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過去を捨てた代償
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高校卒業式。
ついにこの日がやってきた。皆とは別の意味で心がソワソワと落ち着かない。式に母も出席していたが、この後、拓海のお母さんとカラオケに行くと言ってたので、夜まで確実に帰ってこない。
式後、寂しさを分かち合う友達もいない私は、写真を撮り合ったり、お別れの言葉を掛け合うこともなく、真っ直ぐに校門まで歩いて行く。
「おい、美麗」
早足で歩く私の後ろから、聞きなれた声が掛けられた。
「拓海……」
急いでる時に、なんなのよ、もう。
拓海の学生服のボタンは上から下まで根こそぎなくなり、真っ白なTシャツが見えていた。そんな姿さえもカッコよく見えてしまうのだから、つくづく腹が立つ。
「どこ、行くんだよ。これからみんなでカラオケ行くんだけど、美麗も行かねぇか?」
でた、お節介。拓海はいつも私がクラスに溶け込めるようにと世話を焼く。
いつもなら愛想笑いして適当に断るのに、今日はなぜか苛々とした気持ちが込み上げてくる。
「私がカラオケに行くなんてクラスの誰もが望んでないし、私もそんなとこ行っても居心地悪いだけって分からない?
はっきり言って迷惑なの。もう、ほっといてよ!」
それを聞いて、拓海がハッとする。
「俺は……なんかお前のことほっとけねぇんだよ……」
そう言って、寂しそうな苦しそうな表情を見せた。そんな顔をされてどうしていいか分からず、思わず顔を背けた。
「頭が痛いの。帰るね」
「お、おい……大丈夫か? ひとりで帰れんのか?」
あんなキツイ言葉を投げかけたのに、まだ優しくしてくれる拓海に心が痛くなって、早くこの場を離れたかった。
「家に帰って薬飲めばすぐにおさまるから、気にしないで」
その時、拓海を遠くから呼ぶ声が聞こえてきた。
「ほら、友達呼んでるじゃん。行ってきなって。みんな拓海が行くの待ってるよ」
「おぅ……じゃ、大学で……また、な」
「……うん」
まだ何か言いたげにしながらも、拓海はみんなが呼ぶ方へと歩いて行った。
拓海に何も言わずにここを去ることを少し申し訳なく思いながらも、私は足早に学校を後にした。
東京までは、呆気ないほどスムーズな道のりだった。駅まで向かう途中、知ってる人に会ったらと思ってビクビクした。けれど、誰にも会うことなく、予定していた電車に乗り、新幹線に乗るとあっというまに東京に着いてしまった。
事前に予約しておいたビジネスホテルにチェックインし、部屋に入った途端、緊張の糸が解けてようやく心から安堵の息を吐いた。
今頃、お父さん、お母さんは何してるんだろう。私がいなくなってパニックになってるかな。もしかしたら、もう既に警察に届けが出てるかもしれない……
ううん、大丈夫。知子には話しておいたんだから、きっとあの子が上手くやってくれるはず。
知子には、1億円入ったら、そのうちの2000万を渡すと言ってあった。
♪♪♪
ホテルの電話が突然鳴った。緊張しながら、おずおずと電話をとる。
「……もしもし」
「もしもし、美麗? 東京はどう?」
やけに明るい声に動揺しながらも、そんな素振りは見せずに答える。
「う、うん……そっちは、大丈夫?」
「ふふっ、上手くいったよ」
知子の話では、私を偽って電話を掛け、実は密かに東京の専門学校の試験を受けていて、卒業を機に上京したのだと両親に説明したとのことだった。
「めちゃめちゃ怒られたけどね。なんとか言いくるめたわ」
私たちの唯一の似ている要素、それは声質だ。声だけ聞いていると、どちらがどちらの声か分からない。喋り方の癖とかで聞き分けは出来るが、真似たら親でも間違う程だ。
とにかく、私は何もせずに東京での暮らしを確保できたようだ。東京での暮らしを見たいと両親が言い出すことがあるかもしれないが、それはまた別の時に考えればいい。知子が私の家出を知り、共犯者となってくれたことに感謝した。
ついにこの日がやってきた。皆とは別の意味で心がソワソワと落ち着かない。式に母も出席していたが、この後、拓海のお母さんとカラオケに行くと言ってたので、夜まで確実に帰ってこない。
式後、寂しさを分かち合う友達もいない私は、写真を撮り合ったり、お別れの言葉を掛け合うこともなく、真っ直ぐに校門まで歩いて行く。
「おい、美麗」
早足で歩く私の後ろから、聞きなれた声が掛けられた。
「拓海……」
急いでる時に、なんなのよ、もう。
拓海の学生服のボタンは上から下まで根こそぎなくなり、真っ白なTシャツが見えていた。そんな姿さえもカッコよく見えてしまうのだから、つくづく腹が立つ。
「どこ、行くんだよ。これからみんなでカラオケ行くんだけど、美麗も行かねぇか?」
でた、お節介。拓海はいつも私がクラスに溶け込めるようにと世話を焼く。
いつもなら愛想笑いして適当に断るのに、今日はなぜか苛々とした気持ちが込み上げてくる。
「私がカラオケに行くなんてクラスの誰もが望んでないし、私もそんなとこ行っても居心地悪いだけって分からない?
