過去を捨てた代償

奏音 美都

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過去を捨てた代償

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 東京に着いて2日目、早速宝クジの換金に行った。

 緊張で目眩と吐き気がして足がガクガク震えたが、まるで夢をみているように全てが流れるように終わった。銀行を出た私の手元には、宝クジの代わりに「宝クジ当選証明書」と「【その日】から読む本」という、当選者の心得のような冊子があった。

 だが、肝心の当選金の受け取りには2週間かかると言われ、予想外のことに落ち込んだ。一応貯金はしていたが、バイトをしていなかったので、それほど手持ちのお金はない。

 知子もそれを聞いて、ガッカリしたようだった。冊子によれば、宝クジには税金はかからないが、そのお金を誰かにあげた場合には贈与税がかかると知り、知子にお金を分けて支払うことを提案した。だが、税金がかかってもいいからお金は一度に受け取りたいと一蹴された。

 節約の為、2週間はホテルとコンビニをひたすら往復することになった。

 それと、事前に無料カウンセリングを申し込んでおいた美容整形外科へ行った。医師は気さくで、こちらの緊張を解く術を心得ているかのようだった。私みたいな人に慣れているんだろう。

「どこをどのようにしたいですか?」

 そんなこと言われても、困る。全部、なのだ。私の原型がなくなるほど、全て変えたい。

 私は長時間に渡り、医師と細かい施術の打ち合わせをした。切開法で二重にし、瞼の脂肪を取り、プロテーゼ挿入法により鼻を高くし、耳から採取した軟骨を使って鼻先を整える。唇をふっくらとさせ、エラを削り、シリコンジェルバッグで豊胸し、脂肪吸引で痩身することになった。

 手術は二週間後に決まった。その後、無事当選金を受け取り、施術に臨んだ。当然一回では終わらず、幾度にも渡って施術を受けることになった。

 だが、そのかいあって、私は別人に生まれ変わった。街を歩いていても、皆の視線が私に集まるのが分かる。嫉妬と羨望の眼差しを浴び、快感で躰がゾクゾクするのを感じた。

 その後、大手のモデル事務所にスカウトされ、『AILA』という名で、あっという間にトップモデルとしての道を着実に歩んでいった。ブスだった頃は内気で何も言えない性格だったのが、美人に生まれ変わった途端、嘘のように明るくなった。美人でお洒落な友達に囲まれ、いつも男性にチヤホヤされ、皆の注目を浴びる日々に夢中になった。

 知子には、当選金が入った後お金を振り込んだと連絡したが、それからは互いにあまり連絡をとることはなくなった。両親が何も言ってこないのが不思議だったが、私は今の生活を楽しむことにしか興味がなく、地元のことは記憶の彼方に置き去った。

 楽しい、楽しい、毎日が楽しくて仕方がない。あの宝クジのおかげで、本当にいい運が巡ってきたのだ。
 もう、惨めな、卑屈な思いはしなくてもいいのだ。
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