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再会
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真っ白な薔薇と蔓が装飾された美しい門をくぐり抜けると、そこには大理石の並ぶ小路が続き、両脇には匂い立つほどたくさんの薔薇が咲き誇っていた。
「まぁっ……」
思わず歓声をあげる。
まるで、夢の世界に迷い込んだみたいですわ……
小路の先にすっと視線を移すと、そこには、ずっと逢いたかった愛しい人の姿が見えた。
「クロード様!!」
思わず駆け出すルチアをクロードが目を細めて見つめ、両腕を開いて迎え入れる。その逞しい胸にルチアが飛び込むと、クロードが優しく包み込んでくれた。クロードの胸に顔を埋めると、彼の匂い、体温を感じてルチアの胸が高鳴る。
ようやく、お会いできました……
「よく来たな」
クロードの甘く優しい響きに、ルチアが顔を上げる。そこには、ルチアを愛しみの籠もった瞳で見つめるクロードの顔があった。こんな甘い顔を見せるなど、ルチアに出会う前は誰も……本人ですら、知らなかった。
お互い惹かれ合うように顔を寄せると、
コホン、コホン……
わざとらしい咳が響いて、ルチアは思わず身を引いた。
「グレートブルタン国のプリンセス、いえ……シュタート王国の王妃殿下、ようこそいらっしゃいました」
クロードの後ろから、執事であるヒューバートが少し顔を赤らめながら歩み寄る。
きっちりと撫で付けた短い黒髪、細面に細く釣り上がった眉、涼しげな瞳に細縁の眼鏡を掛け、血色のない肌、薄い唇のヒューバートは外見と同じく性格も厳しく口調も辛辣だ。だが、クロードだけは特別で、生涯の忠誠を誓い、彼に心頭し、心から敬愛を寄せていた。
「ったく、ヒュービーは無粋だよねー。恋する二人の恋路の邪魔するなんてさ」
「なっ!」
ユリアーノの言葉にヒューバートが眉を顰める。
「き、貴様! 私はただ、プリンセス、いや王妃殿下のご案内をするために……」
「はい、はい……ルチア様の案内はクロード様にお任せすればいいじゃーん」
「国王陛下であるクロード様にそんなこと、させられる筈がないだろう!」
「ここの城、人払いしてるんでしょぉ? 俺達だけでやらなきゃいけないこと、たっくさんあるんじゃないのぉ?」
「うっ……」
悔しそうなヒューバートを一瞥し、クロードが告げる。
「あぁ。ルチアの城の案内は私がしよう」
「ほらほら、ヒュービー行くよ」
「おい、貴様! 馴れ馴れしく私のことをヒュービーと呼ぶな! こら、触るんじゃない!」
ヒューバートはユリアーノに引きずられるように、城の中へと消えていった。
「では、行くか」
「えぇ、よろしくお願いいたします」
クロードに促され、ルチアは城内へと足を運ぶ。
城内も外観と同じく贅を尽くして建てられたものだということがありありと感じられた。大理石の床に、両脇から延びる美しい装飾の施された螺旋階段、城内のあちこちに飾られている絵画や彫像……
なんて、華やかで煌びやかなのでしょう……
無意識のうちにあちこち目が彷徨うルチアにクロードが苦笑し、ルチアは顔を赤らめた。
「本城の他に、こんな別邸があったなんて知りませんでしたわ」
「ああ……ここは、限られた人間にしか明かしていないからな」
クロードは、ルチアの瞳を覗き込んだ。
「ルチア。何か言いたそうな顔をしているが」
どうしましょう。言っても、よいのでしょうか……
「なんでも話せ。お前の考えていることは、全て知りたい」
その言葉に顔を赤らめつつも、意を決してクロードに告げる。
「なんだかこのお城は……クロード様のイメージと違っておりまして、意外でしたので」
クロードの雰囲気が、急に緊張を帯びたものに変わる。
「この城は……前王が建てたものだからな」
前王って……クロード様の、お父様のことですわね……
ルチアは、シュタート王国の歴史について思い出していた。
前王であった、クロードの父が政権を握っていた時代は、まさに暗黒時代だった。
独裁的な専制政治のもと、国王にひれ伏す貴族だけが名ばかりの議会を開き、金と欲に溺れて甘い汁を吸い、国民は高い課税に苦しまされた。クロードはそんな前王を幽閉して新たにシュタート王国と名付け、新国王となったのだった。
だが、国民はそんなクロードに対して信頼を寄せることはなかった。どうせ前国王の息子なのだから、独裁政治が続き、国民は搾取され続けるに違いないと疑いの目を向けていた。頑として国民の前に姿を現さなかったことも、国民の不信を買う一因となっていた。それは、未だに払拭されていない。
クロードが、苦々しい表情を浮かべる。
「あの時代、他にも贅を尽くして建てられた城は幾つかあったが、この城以外は全て取り壊した」
「そう、だったんですの……」
そこで、ルチアはふっと疑問が湧いた。
でも……なぜ、このお城だけはそのまま残しておいたのでしょう。
「なぜ、この城だけ残しているのか、疑問に思っているのだろう?」
「えっ……」
自分が思っていたことをクロードにずばりと言われて、ルチアは戸惑いながらも頷いた。
「は、はい……」
すると、クロードが遠くを見るような目で呟いた。