はっきり言って迷惑なの。もう、ほっといてよ!」
それを聞いて、拓海がハッとする。
「俺は……なんかお前のことほっとけねぇんだよ……」
そう言って、寂しそうな苦しそうな表情を見せた。そんな顔をされてどうしていいか分からず、思わず顔を背けた。
「頭が痛いの。帰るね」
「お、おい……大丈夫か? ひとりで帰れんのか?」
あんなキツイ言葉を投げかけたのに、まだ優しくしてくれる拓海に心が痛くなって、早くこの場を離れたかった。
「家に帰って薬飲めばすぐにおさまるから、気にしないで」
その時、拓海を遠くから呼ぶ声が聞こえてきた。
「ほら、友達呼んでるじゃん。行ってきなって。みんな拓海が行くの待ってるよ」
「おぅ……じゃ、大学で……また、な」
「……うん」
まだ何か言いたげにしながらも、拓海はみんなが呼ぶ方へと歩いて行った。
拓海に何も言わずにここを去ることを少し申し訳なく思いながらも、私は足早に学校を後にした。
東京までは、呆気ないほどスムーズな道のりだった。駅まで向かう途中、知ってる人に会ったらと思ってビクビクした。けれど、誰にも会うことなく、予定していた電車に乗り、新幹線に乗るとあっというまに東京に着いてしまった。
事前に予約しておいたビジネスホテルにチェックインし、部屋に入った途端、緊張の糸が解けてようやく心から安堵の息を吐いた。
今頃、お父さん、お母さんは何してるんだろう。私がいなくなってパニックになってるかな。もしかしたら、もう既に警察に届けが出てるかもしれない……
ううん、大丈夫。知子には話しておいたんだから、きっとあの子が上手くやってくれるはず。
知子には、1億円入ったら、そのうちの2000万を渡すと言ってあった。
♪♪♪
ホテルの電話が突然鳴った。緊張しながら、おずおずと電話をとる。
「……もしもし」
「もしもし、美麗? 東京はどう?」
やけに明るい声に動揺しながらも、そんな素振りは見せずに答える。
「う、うん……そっちは、大丈夫?」
「ふふっ、上手くいったよ」
知子の話では、私を偽って電話を掛け、実は密かに東京の専門学校の試験を受けていて、卒業を機に上京したのだと両親に説明したとのことだった。
「めちゃめちゃ怒られたけどね。なんとか言いくるめたわ」
私たちの唯一の似ている要素、それは声質だ。声だけ聞いていると、どちらがどちらの声か分からない。喋り方の癖とかで聞き分けは出来るが、真似たら親でも間違う程だ。
とにかく、私は何もせずに東京での暮らしを確保できたようだ。東京での暮らしを見たいと両親が言い出すことがあるかもしれないが、それはまた別の時に考えればいい。知子が私の家出を知り、共犯者となってくれたことに感謝した。
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