き、そっと扉を閉めた。
そこへ、すっと消えそうなくらい細い一筋の光が差し込んだ。
その光を求めて立ち上がり、クロードは歩き出す。
けれど……
歩いても、歩いても、その光には届かない。
やがて、必死に走ってその光を追い掛ける。
「ははぎみっ! ま、まって……まってください!!」
足が縺れ、床に倒れたクロードに、巨大な影が覆い被さる。微かな光は消え、漆黒の闇に飲み込まれた。
空気全体を震わすような声が、一帯に響き渡る。
『あの女のことなど、忘れろ』
『人の感情など、捨てろ。国王になるためにはいらぬものだ』
幼いクロードは耳を塞ぎ、頭を床に沈めて震えている。漆黒の闇が、のしかかるかのように強い力で抑えつけていく。
「やめ、て……」
すると、突然……温かい光がクロードを包み込み、躰にのしかかっていた圧力がふっと消えた。
「クロ……クロード……」
わたしは……このこえを、しっている。
「はは、ぎみ? ははぎみ、なのですか?」
微かに聞こえる柔らかい声に、クロードが顔を上げる。
「だい、じょうぶ……私が、そばに……」
クロードの躰が浮き上がる。温かく包まれていた光にギュウッと抱き締められるような感覚を覚える。
ーーわたしは、このぬくもりをしっている。
クロードは涙を流し、微笑んだ。
「やっと……あえましたね」
目を開けると、クロードは、まるで幼い子供を宥める母親に抱かれるかのように、ルチアの胸に抱き留められていた。
僅かに身じろぐと、ルチアがクロードを見下ろした。
「クロード、様……」
「ルチア?」
ルチアが、クロードの背中に回していた手を外した。
「申し訳ございませんっっ。クロード様が夢で魘されていたので、心配でつい……クロード様のことを抱き締めておりました」
「やはり、お前だったのか」
「え?」
「いや、こちらの話だ」
お前は……過去の、幼い私までも救ってくれたのだな。
離されたルチアの手を、再び背中へと回させる。
「クロード様!?」
「こうしていて、くれまいか? もう少しで……届きそうだったのだ」
「ぇ? ……ぁ、はい」
ルチアの温かな胸に包まれて、クロードは今度は幸せな眠りに墜ちていった。
トン、トン……
扉をノックする音が響く。
暫くしてもう一度、
トン、トン……
今度は遠慮がちに小さくノックする音が響いた後、ゆっくりと扉が開き、ユリアーノが顔を覗かせる。
「クロード様、ルチア様……」
囁くように声をかけ、視線を彷徨わせた先には……ルチアに抱き締められて、穏やかに寝息をたてるクロードの姿があった。
「え……」
ユリアーノが驚きで目を見開く。
いつもなら足音が近づいただけで目を覚ますクロード様が、扉をノックしても目を覚まさないなんて……
「二人共、幸せそうな顔して寝ちゃって」
クロード様にとって、ルチア様は本当に特別なんだなぁ。
そう思うと、ユリアーノ自身も嬉しさで心が満たされた。
ニッコリと微笑むと、
「おやすみなさい……」
小さく呟き、そっと扉を閉めた。
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