「ここだけは、取り壊せなくてな。
亡き母君と、唯一過ごした場所だったからな……」
クロード様のお母様との、思い出の場所でしたのね……
「まぁっ……」
思わず歓声をあげる。
まるで、夢の世界に迷い込んだみたいですわ……
小路の先にすっと視線を移すと、そこには、ずっと逢いたかった愛しい人の姿が見えた。
「クロード様!!」
思わず駆け出すルチアをクロードが目を細めて見つめ、両腕を開いて迎え入れる。その逞しい胸にルチアが飛び込むと、クロードが優しく包み込んでくれた。クロードの胸に顔を埋めると、彼の匂い、体温を感じてルチアの胸が高鳴る。
ようやく、お会いできました……
「よく来たな」
クロードの甘く優しい響きに、ルチアが顔を上げる。そこには、ルチアを愛しみの籠もった瞳で見つめるクロードの顔があった。こんな甘い顔を見せるなど、ルチアに出会う前は誰も……本人ですら、知らなかった。
お互い惹かれ合うように顔を寄せると、
コホン、コホン……
わざとらしい咳が響いて、ルチアは思わず身を引いた。
「グレートブルタン国のプリンセス、いえ……シュタート王国の王妃殿下、ようこそいらっしゃいました」
クロードの後ろから、執事であるヒューバートが少し顔を赤らめながら歩み寄る。
きっちりと撫で付けた短い黒髪、細面に細く釣り上がった眉、涼しげな瞳に細縁の眼鏡を掛け、血色のない肌、薄い唇のヒューバートは外見と同じく性格も厳しく口調も辛辣だ。だが、クロードだけは特別で、生涯の忠誠を誓い、彼に心頭し、心から敬愛を寄せていた。
「ったく、ヒュービーは無粋だよねー。恋する二人の恋路の邪魔するなんてさ」
「なっ!」
ユリアーノの言葉にヒューバートが眉を顰める。
「き、貴様! 私はただ、プリンセス、いや王妃殿下のご案内をするために……」
「はい、はい……ルチア様の案内はクロード様にお任せすればいいじゃーん」
「国王陛下であるクロード様にそんなこと、させられる筈がないだろう!」
「ここの城、人払いしてるんでしょぉ? 俺達だけでやらなきゃいけないこと、たっくさんあるんじゃないのぉ?」
「うっ……」
悔しそうなヒューバートを一瞥し、クロードが告げる。
「あぁ。ルチアの城の案内は私がしよう」
「ほらほら、ヒュービー行くよ」
「おい、貴様! 馴れ馴れしく私のことをヒュービーと呼ぶな! こら、触るんじゃない!」
ヒューバートはユリアーノに引きずられるように、城の中へと消えていった。
「では、行くか」
「えぇ、よろしくお願いいたします」
クロードに促され、ルチアは城内へと足を運ぶ。
城内も外観と同じく贅を尽くして建てられたものだということがありありと感じられた。大理石の床に、両脇から延びる美しい装飾の施された螺旋階段、城内のあちこちに飾られている絵画や彫像……
なんて、華やかで煌びやかなのでしょう……
無意識のうちにあちこち目が彷徨うルチアにクロードが苦笑し、ルチアは顔を赤らめた。
「本城の他に、こんな別邸があったなんて知りませんでしたわ」
「ああ……ここは、限られた人間にしか明かしていないからな」
クロードは、ルチアの瞳を覗き込んだ。
「ルチア。何か言いたそうな顔をしているが」
どうしましょう。言っても、よいのでしょうか……
「なんでも話せ。お前の考えていることは、全て知りたい」
その言葉に顔を赤らめつつも、意を決してクロードに告げる。
「なんだかこのお城は……クロード様のイメージと違っておりまして、意外でしたので」
クロードの雰囲気が、急に緊張を帯びたものに変わる。
「この城は……前王が建てたものだからな」
前王って……クロード様の、お父様のことですわね……
ルチアは、シュタート王国の歴史について思い出していた。
前王であった、クロードの父が政権を握っていた時代は、まさに暗黒時代だった。
独裁的な専制政治のもと、国王にひれ伏す貴族だけが名ばかりの議会を開き、金と欲に溺れて甘い汁を吸い、国民は高い課税に苦しまされた。クロードはそんな前王を幽閉して新たにシュタート王国と名付け、新国王となったのだった。
だが、国民はそんなクロードに対して信頼を寄せることはなかった。どうせ前国王の息子なのだから、独裁政治が続き、国民は搾取され続けるに違いないと疑いの目を向けていた。頑として国民の前に姿を現さなかったことも、国民の不信を買う一因となっていた。それは、未だに払拭されていない。
クロードが、苦々しい表情を浮かべる。
「あの時代、他にも贅を尽くして建てられた城は幾つかあったが、この城以外は全て取り壊した」
「そう、だったんですの……」
そこで、ルチアはふっと疑問が湧いた。
でも……なぜ、このお城だけはそのまま残しておいたのでしょう。
「なぜ、この城だけ残しているのか、疑問に思っているのだろう?」
「えっ……」
自分が思っていたことをクロードにずばりと言われて、ルチアは戸惑いながらも頷いた。
「は、はい……」
すると、クロードが遠くを見るような目で呟いた。
「ここだけは、取り壊せなくてな。
亡き母君と、唯一過ごした場所だったからな……」
クロード様のお母様との、思い出の場所でしたのね……
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