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矢野くんの、本当の彼女になりたい……です。

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 真ん中にいた人影が、くるりと振り返る。と同時に、矢野くん以外の足も止まり、周りからの突き刺さるような視線を感じて恥ずかしくなり、俯くと先ほどとは比べものにならないぐらいの小さな声で呼び掛けた。

「ちょっと……いい、かな?」
「あ、うん……」

 矢野くんは周りにいじられながらも、みんなの輪から離れて私の方へと歩いて来た。

「ここじゃ、なんだから……学校、入る?」

 私は黙って頷いた。
 途中でバレー部の後輩たちとすれ違って挨拶されて、萎縮いしゅくしてしまう。絶対明日、すごい噂になってるよね……

「ここで、いいかな?」

 殆ど人がいなくなったグラウンドを見渡せるベンチを指した矢野くんに頷いて座ると、隣に矢野くんも腰掛けた。公園で待ち合わせした時よりもかなり近くて、その距離におたおたしてしまう。

 既に完全に陽が沈み、夕闇が二人を静かに包んでいた。今朝チラついた雪は積もることなくグラウンドをしっとりと濡れさせていて、スニーカーにジンとその感触が伝わってきた。

 矢野くんの吐く白い息が視界に入り、触れそうな程の近い距離に、体全体が心臓になってしまったかのように、全身に鼓動が響き渡る。

「水嶋さん、ごめん……」

 突然の矢野くんの声に、顔を上げた。

「な、んで……矢野くんが、謝るの?」
「昨日、水嶋さんが渡したいものがあるって聞いてたのに、俺、無視するようなことして……
 朝来たら前川いるし、もしかして水嶋さん前川とも待ち合わせしたんじゃないかって考えたら、声掛けられなかった……そんなこと、水嶋さんがするわけないのに。
 水嶋さんが俺のこと見てそわそわしてるのは感じてたけど、どうしても水嶋さんから声かけて欲しいって意固地になって。すげぇ、子どもっぽいよな……」
「そ、そうだったんだ……」

 矢野くんに前川くんのこと、そんな風に思われてたなんて。胸が痛いけど、誤解させてしまった私が悪いんだ。ちゃんと矢野くんに、話してなかった私が……

 俯きかけた私に、矢野くんが「だから!」と大声を上げ、びっくりして肩を揺らす。

 真剣な矢野くんの瞳が、真っ直ぐに私を見つめている。

「だから、部活の練習の時水嶋さんが教室の窓から見てるのに気づいて、すっげぇ嬉しかったんだ!
 水嶋さんが俺のこと待っててくれてるって分かってすぐに会いに行くつもりだったのに、部員に捕まっちまって。校門のところであいつらと別れて学校戻ろうって考えてたら、水嶋さんが声かけてくれてビックリした」

 矢野くんの言葉に、私の顔から一気に血の気が引いていく。

 あのまま待ってても矢野くんに会えてたのに、みんなの前で大声で呼びかけたりして、すっごい恥ずかしいことしちゃった……

「すっげぇビックリして……
 すっげぇ、嬉しかった……」

 隣にいる矢野くんの耳が赤くなって、キュッと唇が結ばれる。前髪が風に揺られて、滅多に見られない矢野くんのおでこが見えた。

「そ、そうなんだ……」

 勇気出して、良かった……

「あ……のさ、何……だった?」
「え?」

 顔を上げた私に、矢野くんの顔がカーッと赤くなっていく。

「……その……何か、渡したいものが……ある、って……
 あ! ごめん、何言ってんだ俺」

 う、うわぁ……可愛い……

 思わずそんな風に感じて、じっと矢野くんを見つめてしまう。すると、矢野くんが私の目の前に手を翳した。

「ちょ……そんな、見ないで」
「あ! あぁ、ごめんなさい……」
「い、いや……そうじゃ、なくて……照れる、ってゆうか……」

 恥ずかしがってる矢野くんに、私まで恥ずかしくなってしまって。なんだろう、嬉しくて幸せなのに、胸が締め付けられて……苦しい。

「ぁ。あの……これ……」

 スクールバッグからプレゼントを丁寧に取り出し、矢野くんに渡した。


「バレンタインの……チョコレート、なんですけど……」

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