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特別な存在

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 それにしても……すごくリアルな夢だったな。

 教室の風景や小金井先生の授業、生徒達の様子だけじゃなく、音や匂いや感触まで本当にそこにいるかのように感じた。

 ただ、みんなが座ってる場所は違ってたけど。私が座ってるのは窓側後ろから2番目ではなく、廊下から2列目の3番目で、矢野くんは真ん中の列の2番目に座っている。
 
 24歳の私が見られなかったのは、残念だったかも……
 大人になった私は、いったいどんな風になってるんだろう。

 夢の中で多恵ちゃんから回ってきたメモには、『矢野が別れたいって言ってる』ってことが書かれてるって大人の私が言ってたけど……別れを告げられるどころか、告白すらされてないのに。

 そもそも、私が矢野くんと付き合えるはずなんてないのに。
 どうしてあんな夢、見たんだろう。

 あまりにも強烈な余韻よいんに、この夢には何か意味があるのかもしれない……なんて、ファンタジーみたいな考えまで浮かんでしまう。

 ふと思い立ち、体を起こすとサイドテーブルの引き出しに入れて置いた大学ノートとペンを取り出した。思い出せる限りに夢の詳細を記し、そこに机の並び順も描いた。

 書き終えてからもう一度読み返し、ノートとペンを引き出しにしまってベッドに横になる。

 この夢って……私の願望があらわれたのかな。

 そりゃぁ、もし矢野くんから告白されたらもちろん嬉しいし、付き合えたらすごいって思うけど、そんなこと叶うわけないって分かってるつもりだったのに。なんて図々しいんだろ。

 でも……どうせ夢なら、矢野くんと楽しく付き合っているようなのが良かったな。恋人の時の楽しい場面なんて何もなく、いきなり別れを告げられるなんて、悲しすぎるよ。

 もし……もしも、矢野くんと恋人になったら、どうなるんだろう……

 学校帰りに二人で並んで歩いたり、動物園でライオンを一緒に見てるところや、プリクラでちょっと恥ずかしそうにしながらも嬉しそうにポーズ撮ってる姿が浮かんできて、そんな想像にうわぁぁぁと恥ずかしくなってシーツに潜り込んだ。
 シーツから顔を出し、冷静になろうとしてると、夢の中の大人の私が叫んだ言葉が耳の奥でこだました。

『矢野くんに、本当の自分の気持ち伝えなくてどうすんのよ!!』

 中学生の私が矢野くんに対して何も出来なかったことをずっと後悔してたって、言ってた。彼女の表情は見えなかったけど、その声には悲痛な叫びのようなものが含まれていた。

 ツンと鼻の奥が痛くなり、キューッと胸が縮こまるように苦しくなる。

 大人になった私は、私に何か訴えたかったの? 
 それとも、単なる夢だったの?

 答えの出ないまま睡魔が覆いかぶさってきて、引き摺られるように瞼を閉じていた。
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